2024年度実施フィールドスタディコース

生活用品と建物から考える人と社会

2024年度実施フィールドスタディコース

2024年度FS「生活用品と建物から考える人と社会」担当教員:板橋美也

このFSは「生活用品と建物から考える人と社会」というテーマで、計6回の事前・事後授業、計4回の現地訪問(全て都内日帰り)を行いました。私たちが日々ありきたりなものとして目にし、通り過ぎ、利用している生活用品や建物は、その時々の人々の生活や社会を色濃く映し出すと同時に、それらを形作ってきたものでもあります。そうした生活用品や建物に改めて注目し、保存・展示している施設を訪問し、考察することで、日常的なものを通して人と社会の関係性について考える視点を身につけることを目指しました。FSの前半を生活用品編、後半を建物編として実施しました。
まず、前半の生活用品編の事前授業として近代以降のデザイン史に関する講義と訪問予定の施設に関する説明を行い、参加者各自に現地訪問で特に着目したい点について考えてもらいました。そして、まず現地訪問1回目として目黒区駒場の日本民藝館と旧前田侯爵邸を訪れました。日本民藝館は、大正時代以降、思想家・柳宗悦を中心とした民藝運動の人々が、従来とりたてて注目されてこなかった民衆の生活用品(=民藝)の美に注目し、全国各地や海外から収集してきた民藝の品々を保存・展示している施設です。旧前田侯爵邸は、昭和初期の華族の生活を彷彿とさせる壮麗な大邸宅で、迎賓用の和館と家族の生活の場であった洋館それぞれに施された意匠や生活用品から、近代以降の日本における生活の西洋化の一側面を知ることができます。現地訪問2回目では、大田区にある昭和のくらし博物館を見学しました。ここは、生活史研究者・小泉和子氏がかつて家族と共にくらしていた家とその家財道具一式を、昭和30年代の暮らしが再現される形で展示する博物館です。保存されている家自体が、戦後間もない頃の住宅難解消策として建てられた公庫住宅の典型例であり、その間取りからも当時の生活様式をうかがい知ることができます。これらの現地訪問後、2回の事後授業を行い、参加者たちはグループに分かれて現地訪問の中から関心をもったテーマ(展示方法の違いから分かる生活用品に関する思想の共通点と相違点、民藝運動の「用の美」とモダニズムの機能主義、戦前の日本の華族の邸宅に見られる西洋化の過程)について調査し、グループ発表としてまとめました。
後半の建物編でも、事前授業として近代以降の日本の住まいを中心とする建築史と歴史的建築物の保存をめぐる課題、訪問予定の施設に関する説明を行い、参加者各自に現地訪問での着眼点について考えてもらいました。まず訪れたのは小金井市にある江戸東京たてもの園で、広大な敷地の中に、主に江戸時代から戦前にかけて日本各地に存在していた建物のなかで歴史的価値が高いとされるものが移築保存されています。江戸時代の農家、明治時代以降の洋風住宅、近代和風住宅、モダニズム住宅、店舗付き住宅など、多様な住宅建築の内部に実際に入って見学することで、江戸時代以降の日本人の戸建て住宅での生活様式の変遷を、様々な角度から体感することができました。次に訪れた北区のURまちとくらしのミュージアムは、かつて首都圏各地にあった集合住宅の一室を移築保存している施設です。関東大震災後の復興住宅として建てられた同潤会アパートに始まり、戦後の日本住宅公団によって建てられた蓮根団地や晴海高層アパートなど、当時の最先端の設備と間取りを備えた集合住宅の一室に実際に入って見学することで、戦後、西洋化・近代化が多くの日本人の生活に浸透していく過程を知ることができました。生活用品編と同様に、その後の2回の事後授業で参加者たちはグループに分かれて関心をもったテーマ(まちづくりと復興から考える集合住宅、間取りの変遷にみる日本の家族や生活の変化)で調査し、グループ発表としてまとめました。
最後の事後授業での振り返りやレポートから、今回のFSを通して、参加者それぞれが、過去の日本人の生活のあり方から現代の私たちが学ぶべきこと、日常的で見過ごされがちなものにこそ人々の生活や社会の本質が凝縮されていること、を学び体感する機会になったことがわかりました。また、施設によっては昔の生活用品に実際に触って使ってみたり、実物の建物や部屋でスケール感、風通し、日当たり、寒暖差を実感したりするなど、実際に現地で体感することによって可能な、FSならではの学びを得ることができました。
 

  • 旧前田邸

  • 昭和のくらし博物館

  • 江戸東京たてもの園

  • URまちとくらしのミュージアム