2026年4月3日(金)に挙行しました2026年入学式において、国境なき医師団日本アドボカシー メディカルアフェアズ 緊急対応部門ディレクターの末藤千翔氏(法学部国際政治学科卒)に、新入生に向けてご祝辞を賜りました。当日の祝辞の内容は、こちらにも掲載いたします。ぜひご覧ください。
ただいまご紹介に承りました末藤と申します。
新入生の皆さん、本日はご入学、誠におめでとうございます。
また、これまで皆さんを支えてこられたご家族・関係者の皆さま、そして教職員の皆さまにおかれましても、心からお祝い申し上げます。
私も19年前、桜咲く、小雨舞うこの武道館の門をくぐり、皆さんがいま座る席に座り、高校までの学びや生活とどのように違った4年間が待ち受けるのか、どのような学友や教授陣、職員の方々と巡り合うことができるのかワクワクした気持ちを昨日のように思い出し、それから19年も経ったのかと思うと改めて感慨深い思いにふけります。
紹介にもあった通り、私は現在、国境なき医師団という医療人道援助団体で働いており、他団体での活動も含め卒業以来、北マケドニア、バングラデシュ、シリア、フィリピン、イラク、ナイジェリア、トルコ、スーダン、アフガニスタンの人道援助の最前線で活動を指揮して参りました。
皆さんはこのような国に生きる人たちにどのようなイメージをお持ちでしょうか?「女の子」であるというだけで教育の機会を奪われるアフガニスタンの女性や女の子。法の下居場所をなくし「祖国」を持つ権利すら奪われたロヒンギャの人。しかし、そこで会う人は言語や慣習は違えど、私たちと同じことに喜びを抱き、誰よりも温かい心を持ち、不可能な状況においても希望を持ち、よりよい生活・未来に向かって逞しく、力強く生きている人たちで、そこから学ばされ、鼓舞される日々です。
今日はせっかく皆さんとこのようにお話ができる機会を持たせていただいたので、私が大切としていることを二点、お話しさせていただきます。
まず一つ目は「『できる』を大切に何事にも挑戦」です。
このような職業、生き方を選ぶことに至った大きな理由の一つが法政大学での学びにあります。大学一年生の夏に、大学のプログラムでオックスフォード大学に何週間かサマースクールへ、さらには三年生の時には派遣留学でカリフォルニア大学デイビス校に1年間留学をする機会を与えていただきました。
オックスフォード大学のサマースクールに参加した際、お手伝いをしてくださっていた同大学の医学生と仲良くなり、「なぜ医学を志したのか」という質問をすると「高校から大学に進学する際に1年間ギャップイヤーを取り、アフリカでボランティア活動をしていた。その時にマラリアに罹り非常につらい経験をし、世界には防ぐことができる病、簡単に治療ができる病で命を失う人がたくさんいる現実を目の当たりにした。だから熱帯医学を勉強し、そのような病で命を落とす人を世界から減らすことに寄与したいと思っている。」そのように言われたのです。何歳も変わらない同じ大学生なのに、自らの実体験をもとに、明確な問題意識をもって、世界を視野に邁進する人がいることにそれまで感じたことのない強い衝撃を受けたと同時に、「世界を舞台とするということはこういうことなのだ。自分も、もっとできる。」と強い決意を抱きました。
大学時代はそこで得た「もっとできる」という思いをもとに、ひたすら思いつくアクションを取ることに徹しました。「世界を知りたい」という思い一つに、皆さんからすると「いつの時代の人か」と思われるかもしれませんが、スマホもオンライン予約もまだそれほど普及していないなか、ガイドブックやゲストハウスで知り合った人の情報をもとに貧乏バックパック旅をしたり、ゼミの先生や仲間の情報をもとにシンポジウムやイベントに参加したり、本の中の情報では物足りず映画館を回っていろんなドキュメンタリー映画を観たり、大学での学びを補完する経験に忙しい日々を過ごしました。
