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窒化ガリウム(GaN)を用いた二次元X 線イメージングセンサーを開発― 次世代X 線イメージング用半導体としてのGaN の可能性を拓く ―

  • 2026年11月06日
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発表のポイント

・窒化ガリウム(GaN)を用いた40 × 40 画素(1,600 画素)の二次元X 線イメージングセンサーを作製し、X 線画像の取得に成功しました。
・80 μm の画素ピッチを有するGaN センサーと読み出し集積回路(ROIC)を一体化し、GaN による二次元X線イメージングを実証しました。
・現在、マンモグラフィ用の直接変換型X 線検出器として広く用いられているアモルファスセレン(a-Se)と比較して、GaN は入射X線によって電子・正孔対を生成するために必要な平均エネルギーが小さいという特長があります。a-Se では約50 eV、GaN では約8.9 eV であることから、吸収されたX 線エネルギーが同じと仮定した単純計算では、GaN は約5.5 倍の信号電荷を生成できる可能性があります。高い信号電荷を活かし、将来的なX 線撮像の低線量化への応用が期待されます。
・本成果は、法政大学イオンビーム工学研究所の堀切文正教授、西村智朗所長・教授、太田博研究員、三島友義所員(元法政大学教授)らと、静岡大学および韓国BTOZ HOLDINGS CO., LTD.との共同研究による成果です。
・本成果は、2026 年11 月8~13 日に熊本で開催されるInternational Workshop on Nitride Semiconductors 2026(IWN 2026)において、Late News Oral Presentation として11 月9 日に発表します(講演番号:LN1-1-ED)。

概要

法政大学イオンビーム工学研究所の堀切文正教授、西村智朗所長・教授、太田博研究員、三島友義所員(元法政大学教授)らの研究グループは、静岡大学および韓国BTOZ HOLDINGS CO., LTD.との共同研究により、窒化ガリウム(GaN)を用いた二次元X 線イメージングセンサーを開発し、X 線画像の取得に成功しました。
GaN は、青色発光ダイオード(LED)や半導体レーザに加え、近年では高耐圧・低損失のパワーデバイス材料として活発な研究開発が進められている半導体です。約3.4 eV の広いバンドギャップや高い耐放射線性などの特長を有し、X 線検出材料としても注目されています。
特に、現在マンモグラフィ用の直接変換型X 線検出器として用いられているアモルファスセレン(a-Se)と比較すると、Ga の原子番号(31)はSe(34)と近く、X 線に対して比較的近い吸収特性を有します。一方、GaNはX 線によって電子・正孔対を生成するために必要な平均エネルギーが小さいという特長があります。典型的な動作条件におけるa-Se では電子・正孔対1 組を生成するために約50 eV を必要とするのに対し、GaN では約8.9 eV と報告されています。このため、吸収されたX 線エネルギーが同じで、生成された電荷をすべて収集できると仮定した単純計算では、GaN ではa-Se の約5.5 倍の信号電荷を得られる可能性があります。この特長を活かすことで、将来的にはより少ないX 線量での撮像が可能となり、医療用途では被ばく線量の低減につながることが期待されます。
今回、研究グループは、厚さ500 μm の半絶縁性GaN 基板上にNi/Ti/Au 画素電極を形成し、3.2 × 3.2 mm2の領域に40 × 40 画素、合計1,600 画素を80 μm ピッチで配置したGaN X 線イメージングチップを作製しました。このGaN チップを銀(Ag)マイクロバンプによって読み出し集積回路(ROIC)と接続し、二次元X 線イメージングセンサーを構成しました。
150 kV、0.5 mA で動作させたX 線管を用いて撮像実験を行った結果、鉛で形成した文字パターンを40 × 40画素の二次元X 線画像として取得することに成功しました。研究グループが調査した範囲では、GaN 画素アレイとROIC を一体化したセンサーによる二次元X 線イメージングの実証は世界で初めてです。
本成果は、2026 年11 月8~13 日に熊本で開催される窒化物半導体分野の国際会議International Workshop onNitride Semiconductors 2026(IWN 2026)において、Late News Oral Presentation として発表します。発表は11 月9日17:00~17:15、講演番号LN1-1-ED、発表題目は「First Demonstration of a GaN Two-Dimensional X-ray ImagingSensor」です。

