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【総長研究室訪問企画 第4弾】 文学部心理学科 福田由紀先生、ゼミ生インタビュー

  • 2025年03月28日
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2025年1月31日に「総長研究室訪問企画」第4弾として、廣瀬総長が文学部心理学科 福田由紀教授の研究室を訪問しました。
この企画は、総長が研究室を訪問し、教員や学生から研究内容や研究室の運営方法等についてインタビューを行い、それを法政ブランドとして広く発信することを目的としています。

文理融合の実践知 福田由紀ゼミ

「物語理解」というテーマを軸に、多角的に研究を発展

廣瀬:文学部心理学科の教育研究は、一般にイメージされている「心理学」とはかなりギャップがあって、「入学してみたら思ったよりもサイエンスだった」と感じる学生が多いのではないかと思っています。例えば数理的な解析のソフトウェアが学内でも最も駆使されている学科のひとつが文学部心理学科です。そして、福田先生は、2023年に論文「品詞構成に基づく文体指標は読者の印象とどのように関わるか-MVRと品詞構成率の心理学的検討-」で計量国語学会論文賞を受賞されました。このまさに文理融合と呼ぶべき研究領域に、先生がどういう関心から辿り着かれたのか、また研究者になろうと思われた経緯などをお聞きしたいです。大学院に進まれた頃に比べて研究者として進化されてきたことを、振り返ってお伺いできますか。

福田:私は、筑波大学の学部時代にアメリカ留学を経験しました。帰国後、就職活動もしましたが、もともと心理学に興味があり、筑波大学大学院に進学することにしました。そこは5年一貫制の大学院だったため、自ずと研究者への道が開けました。研究を進める中で、物語理解に関する研究に深く取り組むようになり、博士論文では小学生から大学生を対象に、物語中の挿絵や文章の構造が読み手の理解にどのような影響を与えるかについて発達的に研究しました。
以前に比べて変わってきたのは、実験設備が整ってきたことです。それまでは、質問紙を用いていましたが、パソコンが普及したことにより、物語の読み時間やより複雑な文章構造にも関心を広げ、2024年度には物語を読んだ時に持つ感情や読者の評価を108の物語作品についてデータベース化できました。
また、法政大学に着任後としては、眼球運動計測や光トポグラフィー(Functional NIRS:fNIRS)を導入し、物語を読んだ際の脳の活動を測定する研究を展開しました。楽しい物語を読むと快感情を司る脳領域が活性化することを示し、今後は視覚的イメージの活性化や脳活動との関連についても研究を進める予定です。
私の研究は、物語理解というテーマを軸にしながら、データの収集方法を多角的に発展させてきた点に特徴があります。今後の研究では、さらに実験を重ね、人が物語を読む際の認知過程全般を解明することを目指しています。

廣瀬:心理学が、認知科学や脳科学のデータを取り、それも分析の対象にしていることに新鮮な印象を持ちました。いつ頃からどんなペースで、そういう変化が生まれてきたのですか。

福田:2000年前後、20世紀後半から心理学の中にブレインサイエンスが入ってくるようになりました。人の感覚や感情は脳で生じているという認識が広まり、心理学者が脳研究に惹かれ、脳科学者も心理学的実験の厳密さに注目するようになりました。法政大学では2003年の文学部心理学科創設時から、脳科学の講座を設置しています。
データベースに関していえば、例えば「楽しい物語」を実験素材として使う場合、以前はその物語が適切かどうかの予備調査から始める必要がありました。今はデータベースから、必要な特性を持つ物語を選んで実験できます。また、以前はオフライン処理、つまり読後の反応しか調べられませんでしたが、現在は読書中の脳活動や眼球運動を同時に計測できる設備が整っています。

廣瀬:音として物語を聞く場合と、文字を目で追って読む場合がありますが、その違いについての研究はありますか。

福田:2025年度から5年間で行われる予定の科研費研究で、fNIRSを使って読書時と音声聴取時の違いを研究する計画があります。朗読、ニュース読み、自動音声など、様々な音声による違いも調べる予定です。

廣瀬:大学の入学試験などでの合理的配慮を念頭において、視覚を介して入ってくる物語と聴覚を介して入ってくる物語への反応が違うタイプの人がいるかもしれないことを連想しました。

