2014年度

Vol.80 櫛田民蔵、久留間鮫造が欧州で収集した貴重資料

2015年04月16日

2014年度

大原社会問題研究所は1919(大正8)年、岡山県倉敷の富豪・大原孫三郎により設立され、1949(昭和24)年に本学と合併して法政大学大原社会問題研究所となりました。社会科学分野では日本で最も長い歴史を持つ民間研究所です。

大原は倉敷紡績などの事業を営むかたわら大原美術館、倉敷労働科学研究所などを設立し、さらに福祉施設や学校、病院を設けるなど、文化・社会事業にも熱心な人物でした。

しかし、次第に社会事業に限界を感じるようになった大原は、社会問題の解決には根本的な調査・研究が必要であると考え、大原社会問題研究所を創設、初代所長に東京帝国大学教授・高野岩三郎を迎えました。

フランスの無政府主義者ピエール・プルードンの『財産とは何か?』(1840年)。研究所ではこの全集のほか著作72点を所蔵している

フランスの無政府主義者ピエール・プルードンの『財産とは何か?』(1840年)。研究所ではこの全集のほか著作72点を所蔵している

高野のもとには櫛田民蔵、権田保之助、森戸辰男、大内兵衛、久留間鮫造、宇野弘蔵、笠信太郎らの優れた研究者が集まり、労働・社会問題、マルクス経済学などの分野で数多くの研究実績をあげました。

研究所では当初から図書資料の収集を重要な事業の一つとしていましたが、当時は海外の資料を集めるのは大変困難でした。

そこで1920(大正9)年10月、研究員の櫛田と久留間が欧州に派遣され、1922(大正11)年8月に帰国するまでに、櫛田がドイツを中心に、久留間はイギリスを中心に資料収集を行い、膨大な社会・労働関係図書や機関紙などを入手しました。

イギリスの社会改革家ロバート・オーエンは、生産者が生産物の価値を労働時間に換算して互いに交換する「国民公正労働交換所」を設立。そこで使われた10時間労働紙幣(レイバー・ノート)

イギリスの社会改革家ロバート・オーエンは、生産者が生産物の価値を労働時間に換算して互いに交換する「国民公正労働交換所」を設立。そこで使われた10時間労働紙幣(レイバー・ノート)

入手資料は貴重なものばかりで、中でもマルクスの署名が入った『資本論』初版本、エルツバッハーの無政府主義のコレクション、あるいはスミス、マルサス、リカードなどイギリス古典派経済学を網羅した資料などは、世界に誇る貴重コレクションとなっています。

2008年には、同じく大原孫三郎によって設立された大原美術館、労働科学研究所、岡山大学資源植物科学研究所、倉敷中央病院とともに「大原ネットワーク」を立ち上げ、コレクションの相互貸出しやシンポジウムを行っています。

さらに研究所は戦前・戦後の膨大な資料を擁しており、社会労働問題の研究拠点となっています。研究テーマは労働問題、貧困問題、社会福祉、ジェンダー、環境などに及んでいます。

18世紀の代表的啓蒙思想家シャルル・モンテスキュー『法の精神』(1748年) の第2版(1749年)

18世紀の代表的啓蒙思想家シャルル・モンテスキュー『法の精神』(1748年) の第2版(1749年)

  • イギリスの女流社会思想家メアリ・ウルストンクラフト『女性の権利の擁護』(1792年) の第3版(1796年)。フェミニズムの古典である。扉にジョルジュ・サンド宛ての献辞がある

  • (左)研究所の至宝ともいうべき2冊。右はカール・マルクス『資本論』初版(1867年)。友人クーゲルマンに贈呈した際のマルクス自身の署名がある貴重書。左は世界に3冊以上はないと言われるヨハン・ペーター・ズュースミルヒ『神の秩序』初版(1741年)で、統計史上最も有名な本。こちらは元本学総長の有澤広巳の尽力により1927年にベルリンで入手したもの。(右)アダム・スミス『諸国民の富(国富論)』初版(1776年)全2巻。現代の自然・人文・社会の諸科学の領域に属する広範な問題を社会科学的見地から統一的に論じている

取材協力:法政大学大原社会問題研究所

(初出:広報誌『法政』2014年度3月号)

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