人の命を守る、生体のための化学工学の研究に取り組んでいる山下研究室。化学工学による分離・精製技術を医療に転用し、人工臓器の性能検証や新たな開発に携わっています。医療機器の研究開発には膨大な時間を要するため、大学院生がマンツーマンで学部生を指導し、情報を継承しながら研究を進めています。
人工腎臓の装置性能向上の実験に取り組んでいるのは桑畑さん。「人工腎臓の大切な働きが、血液の浄化です。中空糸と呼ばれるストロー状の膜で、血液中に蓄積している老廃物を取り除きます。この時、超音波をかけることで、老廃物の除去性能が変化するか検証しています」と語ります。
「間欠補充型血液透析ろ過(I-HDF)」と呼ばれる透析治療の効率を向上させるための実験を手掛けているのは田沼さん。「先日、初めて人工腎臓の学会に参加して、規模の大きさに驚き、まだまだ勉強しないといけないと刺激を受けました。将来は海外の学会で発表してみたい」と未来を思い描きます。
人工腎臓で血液を浄化する際に、中空糸の表面に開いている分子レベルの穴を塞いでしまうファウリング現象を人為的に再現しているのは日暮さん。「検証データを取得するために、実験には3日間を要します。途中でトラブルが起こると最初からやり直しになってしまうので、慎重に対応しています」。
新たな展開として、携帯できる血液浄化器の開発を目指す研究を手掛けているのは平田さん。「今、取り組んでいるのは、ゲルと活性炭を用いて血液中の不純物を吸着させて取り除く仕組みです。活性炭をそのまま使うと血液成分に悪影響を与えてしまうので、生体適合性を向上させる条件を探る実験を進めています」。
適切な薬剤を患部に届けられるようにコントロールする、ドラッグデリバリーシステム(DDS)に取り組んでいるのは中島さん。「新しいことにチャレンジしてみたいと思って始めたのですが、先行研究を手掛けている先輩がいないこともあり、なかなか思うようには進まなくて。今は、試行錯誤を繰り返しています」と悩みながらも、意欲を語ります。これらの実験の経過報告は、毎週交代で発表し、お互いの情報を共有しています。
「研究は知の格闘技。難攻不落な強敵だけど、諦めずに立ち向かってほしい」と語り、学生を見守る山下教授。学生らは、化学工学の見地から医学の進歩に貢献したいと願い、繊細な実験を繰り返しています。
(初出:広報誌『法政』2022年10月号)