大学院特定課題研究所一覧

かわ・まち計画研究所

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2020年8月1日更新

研究代表者 デザイン工学部 教授 福井 恒明
主たる研究分野 都市環境デザイン工学
研究概要

1.都市計画のモデル
 我が国の伝統的都市計画のお手本は中国唐の「条坊制都市」と戦国末以来の「城下町」の2系統だった。これに明治から「西欧近代都市計画」が加わる。
1-1 「条坊制都市」の計画原理
 それは、1)方位に基づき、2)南北、東西の街路によって都市を区分し、3)北部に皇帝(天皇)の内裏を設けて南面し、4)都市全体と坊を城壁によって囲む「陸の都市計画」である。ただし、日本では都市全体を囲む城壁は造られず、その結果、都市とその周囲の境界は曖昧だった。この計画原理は7世紀の藤原京から始まり、千年の都と称される平安京に受け継がれ、中世に至って変容を遂げるが、近世城下町の町割りにも生きて今日に至る。
1-2 「城下町都市」計画の基本
 城下町計画はそのお手本を海外に求める事は出来ない。我が国の諸分野では稀な、日本オリジナルであると言う事が出来る。戦国末から安土桃山、江戸初期の都市計画である。時代によって計画内容はやや異なるが、その基本は、1)防御と眺望に適した小高い土地に城郭を構え、2)防御、舟運、治水を兼ねた掘割、河川、運河を利用、整備し、3)この骨格インフラである水系を基準として街路網をその上にかぶせる「水の都市計画」である。つまり城下町の都市計画では、現在の街路、交通主軸の計画とは異なり、河川技術者が計画の骨格を担っていたのである。また「城下町都市」は都市と周囲の田園との境界が条坊制都市以上に曖昧だった。
1-3 西欧の近代都市計画
 明治維新によって近代化を目指した日本は、都市計画のお手本を西欧の都市に求める。それはローマ時代以来の都市を周囲の田園から隔絶する城壁と道路を骨格とする計画原理だった。近代に至って城壁は取り払われて公園が加わったが、道路が骨格である事に変化はなかった。要約すれば「陸の都市計画」である。それは降雨量が少なく、河川数が少ない西欧に生まれた都市計画、地域計画の原理である。端的な例を挙げればフランスの重要河川はセーヌ、ローヌ等十指に満たないが、わが国では国の直轄河川だけでも百を越すのである。従って、河川を骨格とする計画が温暖、多雨で台風にも襲われる東アジア、東南アジアの国土に適応した都市計画の姿であった。すなわち、城下町に見られた水の計画こそが土地利用、都市計画の基本となるのであり、この点から言えば、河川技術者が土地利用、都市計画の決定者に加わらねばならない、と考える。

2.インフラストラクチャー計画の方法論
 インフラの計画、設計における代替案作りは、我が国においても近代以前からおこなわれていたと想定出来る。しかし実現化したもの以外の案は残されていないので、それらがどの様な計画であったのかは不明である。
2-1 都市計画の分野
 明治に入った近代都市計画においては、最も初期の東京市区改正設計(現在の都市計画事業の計画)の検討段階においても、多様な案が提案され議論があった事が知られている。都市計画の分野では民間の企業者も含め利害関係者が多いため、担当部局や利害関係者が案を提示して議論する事がルールとなっていったのであろう。この点は評価出来るが、技術の進歩と事業の大規模化に伴い従来は共に議論されていた河川計画が都市計画の範疇外となり、その是非を議論することなしに都市計画の前提とされるに至っているのが現状である。特に近年に頻発している水害の原因は河川計画の当否を疑わずに立案されている都市計画にあると言わざるを得ない。
2-2 河川の分野
 これに対して河川の分野では、明治29年の河川法以来、代替案が提示されているのを見た事がない。国の河川の審議会や都道府県の計画決定の場では複数の代替案が示されて、議論されているのであろうか。河川計画の基本となっている歴代の「河川砂防技術基準」を見直してみたが、洪水防御、高水、砂防などの計画の基本、河道、河川構造物、ダム施設、砂防施設、海岸施設などの計画においても複数の代替案を作成する事は指示されていない。勿論、河川計画の担当者あるいはその業務を受けたコンサルタントでは、多様な案が机上に挙げられて議論され、その結果が正式な計画として決定されているであろう事は想像に難くない。しかし、いずれにしろ、その様な代替案は公表されていないので、住民を初めとする当該河川の関係者は、河川の計画に参画する事が出来ないのである。
2-3公共事業の計画、設計
 現代の公共施設の計画、設計においては、業務は直轄ではなく民間の専門家、企業に委託される。そこでは、いずれの価値を重視するかによる複数の代替案が作成され、それらを基に議論がおこなわれ最終案が導かれる。場合にもよるが、これらの代替案は広く公表され利害関係者に止まらない、一般市民も意見を述べる事が出来る。世俗の物事は数学の様な正解は唯一ではない。この事実が、様々な観点からのメリット、デメリットを比較検討できる代替案の作成を要請するのである。

3.かわ・まち計画研究会の目的
 以上1、2に述べた認識をもとに、「河川を中心とした水を基本とする都市、地域の計画、設計」の代替案を作成、公表し、望ましい都市、地域を議論する為の材料を提供する事を目的とする。

研究員  

大学院
特任研究員

大熊 孝   NPO法人新潟水辺の会 顧問
篠原 修   NPO法人GSデザイン会議 代表
岡田 一天  株式会社景観計画工房 代表取締役
小出 和郎  株式会社都市環境研究所 会長
HP
設置期間 2020年8月1日~2025年3月31日
設置場所 市ヶ谷田町校舎別館 2階T2006室