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国際的な平和と安全のために課される強制措置を探究(法学部国際政治学科 本多 美樹 教授)

  • 2022年12月09日
お知らせ

法学部国際政治学科
本多 美樹 教授


英字新聞の記者という前身から、国際情勢に深い造詣を持つ本多美樹教授。
国際社会の平和を維持する機構として国際連合の存在に着目し、経済制裁などの強制措置の研究を深めています。

多くのジレンマを抱える、平和のための強制措置を探究

専門分野は国際関係学で、「国際社会の平和のための強制措置」をテーマに研究を進めています。長年注目しているのは、国際連合(国連)の動き、中でも安全保障理事会(安保理)の経済制裁です。

国連の安保理は、国際社会の平和と安全の維持に責任を有し、5カ国の常任理事国(米国、英国、フランス、ロシア、中国)と地域ごとに選出される10カ国の非常任理事国が話し合って、紛争国にどのような介入を行うかなどを決めています。手続き的な事項以外の決議には常任理事国5カ国全ての賛成が必要で、いずれかの国が反対した場合は成立しません。結果的に、安保理による強制措置は実施できなくなります。顕著な例が2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻でしょう。ロシアの拒否権行使によって、ロシアへの非難決議すら採択できませんでした。

そこで主要国および各国の企業はそれぞれの判断により、内戦や侵略を食い止めようと経済制裁などを働き掛けるのですが、その余波により、巻き込まれた市民の平和な生活が脅かされるというジレンマを起こしています。

世界の平和は、自国の国益を守ろうと戦略的に駆け引きをする国家関係の上に成り立っています。その前提を踏まえて、外部からの強制的な措置は、平和の回復や維持にどれほど寄与できるのか。この問いの答えを求めるのが、現在の関心事です。複雑に絡んだ国際社会の中では、容易に答えが見つかることはないでしょう。少しでも良い結果につながる策はないのか、探究し続けたいと考えています。

  • 国際平和を話し合いながらも各国が国益をしのぎ合う、極めて政治的な場である国連安全保障理事会の決議の風景(ⒸUN Photo/Loey Felipe)

経済制裁の効果を示すデータの可視化に挑みたい

研究者になる前は、英字新聞のジャパンタイムズで記者をしていました。転機のきっかけは、1990年のイラクによるクウェート侵攻に端を発した湾岸戦争です。日本にも平和活動への協力が求められるなど、世界各国に大きな影響を及ぼし、国際的な平和と安全の維持に、国連が果たす役割の重要性が改めて浮き彫りになった出来事でした。歴史に残る一大事を目の当たりにして、安全保障や国際社会の秩序はどうあるべきかを考えさせられ、国際関係学を学びたくなり大学院に進みました。修了後は記者に戻るつもりでしたが、学びへの好奇心が止められず、研究者への道を歩むことにしたのです。

国際社会の安全保障を考えるとき、判断が悩ましいのが「経済制裁による効果」です。争いの士気をそぎ、鎮静化させることが目的なので、厳しい締め付けで追い詰めて反発心を刺激するのは望ましくありません。逆に、影響の乏しい介入では制裁になりません。

経済制裁の効果を正確に判断するためには、どのような措置がどのような効果を生んだのかを数量化してデータを可視化して示すことが重要です。それだけに、今後はデータサイエンス領域の知識と学際的な視野を取り入れて、研究をアップグレードしていく必要性を感じています。

幸い、総合大学である法政には、他分野の研究者からの協力を得る機会と自由な研究を後押ししてくれる環境があります。そのリソースを生かしてネットワークや研究領域を広げながら、研究力を強化、発展させていきたいと考えています。

  • 東アジアの研究者と北東アジアの安全保障と国連の対応について議論を交わした際の一枚(2009年開催のシンポジウムにて)

国際社会で起きていることへの感度を身に付けてほしい

学生には、さまざまな実体験を積んでほしいと願っています。同じ風景でも、スマートフォンの画面越しに眺めて楽しむ場合と現地に行って肌で感じる場合では、心に残る印象が大きく異なるからです。コロナ禍の影響で、数年間にわたって渡航が制限されたことはとても残念に感じています。

ただ、ウィズコロナの時代に入ってもできることはあるはずです。まずは興味のアンテナを広げて、さまざまなことに目を向けてください。感染症対策のための行動制限はいまだありますが、できれば外へ出て、新しい経験をしてみることをお勧めします。その一つ一つの経験が、人間力を高める「実践知」の種になるからです。

国際社会は政治力のある大人がつくっているわけではありません。一人一人が国際社会の責任ある担い手(ステークホルダー)なのです。世界で起きていることは他人事ではなく、自分に関連する問題だと捉えられる感度を身に付けてほしいと願っています。

問題の存在に気付いたら、解決するために何をすべきか考えたり、少しでも変化を起こすための知恵や知性を得たくなるでしょう。その向上心が未来を育むことを信じて、学生一人一人に寄り添い、後押しを続けていきたいと思っています。

  • 2022年度のゼミは「グローバル・イシューの脅威―現代のマルチラテラリズムを問う」というテーマの下、グループ研究に取り組んでいる

(初出:広報誌『法政』2022年11・12月号)

法学部国際政治学科

本多 美樹 教授(Honda Miki)

成蹊大学卒業後、記者として英字新聞ジャパンタイムズに勤務。その後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際関係学専攻国際関係学修士課程修了、同大学院にて博士後期課程修了。博士(学術)。早稲田大学社会科学総合学術院准教授を経て、2017年4月より本学法学部国際政治学科教授に着任、現在に至る。日本国際連合学会理事、日本国際政治学会では2022年度研究大会実行委員長を務めた。