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法政大学では、学生の多様な学びや体験の機会を創出するために、異なる地域の大学で学修し、修得した単位を認定する国内留学制度を設け、他大学との交流を促進しています。現在、関西大学(大阪府)、沖縄大学(沖縄県)、名桜大学(沖縄県)、北海学園大学(北海道。法学部のみ対象)と協定を締結しています。2024年1月16日(火)には、2023年度に関西大学との国内留学制度に参加した学生2人と廣瀬克哉総長との座談会を開催しました。
―― 国内留学制度に応募しようと思ったきっかけを教えてください。
日和 大きな理由は、ほかの学部で学ぶことで学びの視野を広げたかったということです。それから、私はずっと実家で暮らしていたので、自分が知らない土地でも一人でやっていけるのかを就職前に確かめたいという気持ちもありました。
渡壁 関西大学の公式インスタグラムで国内留学制度を利用する学生の交流会の記事を偶然読んで制度を知りました。もともと海外留学に興味があったのですが、言語の壁もあって勇気が出ませんでした。国内留学は言語の壁はなく、新しい環境に挑戦できることは魅力的に思えました。また、私は大阪でずっと実家暮らしをしていたので、半年だけ東京で一人暮らしができるところもいいなと思いました。首都圏に住むことへの好奇心は大きかったですね。
―― 留学先の学部、学科ではどのような学びを得られることを期待していましたか。
渡壁 母が栄養士だったこともあり食に興味があったのですが、食に関する学びはどうしても理系に偏りがちです。関西大学ではなかなか深く勉強できなかったので、食と地域についての科目を開講している法政大学の人間環境学部に留学してみたいと思いました。キャンパスが都心の市ケ谷にあることも大きな理由となって決めました。
日和 私は人間環境学部で環境政策を勉強する中で、そもそも政策はどういう背景があってどういう過程で作られるのかということに興味を持ちました。関西大学の政策創造学部ならそういう勉強ができそうだし、SDGsに関連する授業もあるので、人間環境学部に近い勉強も同時にできると思いました。
廣瀬 履修する科目の選択にあたっては、留学後の単位認定は意識しましたか。
日和 単位の修得には余裕を持っていましたが、3年生で留学したこともあり、卒業に支障がないように履修することを心がけました。ただ、関西大学で学びたい分野が人間環境学部の学問分野に近かったので、結果的に学びたい科目を履修することが単位認定につながりました。
渡壁 単位認定は意識していて、関西大学の教授にも相談しましたが、2年生での留学ということもあるので、素直に興味のある科目を履修してきたらよいのではないかとの助言をいただきました。
廣瀬 過去にこのような科目が単位認定されたという情報を提供できると、留学を検討する学生にとっては安心材料になるかもしれませんね。
―― 留学先での学びで特に印象に残っていることを教えてください。
渡壁 まずは友達を作ろうと思い、グループワークの多い科目を積極的に履修しました。ちょっと話しただけで「えっ、大阪の人?」と私の関西弁に気付いてもらえたのが会話の糸口になって、友達を作りやすかったです。
印象に残っているのは、『食と農の環境学』という湯澤規子教授の授業です。授業外で教授が所属されている人文地理学会の食イベントの手伝いにも参加しました。教授と学生5人でケータリングのテーマ決めから始めて、学会に参加する方100人と一緒に楽しめるケータリングづくりをしました。テーマは「江戸・東京を食べる」で、神田明神の甘酒、神楽坂のお団子、東京の地酒なども買い集めました。
日和 私が一番印象に残っているのは、『政治社会学』という授業でリアクションペーパーを書いたことです。毎回授業の最後に教授が課題を提示してリアクションペーパーを書くのですが、周りの学生はすらすら書いているのに、私は全く書けなかったのです。焦りを感じて、教授にたくさん質問したり自宅で復習したりしました。なんとか必死に追いついた記憶が強く残っています。
廣瀬 何が苦労の原因だったと思いますか。
日和 その授業は3年次以上しか履修できない授業で、「政策創造学部で学んできたのなら、少しぐらいは書けるよね」と教授はおっしゃっていました。私は「初めて勉強する」という状況だったので、差があったのかもしれません。でも、厳しい授業を履修したからこそ、身に付く学びが多かったです。法政大学に戻ってきてからも、「あの時に学んだことがここにつながるんだ、すごい」といった発見がたくさんありました。成長につながったと思います。
廣瀬 これまで人間環境学部で学んできた中で、初めて他学部の専門科目を履修したことでギャップを感じたのかもしれませんね。私が所属する法学部政治学科では多くの授業を全学年が履修できる設定になっているのですが、リアクションペーパーを書くと、学年により歴然とした差があります。上級生になるほど「政治学を学んできた学生だな」という印象の内容になっていきます。文系の学部で特に低学年のうちは、学生本人は専門を学んでいる実感はあまりないかもしれませんが、実は本人が意識しないうちに学問の常識を結構身に付けていて、初めて履修する科目についてもポイントを掴んで考えを書けるようになっています。それが、専門を身に付けていくということなんだと思います。
日和さんは政策学の専門性のかけらを身に付けたわけですから、サステナビリティを学ぶ上での武器が一つ増えたわけですね。それも他学部への留学の価値の一つですね。
―― 生活面で印象に残っていることを教えてください。