詳細な説明

1.背景
X 線イメージングは、医療診断をはじめ、半導体・電子部品の非破壊検査、セキュリティ検査など幅広い分野で利用されています。より高感度・高分解能なX 線イメージングを実現するため、新しい半導体検出材料の開拓が進められています。
GaN は、青色LED や半導体レーザなどの光デバイス材料として発展し、近年では電気自動車や電力変換装置などに使用する次世代パワーデバイス材料としても活発に研究開発されています。広いバンドギャップ、高い耐放射線性などを有することから、X 線検出材料としても有望です。
マンモグラフィでは、直接変換型X 線検出材料としてa-Se が広く利用されています。Ga の原子番号(31)はSe(34)と近く、X 線に対して比較的近い吸収特性を有します。一方、GaN は、X 線によって電子・正孔対を生成するために必要な平均エネルギーがa-Se より小さく、吸収されたX 線エネルギーが同じで、生成された電荷をすべて収集できると仮定した単純計算では、より大きな信号電荷が期待できます。
しかし、これまでGaN を用いた放射線検出素子や画素型検出器について研究が進められてきたものの、多数のGaN 画素からなる二次元アレイを読み出し集積回路(ROIC)と一体化し、被写体の二次元X 線画像を取得した例は限られていました。

2.研究手法と成果
研究グループは、これまでGaN 縦型パワーデバイスの研究で培ってきた素子設計および微細加工プロセス技術を活用し、法政大学マイクロ・ナノテクノロジー研究センターのクリーンルーム設備において、厚さ500 μmの半絶縁性GaN 基板を用いてX 線イメージングセンサーを作製しました。GaN 基板上にはNi/Ti/Au からなる画素電極を形成し、80 μm の画素ピッチで40 × 40 画素、合計1,600 画素を3.2 × 3.2 mm2 の領域に配置しました(図1)。
作製したGaN X 線イメージングチップの各画素を、Ag マイクロバンプによって読み出し集積回路(ROIC)へ接続しました。ROIC は各画素から得られる微小な電気信号を読み出す役割を担います。今回のX 線画像は、一定時間に発生した信号電荷を蓄積して読み出す電荷積分方式により取得しました。さらにROIC をプリント基板および評価ボードへ実装することで、X 線画像を取得できる評価システムを構築しました(図2,図3)。

X 線管を150 kV、0.5 mA で動作させ、GaN センサーへX 線を照射しました。被写体として鉛で形成したカタカナの「イ」の文字パターンを配置して撮像した結果、40 × 40 画素の二次元画像として文字形状を明瞭に確認することに成功しました(図4)。 
 

  • 図1

  • 図2

  • 図3

  • 図4

なお、今回のX 線イメージングでは、鉛で作製したカタカナの「イ」を被写体として使用しました。これは、1926 年に静岡大学の前身である浜松高等工業学校の高柳健次郎博士が、電子式テレビジョンの実験においてブラウン管上にカタカナの「イ」の文字を映し出したことにちなんだものです。2026 年はこの実験からちょうど100 年にあたります。本研究が静岡大学との共同研究であることから、この歴史的な「イ」にちなみ、GaN を用いた新しいX 線イメージングセンサーの最初の被写体として「イ」を選びました。
本成果により、GaN を単一のX 線検出素子として利用するだけでなく、多数の画素から構成される二次元X線イメージングセンサーとして利用できることを実験的に示しました。

3.今後の展望
今回作製したセンサーは40 × 40 画素、80 μm ピッチの初期実証デバイスです。今後は画素数の増加、大面積化、GaN 結晶およびデバイス構造の最適化、読み出し回路とのさらなる高密度集積化を進め、X 線検出感度、空間分解能、エネルギー分解能などの性能向上を目指します。
今回開発したセンサーは、GaN 基板の表面に画素電極を形成し、反対側の共通電極側から、基板の厚さ方向にX 線を入射するFace-on 構造です。一方、GaN 基板の側面からX 線を入射するEdge-on 構造を採用することで、電荷の輸送距離を抑えながらX 線の吸収長を長く確保することができます。この特長を活かすことで、今後、GaN X 線検出器のCT への応用の可能性も広がります。
近年実用化が進むフォトンカウンティングCT では、高いX 線吸収効率が求められるため、CdTe などの高原子番号半導体が検出材料として利用されています。一方、今後CT の高性能化や普及が進み、検出器材料に対する需要がさらに増加した場合には、材料の供給能力を確保するとともに、検出材料の選択肢を広げることも重要になります。GaN はパワーデバイス用途を背景として基板製造技術や供給基盤の拡大が進められており、Edgeon構造によって十分なX 線吸収長を確保することで、CT への応用可能性を検討しています。
また、本研究と関連して、GaN を次世代医療用X 線検出器へ応用するための研究成果について、2026 年に米国シカゴで開催されるRadiological Society of North America 2026(RSNA 2026)において、共同研究先から2 件の発表が予定されています。Photon Counting については現在実証を進めており、今回のIWN 2026 で報告する二次元X 線イメージングの成果を基盤として、GaN を用いた次世代X 線イメージング技術の確立を目指します。
本研究で開発したGaN 二次元X 線イメージングセンサーチップおよび評価ボードの実物は、2026 年12 月9日~11 日に東京ビッグサイトで開催されるSEMICON Japan 2026 の法政大学イオンビーム工学研究所ブースにて展示する予定です(Booth No. W1079)。

