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日本文学に息づく「伝統」を比較文学の領域から探究(国際文化学部国際文化学科 衣笠 正晃 教授)

  • 2023年01月25日
お知らせ

国際文化学部国際文化学科
衣笠 正晃 教授


米国に留学した経験を生かし、国際的な視野に立って日本文学の研究に取り組む衣笠正晃教授。
文学作品の中に脈々と息づいている「伝統」を読み取り、その本質に迫ろうと研究を進めています。

文学の「外側」を探究して日本の伝統の本質を探る

比較文学の観点から、日本に息づいている「伝統」を探究しています。

学部生時代はフランス文学に触れ、海外作品が日本文学に与えた影響などを研究していました。その後、海外から日本文学を見てみたくなり、留学を決意。「よそ者の視点」で日本文学に触れてみると、日本では自然に受け入れている表現や感覚が、外国人研究者には理解が難しく、議論の種になることがありました。日本には独特の文学的伝統が形成されていることに気付き、探究心が刺激されたのです。

研究の柱は二つあります。一つは文学の存在意義を問うために、文学研究の軌跡をたどり、文学を取り巻く状況や文学が果たしてきた社会的役割を振り返る文学研究史を探究すること。もう一つは、文学を「外側」から包括的に研究して過去と現在を比較し、日本に息づく伝統の本質を究めることです。

伝統の原初をたどると、古典文学、特に和歌の存在が大きいことが分かります。日本ではたくさんの和歌や俳句が詠まれて、季語に託した感覚や思いを表現してきました。時代を越えて継承されてきた古典作品には、どの時代でも受け入れられる共感性が備わっています。これらの累積により、伝統が形成されてきたのだと考えています。

しかし、感覚やイメージを根拠に結論を導いてしまうことには問題があります。例えば「日本の四季」です。和歌に始まった古典文学が、やがて季語を必須とする俳句文化を生み出したように、日本ではさまざまな事象を四季と結び付けて表現してきました。とはいえ、どの国にも等しく四季はあり、日本の四季だけが特別なわけではありません。四季への思いを日本独自の伝統と結論付けてしまうのは早計です。

言葉の積み重ねで伝統が形成されているのであれば、その本質は理論的な言葉で説明できるはずです。また、伝統は紡がれていくものですから、古典作品だけに存在するものではないでしょう。海外と日本、過去と現在のように多面的に文学を比較しながら、日本文学の中に受け継がれてきた伝統の本質と向き合っています。

  • 海外から日本文学を見つめ直そうと、日米教育交流を目的としたフルブライト奨学金を得て、米国コロンビア大学大学院に留学。写真は研修時の一枚

学生が学びたいと望む学部横断プログラム実現に注力

法政大学には、学部横断で学ぶことのできる「サティフィケートプログラム」が用意されています。これまでにSDGs(持続可能な開発目標)、アーバンデザイン、ダイバーシティと3種のコースが設けられていましたが、新たに「自分たちが学びたいプログラムを学生自身が提案する」というコースの企画が始まり、副学長補佐という立場から携わるようになりました。今の学生がどのような問題意識を持ち、大学での学びに何を期待しているのかを目の当たりにしながら、準備に追われる日々を送っています。

公募を経て学生から提案されたテーマは「キャリア形成」「ファイナンス、資産形成」、さらに、「心身の健康とジェンダー問題」「災害と危機管理」「コミュニケーション能力向上」「自己表現」など、基本的な人間力を高められるような学びを求めていることがうかがえて興味深いです。

学部の枠を超えた学びの機会を得られるのは、総合大学という環境があればこそです。学生が望むプログラムを2023年春からスタートできるように、調整準備に取り組んでいます。

  • 週1回、トレーナーの指導を受け、ジムでトレーニング。体力をつけ、コンディションを整えることで、精神的な集中力の持続につなげている

人と人との関わりの中で育てていく「実践知」

ゼミ活動では自由なテーマで身近な文化についてディスカッションしていますが、学生たちの潜在的な力、自主的に考える力には驚かされています。教員がリードして追随させるよりも、学生の力を信じて見守り、問題の発見や課題解決のサポートをすることが大事だと改めて気付かされています。

その中で、意識的に伝えているのは日常生活の中にある「当たり前」を疑うこと。常識だからと無条件に受け入れるのではなく、批判的思考を大事にするように促しています。批判は否定とは違い、新たな視野を提示することです。批判によって意見が補強され、より良い結果を導けることもあるので、学生たちが互いに批判を受け入れることで、プラスの方向に視野を広げてほしいと考えています。

法政が育んでいる「実践知」は、自分のためだけではなく、人と人との関わりの中で役立ち、生かせる知です。若い世代の考え方を知り、理解することは「伝統の探究」という自分の研究にも還元されることなので、学生との関わりの中で、学生たちの「実践知」と自分自身の「実践知」を共に深め、結実を願って大事に育てていきたいと思っています。

  • ゼミでは、学生たちの自主性に任せた多種多様なテーマを展開。「批判的思考」を大切に、興味のあるテーマに取り組む学生たちの笑顔は明るい

(初出:広報誌『法政』2023年1・2月号)

国際文化学部国際文化学科

衣笠 正晃 教授(Kinugasa Masaaki)

東京大学教養学部卒業、同大学大学院総合文化研究科比較文学比較文化専攻修士課程修了、コロンビア大学大学院東アジア言語文化学研究科博士課程へ留学、Master of Philosophy取得。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士課程単位取得満期退学。日本学術振興会特別研究員などを経て、2001年に本学第一教養部専任講師として着任。2002年第一教養部助教授、2003年法学部助教授、2004年法学部教授、2007年より現職。国際比較文学会(ICLA)、日本比較文学会所属。