日和 私は寮に住んでいたのですが、留学生が多く居住する国際学生寮だということを知らずに入寮してしまったので、最初は周りが外国の方ばかりだったことに不安を感じました。外国人の友達がいたことがなかったのに、同じフロアに国内学生は私1人だけだったのです。
それまでは国外にはあまり興味を持っていなくて、英語は受験などのために勉強していましたが、国際学生寮でいろいろな地域の友達をつくることができ、英語や国際情勢ももっと勉強したいと思うきっかけになりました。
渡壁 私は学生マンションで初めての一人暮らしをして、苦労することは多かったです。「野菜ってこんなに高いんだ」ということも知りました。でも、好きな食器を集めたり、好きな柔軟剤で洗濯したり、いままでやってこなかったことが経験できたのはよかったと思っています。
また、東京でしかできないことにいろいろ挑戦してみたくて、上野動物園のレストランでアルバイトをしたり、東京ドームや有明アリーナで単発のイベントスタッフとして働いたりしました。やりたいことがすべてできたことは楽しくて、貴重な体験になりました。
―― 留学先の大学や学生について、それぞれどう感じましたか。
日和 政策創造学部は公務員試験対策の授業があったり、卒業生で公務員として働いている方が講演をしてくださったりと、公務員を育てるための制度が充実していると思いました。
また、関西大学では授業で隣に座った学生から積極的に話しかけられることに驚きました。
渡壁 そうですね。関西大学では隣の学生に話しかけたりして、積極的にコミュニケーションをとりますね。法政大学ではみんな真剣に授業を受けていて、真面目な学生が多い印象です。ゲスト講師の講演で「最後に質問はありますか」と言われたときに、ずっと質問の手があがり続けていたことに文化の違いを感じました。
日和 関西大学のキャンパスは地域の人も犬の散歩などで自由に出入りできて、緑も多く、いやされる空間が構築されているのがいいところだと思います。
渡壁 法政大学は、26階建てのボアソナード・タワーもあるのですね。まさか大学にこんな建物があるとは思いませんでした。人は多いわけではないけれども、静かすぎるわけでもなく、秋は外濠の紅葉もきれいで、いい環境でした。
―― 留学してみて、自分の大学に対する見方は変わりましたか。
渡壁 法政大学に愛着がわきました。お正月に箱根駅伝で選手がえこぴょん(法政大学キャラクター)のぬいぐるみを掲げているのを見て、「あっ、私、このキャラクター知ってる。えこぴょんって言うねん」と親戚に話しました。法政大学を知ることによって、「関大とは、関大生とは」と考えるようになって、関西大学のことももっと好きになった気がしますし、お互いの大学をさらに知るきっかけになったかと思います。
―― 留学の経験をきっかけに、新しい目標や今後挑戦したいことなどがあれば教えてください。
廣瀬 克哉 総長
渡壁 地域と食について学んできた中で、百貨店で物産展を開催する意義や全国チェーンとローカルチェーンの違いなど、卒業研究で取り組んでみたいテーマを見つけることができました。興味の方向は決まっていましたが、留学することで2年生の間に細かいところまで定めることができたのは、いい収穫でした。
また、一人で物事を開拓していく力をより強化できたと思います。自分がどれだけ周りの人に支えられていたかということも、就職する前に知ることができましたし、知らない土地に飛び込んでやっていけるという自信にもつながりました。
日和 人間環境学部で学んできたことが、留学を経て強化されました。この学びを生かして公務員として環境問題の解決に尽力することを目指し、就職活動をがんばっていきたいです。
また、友達や親にいかに支えてもらっていたか、そのありがたみを感じたので、これからも周りの人を大事にしていこうと思いました。
渡壁 友達が近くにいないというのは不安ですよね。私は、日和さんとは留学前に知り合えたのが心強かったです。
日和 関西大学ではこれから国内留学する予定の学生や戻ってきた学生の交流会があって、渡壁さんとはそこで知り合えました。
渡壁 留学前に、日和さんや法政大学に留学した先輩方から、住むところや授業の選び方、シラバスの見方などもいろいろ教えてもらえました。
廣瀬 法政大学でも交流会は実施しているのですが、今後は留学する前の学生も参加できるようにするのがいいかもしれませんね。
―― 最後に、国内留学に興味を持っている学生さんへのメッセージをお願いします。
鷹觜 夕子 学務部学務課長(司会進行)
日和 国内留学は言語の壁がないですし、自由度の高い学びを自分で構築できるのが最大の魅力だと思っています。私のように「これを学びたい」ということが決まっている人も、そうではない人も利用しやすい制度です。むしろ、視野を広げるという意味では、自分のやりたいことがまだ明確になっていない人こそ応募してほしいです。
渡壁 私は、大阪と東京の違いを知ることができるのが一番の魅力だと思います。就職活動前に国内留学することで、地域に関わらず働く場所の選択肢を広げることができますよ。
廣瀬 お二人が両校での学びで得た視点は、これからのキャリアの中で武器になると思います。あせらず着実に頑張ってくださいね。
国内のローカルな生活環境で生まれ育つと、自分では自覚できない視野の限定ができてしまうことがあります。国内留学制度を利用して、そんな自分の意識していない限定に気づきを得る機会を多くの学生に経験してもらい、そのメリットを経験した学生から後輩に発信してもらいたいと思います。
本日はありがとうございました。
一同 ありがとうございました。