IWN 2026 学会発表情報

発表タイトル:First Demonstration of a GaN Two-Dimensional X-ray Imaging Sensor
発表者:Fumimasa Horikiri, Yuki Shinmura, Katsuyuki Takagi, Hiroki Kase, Hiroshi Ohta, Tomoyoshi Mishima, TomoakiNishimura, Hyun-Jae Lee, Sunny Kim, Joung-Hun Shin, and Toru Aoki
学会:International Workshop on Nitride Semiconductors 2026(IWN 2026)
開催期間:2026 年11 月8~13 日
開催地:熊本
発表日時:2026 年11 月9 日 17:00~17:15
講演番号:LN1-1-ED
区分:Late News Oral Presentation

学会要旨

IWN 2026 のConference Abstract は、2026 年11 月6 日(金)12:00(日本時間)に公開されました。

関連発表

M.-K. Cho, J.-H. Shin, H.-J. Lee, and Y.-J. Lee, “Face-on GaN Photon-Counting Mammography Detector: 5.5× SNR over a-Se with Intrinsic K-Edge Fluorescence Immunity,” RSNA 2026, Session S1-SSPH01: Physics (Cone-beam CT andMammography), Lecture No. S1-SSPH01-7, November 29, 2026, 9:00 AM.
M.-K. Cho, J.-H. Shin, H.-J. Lee, and Y.-J. Lee, “Single-Polarity Edge-on GaN: A Cadmium-Free Photon-Counting CTDetector Exceeding the CdTe Combined Figure of Merit,” RSNA 2026, Session W6-SSPH10: Physics (Photon CountingDetector CT II), Lecture No. W6-SSPH10-5, December 2, 2026, 1:30 PM.

SEMICON Japan 2026 出展情報

開催期間:2026 年12 月9 日(水)~11 日(金)
開催地:東京ビッグサイト
ブース番号:W1079
展示予定:GaN 二次元X 線イメージングセンサーチップ、評価ボード
 

用語解説

※1 窒化ガリウム(GaN)
 ガリウム(Ga)と窒素(N)からなる化合物半導体。約3.4 eV の広いバンドギャップを持ち、青色 LED、半導体レーザ、高周波デバイス、パワーデバイスなどに利用されています。放射線検出器への応用も研究されています。
※2 アモルファスセレン(a-Se)
 非晶質のセレン。X 線を電気信号へ直接変換できる材料で、マンモグラフィ用の直接変換型X 線検出器な
どに利用されています。
※3 CdTe(テルル化カドミウム)
 カドミウム(Cd)とテルル(Te)からなる化合物半導体。X 線を効率よく吸収できることから、X 線・ガンマ線検出器に広く利用されています。
※4 ROIC(Read-Out Integrated Circuit:読み出し集積回路)
 半導体検出器の各画素で発生した微小な電気信号を読み出し、画像情報へ変換するための集積回路です。
※5 Face-on / Edge-on 構造
 Face-on は基板の広い面(主面)に垂直にX 線を入射する構造、Edge-on は基板側面からX 線を入射する構造です。Edge-on ではX 線の吸収方向と電荷の輸送方向を分けることができ、電荷輸送距離を抑えながら長いX 線吸収長を確保できます。
※6 IWN(International Workshop on Nitride Semiconductors)
 GaN をはじめとする窒化物半導体の材料、結晶成長、物性、デバイスなどについて議論する国際会議です。
※7 RSNA(Radiological Society of North America)
 北米放射線学会。医用画像診断、放射線医学および関連する医療技術に関する世界最大規模の国際学会・展示会の一つです。


【研究内容に関するお問い合わせ先】
 法政大学 イオンビーム工学研究所 教授 堀切 文正
 E-mail:masa.horikiri@hosei.ac.jp 

【取材に関するお問い合わせ先】
 法政大学 総長室広報課
 TEL:03-3264-9240 E-mail:pr@adm.hosei.ac.jp