やれることをやっていくうちにある日、国連難民高等弁務官事務所でのインターンシップの機会にも恵まれ、そこで出会った方に「~~できる?と聞かれたらできるかわからなくても、「できる!」と答えるべき。それからできる手段を見つければ良い」言われたのです。今となってみれば、これは私のモットーの一つとなったとも言えます。
私たちは失敗やリスクを恐れたり、挑戦したことが上手くいかずに恥をかくことを心配する生き物かもしれませんし、そう思うことは普通の事です。しかし挑戦なくして成長はありません。特に学生や若者の特権は「失敗」が許されるだけでなく、重要な「学びのプロセス」とされることです。失敗したら、また立ち上がって進めばいい。そのプロセスで考えたこと、得た収穫、支えてくれた人は何物にも代えがたい、一生の宝です。
二つ目は「心の声に耳を傾ける」です。
先ほど触れたように私は大学三年生の時にカリフォルニア大学デイビス校に留学をしました。ちょうど皆さんが生まれたころですが、世界的経済不況が訪れ、いわゆる「就職氷河期」が訪れました。留学をして、就職活動に遅れを取ることはリスクだと捉える友人が多くを占める中、私は留学することを決めました。
理由は単純です。私の中の心の声が「それがしたい」と騒いだからです。その時私は「就職活動に出遅れるハンデを越える収穫を得て、帰ってくる」という確固とした自信がありました。留学先ではアメリカのキャンパス・ライフを十二分に満喫し、多様な価値観に触れ、考えを深め、さらには留学生として初めて「ワシントン・プログラム」という全部で9つあるカリフォルニア大学全校から選ばれた学生が参加するプログラムに参加できることとなり、最後の学期をワシントンDCで過ごす経験を得ました。
戦略をもって、計画的に物事を実行していくことが相応しい時もあるでしょう。しかし時には戦略や計画を捨て、心が赴くままに決断をすることも大事であると私は思っています。自分が「これだ!」と決めたことには、退路を断ち身を投じたことには、秘めたスーパー・パワーが発揮できるものです。
とはいえ、迷いが生じる場面に直面することももちろんあるでしょう。そのようなときは信じる仲間や家族に耳を傾けてみてください。自分の中に答えがなくても、そこには「自分にとっての答え」への糸口があります。
最後に、私は「なぜこのような仕事をするのか」と聞かれることが多々あります。
いま世界では、約70人に1人が難民や国内避難民として故郷を追われ、約27人に1人が命に関わる食糧不安に直面し、約7人に1人が戦争や紛争の影響下で生き、さらには今までの「世界秩序」が揺らぎ、「普遍的価値」と思われていたことが試されています。
私たちが「当たり前」と思っている、家族と安心して生活を送れる、教育を受けることができる、医療へのアクセスがあることは、世界の多くの人にとっては夢のようなことなのです。生まれる場所や属性が異なるだけで、このような「当たり前」の明暗を分ける不条理が許されてはならないと思うのです。
英語で”pay it forward”という表現があり、「自らが得た経験、英知、人から受けた優しさを繋げていく、紡いでいく」という意味があります。自分にできることをもって社会に還元していく、それは知識をもってでも、編み出すことができる時間という形でも、思いやりでも、若さというバイタリティーでもなんでもいいと思います。AIが日々刻々と進化を遂げ、人の手でなくてもできることが増え行く世界ですが、人に寄り添うことや、社会の不条理に立ち向かうこと、それは私たち「人」にしかできないことなのかもしれません。
皆さんは、いま世界が必要とする未来のリーダーです。「自由を生き抜く実践知」を掲げる法政大学での4年間を是非、数ある「正解なき世の中の問い」に、自由な発想を持ち挑み、その時自分にできることをもって、次につなげていくことに投じてみてはいかがでしょうか。
本日は誠におめでとうございます。