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法政大学では、これからの社会・世界のフロントランナーたる、魅力的で刺激的な研究が日々生み出されています。
本シリーズは、そんな法政ブランドの研究ストーリーを、記事や動画でお伝えしていきます。
農山村における地域資源管理のあり方を起点に、時代と共に多様化する外部人材や関係人口の役割について、実証的な分析を進めています。私が研究を始めたのは、ヨーロッパからグリーンツーリズムの考えが日本に導入された1990年代です。都市と農村の交流を通じて、地域にある様々な資源を活かす地域づくりの試みに触れる中で、豊かな里山とそこに暮らす人々の関わり方に深く惹かれていきました。
その関心は、熊本県阿蘇地域における入会地・牧野(ぼくや)の維持管理に関する研究につながりました。阿蘇には広大な草原が広がり、伝統的な野焼きや牛の放牧といった生業を通じて景観が守られてきた歴史があります。しかし、牛肉の輸入自由化や環境保全への関心の高まりを背景に、現場の畜産農家が直面する現実と、外部から求められる環境保全の論理との間に大きなズレが生じていました。こうしたステークホルダー間の複雑な葛藤を解き明かすため、私は現場を回り、住民一人ひとりの声に耳を傾けるフィールドワークを大事にしています。以来、研究を通して、農山村を中心に、次世代に向けて地域社会をどのようにつなげていくのか、地域の外側から関わりを持つ人材のあり方も視野に入れて、自治体の計画策定や地域活動への助言などに尽力してきました。

近年、都市部の若者を中心に、農山村の持つ価値や魅力に関心を寄せ、自己実現やなりわいづくりの場と捉え、都市と農山村を行き来し、また移住を志す「田園回帰」の動きが広がっています。しかし、単なる理想や憧れを抱いて飛び込むだけでは、連綿と続いてきた地域独自のしきたりや収入面での厳しさに直面し、思わぬミスマッチが生じかねません。だからこそ、外部から来た人も地域社会に溶け込みながら、地元の暮らしや文化と自らのライフスタイルを擦り合わせていく丁寧なプロセスが不可欠となります。
かつて新潟県中越地震の復興現場で目にしたのは、過疎化や高齢化が深刻化する地域社会に積極的に関わるボランティアや、そこから地域復興支援員として奮闘する若者たちの姿でした。彼らは、被災した農村に寄り添い、住民と共に汗を流していました。その存在が集落に活力を取り戻し、地域の自信を再確認させる大きな契機となっていた事実は見逃せません。
ハード面の整備を重視してきた従来の過疎対策とは異なり、そこに暮らす人々の心持ちにアプローチするソフト面の仕組みづくりこそが、これからの時代には求められています。現在は、こうした農山村に関心を寄せてくれている多様な外部人材がどのようにして地域社会と馴染んで、次世代に向けた地域運営に参画できるのかを分析しており、農山村の今後に向けて理論と実践の双方からアプローチしています。
大学院時代に研究で訪れた熊本県阿蘇地域の牧野にて
熊本県小国町で台風後に稲刈りを手伝った際に同期の仲間たちと
大学1年次の授業で配られた1枚のチラシが、私の人生を大きく変えました。「熊本県小国町で実施する先輩たちの地域社会調査に同行してみないか」という内容で、軽い好奇心から参加を決意したあの瞬間こそが、研究者としての出発点です。
小国町での取り組みは、農山村に関わる原体験として今も胸に深く刻まれています。地域住民向けのアンケート調査を通して、住宅地図を片手に集落の家々を巡り、林業を営む人々の現場での仕事をわずかながら手伝う中で、地域の日々の暮らしを肌で感じました。
さらに、1年次の終わりには未熟ながらも町民の皆さんの前で報告を行う機会に恵まれました。現場の人々から「良い話を聞かせてもらった」と自分たちの研究を評価していただき、研究のやりがいを実感したのです。この経験をきっかけに、農業経済学を探究する道に進みました。
人生の分岐点で悩むたび、現場の人々から温かく背中を押され、彼らの期待に応えたいという純粋な思いに突き動かされるようにして、今日まで研究を続けてきました。「あの時にあの場所に行った」からこそ、出合えた世界があったと確信しています。
研究活動を通じて得られた知見は、単に論文として発表するだけでなく、国や自治体の政策立案にも積極的に還元しています。国では総務省や国土交通省、地方自治体の会議体において委員やアドバイザーを務めるほか、地方自治体の中堅・若手職員を対象とした地域リーダー養成塾や地域おこし協力隊など地域サポート人材の研修を通して、人材育成にも尽力してきました。
