人間環境学部について

学部長メッセージ

人間環境学部について

 人間環境学部は、持続可能性を考える学部です。1999年に創設され、昨年に学部創設25周年を迎えた、法政大学では比較的若い学部です。
 持続可能性などというと、最新の考え方のように思うかも知れません。しかし、この概念は決して新しいものではありません。たとえば、私の専門であるドイツの歴史では、今から300年以上前の昔のプロイセンという国の林業に関するある著作に、森林資源の「持続可能な利用」という言葉が使われていますし、200年くらい前の別の本には次のような一節が出てきます。「将来の世代が少なくとも現在の世代が得られるのと同じだけの利益を森林から得られるようにしなければならない」。この考え方は、当時普通に行われていた、森林を皆伐してその資源を根こそぎ利用してしまうことへの批判から生まれたものですが、現在の持続可能性の考え方と共通するものがあると言ってよいでしょう。
 持続可能性という言葉そのものが広く使われるようになったのは、今から50年ほど前の1970年代以降のことです。石油ショックをきっかけに高度経済成長が終焉し、「成長の限界」が指摘されるなど経済成長一本槍の社会のあり方について反省の機運が生まれた時期でした。その後数十年にわたる紆余曲折を経て現代の世界ではあらたな社会像としての「持続可能な開発」はひとつの国際的なコンセンサスとなりつつあります。こうしてみると、持続可能性という概念は、時代こそ違えど、その都度当たり前だったそれまでのやり方を反省し、新しい社会の可能性を模索しようとする姿勢と深い関係があることがわかります。
 持続可能性への挑戦には、自らの過去に対する根源的な問いかけと批判的分析が欠かせません。その一方で、現代の日本では「未曾有の」、「想定外」といった言葉が使われることがあります。現在我々が直面している状況はこれまでになかったものである、これまでの常識や考え方では現在の問題は解決できないのだ、という意識がそこには込められているようです。しかし、本当にそうでしょうか。どのような危機的な状況にも原因があり、過去の経緯があります。そうした歴史を十分に吟味しないで、未曾有や想定外といった言葉にとらわれすぎると、過去にさかのぼって現代の問題の原因を究明していく姿勢をおろそかにしてしまうことになり、結局は正しい結論を導き出せないのではないでしょうか。
 人間環境学部はいわゆる「環境学」を学ぶところではありません。この学部での学びは、○○学というような明確な境界線で区切れるようなものではありません。ここで重要になっているのは、ある知的な態度です。つまり、持続可能性を考えることは、われわれの生きている現実を真摯に見つめ、その過去の経緯を含めた全体を冷静に分析し、問題点を見つけて反省する、それに基づいて未来の予測を立て、改善点について考えていく、という姿勢そのものなのです。

人間環境学部長 辻 英史

人間環境学部長 辻 英史