2025年度第21回デジタルコンテンツ・コンテスト

静止画部門・優秀賞 This is a woman - 但し、自分らしく生きる。

2025年度第21回デジタルコンテンツ・コンテスト
氏名  研究科・学部  専攻・学科  学年 
佐野 平 デザイン工学部 建築学科 4
  • 使用ソフト
    Adobe Illustrator(29.8.1)、Adobe Photoshop(26.11)、Midjourney、Chat GPT(GPT-5)
  • 開発・制作・動作環境等
    Mac OS

作品要旨

世の風潮に流されて「建前の自分」を演じ続けるのではなく、「本当の自分」を表現することの大切さを伝える作品。そのために、社会に蔓延する固定観念の強さを、生成AIが生み出す「女性らしさ」のコードを可視化することで実感してもらうことを目指した。

作品解説

社会には様々な固定観念が存在していて、知らぬ間にその影響を受けている。その事実に気づき、意識的にその偏った思い込みを手放し、本当の自分を表せるようにと、この作品を作った。
私は中学生の頃、極めて内向的で、「大人しくあるべき」という周囲の存在しない期待を感じ、素の自分を出せずに孤独を感じていた。しかしある日、部活の部員がにらめっこ勝負を仕掛けてきて周りの皆んなが笑い、素の明るい自分を受け入れてくれた。その経験から、「内向的=大人しくあるべき」という考えが幻想だと気づき、学校で明るく自分らしく振る舞えるようになった。
同時に、まず幻想を認識することが、本当の自分を出す第一歩だと考えるようになった。その幻想の存在を実感してもらうため、本作では社会に根づく「あるべき女性像」を可視化することを目指した。
生成AIはネット上のデータを学習して出力を生むため、社会に「女性像」への偏った認識が存在すれば、AIの出力にもその偏りが反映されるとの仮説を立てて制作した。つまり本作は、生成AIの出力に潜む性別固定観念を可視化する実験的試みである。
作品を通じ、自身の身の回りの幻想に気づき、本当の自分を表現してほしい。

デジタル技術の使用箇所・方法

本作品ではAIを主軸に制作を進めている。その根拠と活用方法については、前項で示した実験の結果と照らし合わせながら解説する。
社会に内在する性別固定観念をAIの出力を通して可視化するため、まず画像生成AIの「Midjourney」を用いた。「台所でパートナーを待つ人」という性別を特定しないプロンプトを入力し、50枚の画像を生成したところ、約7割が女性像として描かれた。この結果から、AIは「パートナーのために食事を作る役割=女性」という偏った考えを強く学習していることを明らかにした。
次に、女性の身体的特徴に関する固定観念を把握するため、同様にMidjourneyを用いた。「台所で調理をする女性」というプロンプトを入力し、50枚の画像を生成した。さらにChatGPTに依頼して女性の身体的特徴を20項目列挙させ、その基準を用いて生成画像50枚を分析した。各画像に対し項目ごとにスコアリングを行い、その結果、生成に偏りが見られた特徴の上位5項目を特定した。
特定された上位の項目(若さ・細身・長髪・くびれの強調・曲線的ポーズ)をプロンプトに反映し、社会が抱く「あるべき女性像」をMidjourneyで生成した。プロンプト作成にあたっては、自身のイメージに近づけるためChatGPTと対話を重ね、「cinematic atmosphere」「nostalgic mood」など雰囲気を示す語や、「warm golden light」「realistic lighting」「soft shadows」「natural textures」など光や撮影技法に関わる語を挿入した。
このようにAIを、単なるアウトプット生成のためのツールではなく、学習データに内在する偏りを通じて社会の偏った考え方を可視化するためのツールとして用いた。
そして、作成した画像はPhotoshopで加工した。これは、シンディ・シャーマン氏が1970年代に制作した、女性のステレオタイプを映し出す作品『Untitled Film Stills』の世界観に近づけるためである。
具体的には、Camera Rawフィルターを用いてカラーグレーディングを行い、全体の色味を整えた。次にノイズとブラーを加えることで、参照した作品と時代感を揃えた。最後にハイライトを調整し、明度差によってシルエットを際立たせることで、身体的特徴への視覚的な動線を形成した。
最後に、作成した画像をIllustratorで配置した。1枚目の画像については、ミニマルでありながら誌面全体に調和を与えるため、ガイド機能を用いて誌面の随所に黄金比が現れるよう調整した。たとえば、誌面全体の横幅と写真の横幅、中央に配置した画像と左下のテキストボックスの比率はいずれも1:1.618を採用している。
また、テキストボックスではカーニング機能を用いて文字幅を一文字ずつ微調整し、視覚的な統一感を保った。

講評

画像生成AIは、わずかな言葉から高精度のビジュアルを作り出す一方、学習データに刻み込まれた社会の偏見や歴史的文脈までも、無批判に再生産する。本作は、そうした技術特性を批判的に読み解き、丁寧かつ誠実に向き合った。
AI技術が抱えるバイアス問題、社会に根づく「あるべき女性像」を、AIの出力傾向を実証的プロセスとして利用して、研究性・批評性・表現が高度に融合したインフォグラフィックとて完成させた。作品は視覚的に美しいだけでなく、鑑賞者に「自分の中の固定観念は何か?」と問いかける。生成AIの黎明期において、本作はAIを賢く批評的に使うとはどういうことかを率直に示した啓蒙的な作品と言える。