福田ゼミ 一番の魅力は「自身の好きなテーマを追求し、学生同士で高め合うこと」

廣瀬:ゼミのテーマはどのように設定されているのでしょうか。例えば、1年を通してどんな活動をされているのか教えていただけますか。

福田:私のゼミに参加する学生は、言語心理学に非常に関心がある学生もいれば、他のテーマに関心のある学生もいます。テーマも様々で指向性も違う学生に対して私に何ができるかを考え、1年間のアジェンダを学生に提示しています。アジェンダには何月何日に何をするか、その授業回のテーマは何か、研究力や文章力、または発表スキルをアップしましょう、といった具体的な内容が書いてあります。卒論は2年間という非常に長いスパンで成し遂げるものです。レポートを書くことや期末試験を受けるのは割と短いスパンで計画を立てればいいのですが、やはり2年間の計画は難しいです。そのため、アジェンダを提示し、卒論への道程を明確にしています。
また、ゼミでは私が講義をして何かをするのではなく、誰かが発表した際,ピアである学生たちからの質問・コメントを促しています。さらに、学生自身の課題を持参して「ピアレビュー」といって学生がグループで話し合いをして高めてあうことを行っています。​​​​​​​
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廣瀬:一人一人が、自分の関心を持ったテーマを設定し、しっかりブラッシュアップして最終目的として4年で卒論を仕上げる。そこに向かって勉強していく感じなのですね。
学生それぞれのテーマを検証しようと思ったときに、どのように実験を組み立てるか、どういう組み立て方をすると実験結果の信頼性が損なわれるか、などの方法論は共通に身につける必要があります。そういうことも、ゼミの中で身につけていくような内容にされているのですか。

福田:はい。2年間のゼミだけではなかなか難しいので、法政大学の心理学科では1年生のときから心理学の実験の授業や統計の授業、文献講読をする授業などを行っています。心理学的な見方を身につけさせ、ただ単にふと思いついたことではなくて、データに基づいて検証することを教えています。
でも、テーマは自分の好きなことを追求してもらいます。他の大学では先生のテーマについてやることも多いですが、好きなテーマを研究できるのが法政の心理学科の一番の魅力です。

文理融合の中で、成長していくゼミ生たち

廣瀬:ゼミ生のみなさん、卒論のテーマについて教えてください。

岩尾:私は『人は自分の顔に似た人形に魅力を感じるか』をテーマに研究しました。30名の女性に20体の人形を評価してもらい、自分の顔との類似性との関係を分析しました。自分の顔についても評価していただいて、その差が各人形と参加者にどれぐらいあるのかという主観的類似度を出して、魅力度との関係があるのかを分析しました。結果は、自分と似ていない人形のほうが魅力的と評価される傾向にありました。

廣瀬:自分の特性についても、自分自身の主観的な評価を基準にしていて、興味深いと思いました。

佐々木:私は『嘘の上手さと信頼性』について研究しました。人は、話の真偽ではなく、その人の雰囲気や話し方など曖昧な情報をもとに判断していることがわかりました。それから、自分は嘘が上手いと思っている方は、実際には上手くありませんでした。さらに男性は女性より疑われやすいという結果も出ました。

廣瀬:よく設計されて統制が効いた実験によって有意に結論づけられることをまとめていますね。

高橋:私は「理想の恋人像と恋愛経験人数の関係」をテーマにしました。長期的に興味を持てるテーマが良いと考え、恋愛に関する研究を選びました。Googleフォームで質問紙調査を行った結果、恋愛経験人数に理想の恋人像は左右されてはいませんでした。また、男女で理想の恋人像に求めているものが大きく変わっていたので、そこが面白い点でした。今後は、恋愛経験の「期間」に着目した研究を検討しています。

廣瀬:何が決め手になっているんだろうと、いろいろアイディアを練り、実験してみる姿勢が印象的ですね。

ヴィ:私はベトナムの大学で日本語を教えています。日本語学習者の読解力に影響を与える要因を研究するため、心理学の知識が必要だと考え、法政大学の福田研究室を選びました。博士論文では、単語をどのように認識して意味を理解するかに焦点を当て、形態素と学習者の読解力との関係などを調べています。現在、その力を測定するためのテストを作成中です。

