東日本大震災と人間環境学部

2017年度

東日本大震災と人間環境学部

とにかく考えてみよう

人間環境学部では、教職員と学生の共同企画として「とにかく考え てみよう」という企画を実施しています。エネルギー問題について、地域 社会のあり方について、持続可能な社会の可能性について、ドキュメンタリ ー映画を   見て、ともに議論しようという催しです。

第14回「とにかく考えてみよう」

「法政大学・人間環境学特別セミナー:ドキュメンタリー映画を見 て、震災後の日本社会を考える」第14回(2017年7月1日) は、フランスにおけるムスリム系マイノリティに対する人種差別と フランス社会に特有の問題である「ライシテ(=非宗教性、政教分 離)」、そして女性解放というテーマをあつかった映画『 スカーフ論争――隠れたレイシズム』をとりあげました。 

在アルジェリア日本国大使館専門調査員の茨木博史氏による講演(1)

第二次世界大戦後、フランスには大量の移民労働者がマグレブ地方 と呼ばれる北アフリカから数多くやってきました。その後、「移民 第二世代」が現れ、学校にイスラミック・スカーフを着用して登校 する生徒も現れました。ところが、このことが次第に問題視される ようになりました。フランスには、「ライシテ」 と呼ばれる原則があります。スカーフを問題視するのは、「公立学 校でイスラミック・スカーフを着用することを、政教分離の原則や 男女平等の原理に反する」というのが理由です。しかし実は、この 「スカーフ問題」は、このようなライシテや男女平等などのフラン スの共和国原理そのものだけではありません。むしろ、階層格差の 拡大や雇用の不安を背景にしたマイノリティ(とりわけムスリム系 マイノリティ)への差別、ならびに性差別の構造が大きく根底とし て横たわっていることがわかります。 

在アルジェリア日本国大使館専門調査員の茨木博史氏による講演(2)

したがって、本作は2004年の作品ですが、2005年10月に 起こった「パリ郊外暴動事件」や、2015年の1月の「シャルリ ・エプド襲撃事件」、および同年11月の「パリ襲撃事件」、そし て近年のシリアなどの中東諸国からの難民問題なども、この「スカ ーフ論争」とはけっして無関係ではありません。さらに、日本もま た移民社会でありますし、そのうえ昨今、「研修」という名の下に 劣悪な労働環境に置かれている外国人労働者の存在などの問題を考 えると、この問題は日本社会においても無縁の話ではないのです。

茨木氏と、司会の本学部の竹本研史教員

さて、ご講演後のディスカッションでは、茨木氏に対して数多く寄 せられた質問を出発点に、「ライシテ」 そのものやフランス社会におけるムスリムに対する根底的な差別に ついて熱い議論が交わされました。他方、 日本社会における差別の問題との比較も示唆されました。また、 力強く論理的に意見を述べていくフランスの高校生の姿そのものへ の驚きもありました。

こうした差別構造をなくすためには、具体的な他者1人1人と出会 い、その他者とお互い理解しあう努力が重要であると、参加者の皆 さんから強く提起されました。

参加者も交えた討議。左端は本学部の武貞稔彦教員

第15回「とにかく考えてみよう」

「法政大学・人間環境学特別セミナー:ドキュメンタリー映画を見て、震災後の日本社会を考える」第15回(2017年11月16日)は、1人の「食材救出人」が、食料廃棄をなくすため、ヨーロッパ5カ国の廃棄食材クッキングの旅に出る、エンターテイメント・ロードムービー、『0円キッチン』をとりあげました。今回はゲストとして、本学部卒業生で発酵料理家の真野 遥さんをお招きしてお話を伺いました。 

ゲストスピーカーの真野遥氏(本学部卒業生、発酵料理家)

国際連合食糧機関(FAO)が2011年に発行した Global Food Losses and Food Waste によると、世界では、毎年約13億トンもの食料が食べられずに捨てられています。これは世界の食料の約3分の1にあたります。一方、世界の各地では、貧困と食糧危機がつねに問題となっています。現在、フードロスが問題となっているなかで、持続可能な社会を実現していくために、世界全体でどのように取り組んでいくべきなのか、また、私たちが日常生活のなかで意識しながらできることは何かについて、本作を鑑賞しながら、教職員、ゲスト、学生のみなさんと一緒に考えました。 

上映後、真野さんからは、フードロスに対する日本の企業の取り組みが紹介される一方、フードロスの問題についての意識化の必要性が訴えかけられました。また、ギャラリーからは、これまでの回以上に学生たちからの活発な意見が交わされ、理念と同時にフードロスを防ぐ制度化の必要性や、ボランティアとは何かなどといったテーマが論じられました。

真野氏のお話に熱心に耳を傾ける参加者

石巻フィールドスタディ:震災と地域再生-石巻市内と北上町の震災復興の現在-

人間環境学部では、東日本大震災以降、宮城県石巻市での震災ボランティアと、現地学習(フィールドスタディ)を行っています。2017年9月1日~4日に、「震災と地域再生-石巻市内と北上町の震災復興の現在-」というテーマで、フィールドスタディを行いました。 

震災支援活動を学ぶ

石巻市街地では、NPO法人みらいサポート石巻、NPO法人ピースボートセンターいしのまきの震災支援活動を学び、また、街歩きや震災語り部の方の話を聞きながら、震災の記録、記憶の伝承のあり方について可能性と課題を考えることになりました。一方、同市北上町においては、一般社団法人ウィーアーワン北上、北上町復興応援隊の協力のもと、北上町の生業復興、集団移転の現状を学びました。昨年、同様に3日目に実施した大室地区でのバーベキューは、地元の方も大勢参加し、北上町の方との交流もすることができました。最後に、みやぎ連携復興センター(仙台)で、復興支援全体の流れと枠組みについて学びました。 

人間環境学部では、石巻市との継続的なかかわりから、震災復興にどのようなことができるのか、さまざまな観点から考えていきます。 

津波浸水域を歩く

  • 大室テントにおける漁業体験

  • 最終日の発表会

人間環境学部FSRフォーラム

FSRとは、CSR(企業の社会的責任)という考え方をふまえ、人間環境学部が学部のポリシーとして果たすべき社会的責任を表明するための造語です。