現在、多くの自治体で職員数が減少し、住民とお茶を飲みながら暮らしの様子や地域の状況を聞き取り、それを政策につないでいくような余裕がなくなっています。そうした行政と現場の距離を埋め、地域の状況に応じた仕組みを提案することが、現場に向き合う大学研究者の重要な役割だと考えています。
また、教育においては学生たちに対して積極的に地域の現場に誘い、きっかけづくりを強く意識しています。私のゼミが所属する現代福祉学部の学生は、社会福祉や臨床心理、地域づくりといった多様な分野を学んでおり、彼らのしなやかな感性に驚かされることも少なくありません。
ゼミでは、長野県泰阜(やすおか)村などを定点フィールドとし、まずは現地に身を置いて地域の人々と一緒に農作業などで汗を流し、関係性を構築することを重んじています。課題解決を急ぐあまり、目に見える部分だけに囚われては、地域のしがらみや「なぜその問題が起こるのか」といった背景を見逃してしまうからです。
かつてゼミで交流させていただいた新潟県小千谷市三興地区では、当時、十数人の小集落でしたが、「祭りを一度でよいので復活させたい」という地域の皆さんからの思いを受け、学生たちが集会所に寝泊まりして準備を進めました。当日は近隣の縁者の皆さんが100人近く集まり、演舞などの出し物や宴会が行われました。住民の方々と共に一つの催しをつくり上げた経験は、学生たちも私にとって忘れられない学びとなっています。
私はゼミ生たちに、「何事も運と縁とタイミングである」と日頃から伝えています。私自身の研究者としての歩みがそうであったように、いきなり課題解決を目指すのではなく、偶然の出会いにも身を委ねつつ、地域の人々と共に汗を流すこと。そうした地道に関係性を深めていくプロセスの先にこそ、本物の学びが生まれると信じています。
最初は何気なくフィールドを訪れた学生が、地域の人々との深い交流を経て「お世話になった分、恩返ししよう」という意識へと変化していく様子を何度も目にしてきました。その地に貢献したいという気持ちから、自ずと解決すべき問いを見いだして研究テーマへと昇華し、大学卒業後も濃密な関わりをもち続ける学生が少なくありません。
過去には、ゼミ活動をきっかけに、大学を休学して泰阜村や岡山県美作市の地域おこし協力隊に参加するなど、自ら実践に取り組む学生も現れました。そうした彼らの行動に、私自身も日々刺激を受けています。
中山間地域振興アドバイザーを務めている浜松市での打ち合わせ
毎年12月に長野県泰阜村で集落の正月飾りづくりをゼミ生がお手伝い
新潟県小千谷市三興地区でゼミ合宿時に地元の方々と
毎年5月に岡山県美作市上山地区の水路掃除にゼミ生と参加
これからの研究テーマとして見据えているのは、多様な主体が役割を分担しながら地域社会を維持していくローカルガバナンスの再構築です。日本の農村は、行政が主導して政策や事業を提供し、地域側も地縁や血縁ベースでの継承により、先祖代々の土地や家屋をつないで今日まで続いてきました。しかし、人口減少や少子高齢化が急速に進み、価値観も多様化する現代においては、それも機能不全に陥りつつあります。
重要となるのは、地域を開いて、関心を寄せてくれている移住者や外部人材、企業、そして学生といった多様な「よそ者」の存在を受け止めながら、そこに地域社会の営みをクロスさせていく「斜めのつながり」の仕組みづくりです。私のゼミでも、農村に移住した卒業生のもとを毎年訪れ、現場仕事を手伝うなど、世代を越え空間的にも広がりのあるネットワークが結実し始めています。地域に飛び込み汗を流してくれる若者や、企業のもつリソースを現地の活力につなぎ、地域の内外を問わず一緒になって、日々の営みを次の世代に受け継いでいく。そうした実践の場を、教育や研究を通じて広く社会に実装していきたいと考えています。

東京大学農学部農業構造・経営学専修卒業、同大学院農学生命科学研究科農業・資源経済学専攻博士後期単位取得満期退学。博士(農学)。財団法人日本農業研究所研究員を経て、2007年に本学現代福祉学部専任講師として着任、2009年より准教授、2016年より現職。専門は、農山村経済論、農村地域政策論、ローカルガバナンス論、地域資源管理論。国土交通省「国土審議会推進部会」委員、総務省「過疎地域持続的発展優良事例表彰委員会」委員長他。主な著書に、『人口縮減・移動社会の地方自治--人はうごく,町をひらく』(共著、有斐閣)、『地域に学ぶひとづくり: 和歌山・上秋津と大学との地域づくりからの発信』(共著、筑波書房)など。