福田:ヴィさんは日本語の先生なので、私は日本語をたくさん教わっています。母語話者は、本当に適当に日本語を使っているのがよくわかります。

廣瀬:ゼミで卒論を書いてみて、自分が成長したな、自信がついたなといった感想があれば教えてください。

佐々木:気になることがあるとき、こういう手順でこういう統計を使えば調べられるのではないか、と気づけるようになったことが成長です。確率や統計を学ぶことで、気になることや不思議なことをどうすれば数学的に調べられるかに頭が働くようになったのは、すごく進歩したなと思っています。

高橋:調査を重ねてしっかり結果を出してきたので、そのことが自信になっています。単位を取るために勉強していた人よりも「統計の分野で実行力があります」と就活の際には自信をもって言えます。

岩尾:座学ではなく自分で調査をして、因子分析や分散分析などを見つけたからこそ、結果を予測した上での、前提となる問題提起や方法作りの重要性を学びました。就職後もそこを意識しながらやっていきたいなと思います。

ゼミでの研究・成長の中に見える「自由を生き抜く実践知」

廣瀬:大学憲章にある「自由を生き抜く実践知」ですが、「実践知」とは自分の持っている知的な力をどう活用するか、どういう考えでそれを使うか、ということです。
もちろん、お金がないから、こういうルールがあるからといった外的な要因で自由が制約されることはあります。しかし、それ以上に自分の持っている固定観念や既成概念によって、狭い範囲でしか発想できなくなってしまうことがあります。無意識のうちに、言語化できないうちに、発想できなくなることによって自由が制約されるのは、とても重大なことだと思っています。その自由の制約が外的な束縛要因であれば、否応なしに感じとることはできます。お金がなければ資金調達を何とかしなきゃいけないなど、割と端的に対応方法も決まります。しかし、自分で自分を束縛している固定観念で客観化し、自覚してそこから抜け出すのはとても難しいことです。したがって、自分が陥っているバイアスをいつも意識することができるかどうか、それが大事なことだと思っています。
今日、お話を伺って思ったのは、心理学の実験において、参加者になっている人たちが自覚したり言語化したりしていないことに対して、みなさんはいろんな条件を与え、観察をし、計測することによって把握していこうとしています。本人は主観的には意識できていないことを、みなさんは心理学上の道具を使って解明しているのです。みなさんは心理学を学ぶことによってこの道具を知ったので、要因を絞っていき、ここを解明しないとこのメカニズムはわからないぞと目星を付ける力を身につけたのではないかと思います。自分が自分を制約するという自由を束縛する要因から抜け出すための実践的な知恵を一つ身につけたのだと感じました。その意味で、法政大学憲章と繋がっている研究、学びがあったのですね。
本日はどうもありがとうございました。

全員:ありがとうございました。

福田先生から法政大学に入学する高校生へのメッセージ

心理学は人が対象となるので、興味のあるテーマを発見しやすい学問と言えます。方法論や分析方法はある程度決まっており、それを学べばある程度はできるようになりますし、入学すればそれは身に付きます。あとは好きなテーマに沿って検証してみるだけです。
データ分析等はあくまでも道具であり、それは常にブラッシュアップする必要があります。
他の大学では、教員の専攻するテーマにあわせて研究する場合もあるが、法政大学は自分でテーマを決める。そこが違うところです。ぜひチャレンジしてください。

法政大学文学部心理学科 教授 福田 由紀(ふくだ ゆき)

1964年東京都生まれ。1986年筑波大学第二学群人間学類心理学専攻卒業、1991年同大学心理学研究科心理学博士後期課程単位取得満期退学。1994年博士(心理学)筑波大学より授与。1991年東京純心女子短期大学専任講師として教職の人生が始まり、2000年法政大学文学部教育学科助教授、2003年同大学同学部心理学科を創設し、2006年教授となり現在に至る。
研究領域は言語心理学、特に読み手の感情や視覚的イメージなど認知過程への物語の影響を中心に行っている。2015年「朗読をすると気分が良くなるのか?ー音読と比較してー」は日本読書学会より読書科学研究奨励賞、2023年「品詞構成に基づく文体指標は読者の印象とどのように関わるか-MVRと品詞構成率の心理学的検討-」は計量国語学会より論文賞受賞。
社会貢献活動として、小学校国語科教科書編集委員(教育出版)や中央教育審議会初等中等教育分科会言語能力の向上に関する特別チームの委員、文化審議会臨時委員(国語分科会)を勤めた。また、日本読書学会副会長を2023年度より現在まで務めている。

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