東日本大震災と人間環境学部

2013年度

東日本大震災と人間環境学部

とにかく考えてみよう

教職員と学生の共同企画である人間環境学特別セミナー「とにかく考えてみよう」は、ドキュメンタリー映画を見て、ともに議論する催しです。これまで『ミツバチの羽音と地球の回転』、『内部被ばくを生き抜く』(ともに鎌仲ひとみ監督)、『100,000年後の安全』、『Nuclear Nation』『第4の革命』といった作品を上映したほか、監督や関係者を招いてパネルディスカッションを開催しました。

 2013年度の活動を以下に掲載いたします。

第7回「とにかく考えてみよう」(ドキュメンタリー映画を見て、震災後の日本社会を考える。)

7月20日(土)に第7回目の人間環境学部特別セミナー「とにかく考えてみよう」を開催いたしました。

人間環境学特別セミナーでは、これまで原発やエネルギー問題を主として取り上げてきましたが、今回は2005年にイギリスで始まった地域社会活性化の取り組みであるトランジション・タウン運動を扱った「In Transition 2.0」を通じて、新しいコミュニティのあり方や人びとのつながり方について考えました。

開会の挨拶をする辻 人間環境学部准教授

トランジション・タウン運動は、2005年にイギリスで始まった少人数の市民グループによる地域活性化活動です。活動の内容は都市菜園、地域通貨、再生可能エネルギーなどさまざまですが、これまでの生活スタイルを変えることで持続可能な社会を作ろうとしている点では共通しています。現在全世界で公式に認められたものだけで500近い団体が活動しています。

In Transition 2.0を上映しました。

「In Transition 2.0」の上映会の後、NPO法人トランジション・ジャパンより加藤俊嗣氏をお招きし、講演会を開催しました。 これまでの暮らしのあり方を真摯に見つめなおし、子どもたちの未来、食の安全、エネルギーの自給、お金の地域内循環など、自分たちの力でしなやかで持続可能な地域社会を創ろうというムーブメント「トランジションタウン」の世界各地での取り組みを通じて、震災後の日本でどう暮らしていくか、未来のための行動を誰とどのように行っていくかを考え話し合いました。教員・学生・一般から80名の参加があり、長時間にわたって熱い議論が続き、盛況の内にセミナーは終了いたしました。

加藤俊嗣氏(NPO法人トランジション・ジャパン)にご講演頂きました。

第8回「とにかく考えてみよう」(ドキュメンタリー映画を見て、震災後の日本社会を考える。)

第8回目のトニカンでは、『イエローケーキ――クリーンなエネルギーという嘘』をとりあげました(2014年1月11日実施)。
この映画は2011年5月、東京電力福島第一原子力発電所事故後に公開され、製作国土いつだけでなく日本でも大きな話題になりました。国際的なビジネスとして展開されているウラン鉱石の採掘と精製のもたらす影の部分を描き出した力作です。旧東ドイツからアフリカのナミビア、オーストラリア、カナダといった世界各地のウラン鉱山へと舞台は広がり、原子力発電の燃料になるウランの精製が、いかに周囲の自然環境を破壊し、労働者や住民に健康被害をもたらしているかが明らかにされます。
この映画は衝撃的な内容ではありますが、結論はあえて提示されず、そのメッセージを観客ひとりひとりがどう受け止めるか、問題を投げかけています。観おわったあと映画の内容について議論することが必要であるという点で、まさにトニカンにふさわしい作品でした。
今回は、この映画の公開時に字幕を作成された渋谷哲也氏(東京国際大学)にお話をうかがいました。いかに事実に忠実であるとはいえ、膨大な取材内容から取捨選択して製作されるドキュメンタリー映画は、そこに監督の意図が投影されます。それをどのようにくみ取るべきか、貴重なアドヴァイスをいただきました。

宮城県石巻市北上町への支援活動

法政大学人間環境学部では、NPO法人PARCICと提携して宮城県石巻市における震災ボランティア活動を続けています。 2013年度は、昨年度に引き続き、同じ石巻市の北上町において「生業支援・学習支援から復興を考える」というフィールドスタディを実施しました。 8月5日~10日、8月19日~23日の2回にわたり、計8名の学生が現地入りし、地元の方の野菜作りや漁業を支援する一方で、仮設団地に暮らす子どもたちの学習を手伝ったり一緒に野山で遊ぶといった活動を行いました。ボランティアは初めてという学生もいますが、なかには昨年につづき2度目の参加となった者もいます。そんな学生たちがこの活動を通じて感じ、考えたことをレポートにまとめました。下のリンクから読むことができます。

参加学生による活動報告書

人間環境学部では、宮城県石巻市において、NPO法人PARCICと提携し、特別フィールドスタディとして震災ボランティア活動を実施しました。今回は参加した学生による報告書を紹介いたします。

法政大学人間環境学部・ミニシンポジウム-福島の食と農の再生-

 2014年2月4日に、「法政大学人間環境学部・ミニシンポジウム-福島の食と農の再生-」が実施されました。参加者は 20名程度でしたが、福島の食と農の再生の実際に関して学び、多様な論点が出されました。

石井秀樹さん(福島大学)からは、「放射能汚染からの食と農の再生を」というタイトルで講演をしていただきました。以下、その概要です。

  • 農作物の放射性物質を低減させるためには、流通する食品の放射能検査と、農地の実態把握・栽培品目の選定、栽培条件の制御といった生産対策の2つをしなければならない。それぞれの強みと弱みがあり、相乗効果を発揮するような推進が重要になる。
  • 放射能リスクを軽視してはいけないが、福島とチェルノブイリの事故の規模、性質、影響力が異なっていることは、理解する必要がある。
  • 震災直後、ヒマワリなどの植物による「除染」が喧伝されたが、その効果は実験の結果、乏しいことが明らかになった。また、水稲試験栽培実験から、稲のセシウム吸引要因は、土壌中のカリウム不足と水源のセシウム濃度が大きい。前者はカリウム肥料がよく効くが、後者は別の対応が必要となる。このような実験結果から、放射線物質の分布マップ、それを元にした営農指導によって、福島の農の再生の可能性が拓かれる。
  • 福島の農の再生に関しては、中長期的視点にたった対策の合理化が急務である。例えば、カリウム肥料による稲の低減対策や、全袋検査の実施は、いつまで継続すべきか、いつまで補助金がでるのかといった点は、科学的なエビデンスに基づき判断すべきで、そうしないと不安が増大する。農地の放射能測定・土壌計測、栽培時のセシウム吸収抑制対策、全数全袋検査をデータベース化し、相互連動的な対策が求められる。

次に、ハワイ大学マノア校・女性学部の木村あやさんに、コメントを頂きました。以下、その内容の概要です。

福島の農と食の復興ということが言われるが、描かれているビジョンが多様であることを注視する必要がある。災害は新自由主義的介入を容易にする。Disaster Capitalism (c.f. Klein, Gothamand Greenberg)は「強い農業」を指向する政策と無縁ではない。対してFood Democracyという概念を紹介したい。食の安全性や農法、品質だけを問題視するとグリーン購入(Green Consumerism)に帰着しがちだが、それでは食全体を構造的に改善するものにならないという反省から生まれたものだ。消費者ではなく市民へ、が求められている。ここで大切なのは市民が食、農の意思決定に参加する、できることである。この点から放射能対策も考察される必要がある。食品や農産物の汚染データの蓄積が大切であると指摘されているわけだが、データの有無だけでなく、データのデザインとオーナーシッップが民主的であるかどうかも問うべきだ。

シンポジウムを終えて

 「農学栄えて、農業廃れるでは許されない!」という石井さんの発言は、非常に説得力のあるものでした。筆者の専門である社会学に対しても同様のことがいえると感じました。震災以降、社会学的な調査研究および論考が多く出されていますが、「被災地」を「外」から眺め、「被災地巡り」をしながら、現地の表層部を繰り抜き、大きな視点に回収して論じようとしたり、既存のあるいは新奇の学術的な概念にトレースして分析したりしていく議論も散見されます。このような「つまみ喰いのような調査研究」とは一線を画し、「大震災の現場に対して、学問(社会学)は何をするのか」ということを改めて徹底的に問う姿勢を貫くべきではないでしょうか。それは、地域住民とともに復興について考え、調査によって失敗例やその先を予想しつつ、今後の復興のシナリオを考えながらも、それを住民に押しつけることなく、寄り添っていくスタンスです。難しい課題ですが、石井さんの講演を伺い、その一つのあり方を見いだしたように思いました。

西城戸誠(法政大学人間環境学部)

人間環境学部FSRフォーラム

FSRとは、CSR(企業の社会的責任)という考え方をふまえ、人間環境学部が学部のポリシーとして果たすべき社会的責任を表明するための造語です。