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リアルな映像を速く簡単に作るために(情報科学部ディジタルメディア学科 佐藤 周平 准教授)

  • 2022年11月25日
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情報科学部ディジタルメディア学科
佐藤 周平 准教授


ESSAYでは、15学部の教員たちが、研究の世界をエッセー形式でご紹介します。

コンピュータグラフィックスの研究

この数十年の間にコンピュータグラフィックス(以下CG)の技術は飛躍的に発達し、現実と見分けがつかないほどリアルな映像を至る所で見かけるようになりました。映画やゲームといったエンターテインメント分野の映像では、リアルなものやアニメ調のものも含めてその大半がCGを用いて制作されていますし、テレビやインターネット上の番組でもCGの技術は頻繁に活用されています。また映像作品以外でも、工業製品の設計や医療、訓練用のシミュレータなど幅広い対象への利用が進んでいます。

このようにさまざまな場面で利用されているCGですが、実は簡単に作れるものではありません。私たちが普段目にしているCGは、高度な数学や物理の理論に基づいてコンピュータにより計算されます。また自然現象を再現するために、物理法則に基づいたシミュレーションを用いて映像を作成する場合もあります。このように、実際の物理現象をコンピュータ上で再現しリアリティを追求することが、CG研究の至上命題です。加えて、なるべく高速に計算することもCG研究のもう一つの大きな目的です。リアリティを追求するほど、物理方程式をより高精度に解く必要があり、その結果計算に多くの時間を要します。そのためCG研究では、視覚的なリアリティを保ちつつ、可能な限り計算を高速化する方法を追求します。

物理シミュレーションの利用

自然現象の映像を作成するには、物理法則を再現するシミュレーションが頻繁に利用されます。私がこれまで主に研究の対象としてきた流体(水、煙、炎や雲などの総称)も、物理シミュレーションを用いて映像を制作する自然現象の一つです。

流体の物理シミュレーションでは、流体の運動を記述するナビエ・ストークス方程式(以下NS方程式)を解くことで、その動きや見た目をリアルに表現できます。このNS方程式はミレニアム懸賞問題※の一つで、まだ解かれていません。そのため、近似的な方法でこの方程式を解いていきます。しかし、この方程式を解くにはとても多くの計算時間を必要とします。また、NS方程式には比例関係にない非線形な項が存在するため、シミュレーション結果を予想するのが困難です。そのため、ユーザの望む映像を作るには、シミュレーションを何度も繰り返し、結果に関係する数値を調整していく必要があります。

これはとても煩雑な作業であり、この問題を解決するために20年以上にわたって数多くの研究が行われてきました。例えば、ユーザの与えた特定の形状によって流体を制御する方法などがあります。このアプローチでは、シミュレーションの繰り返しを極力減らし、映像制作を効率化できます。さらに最近ではリアリティと高速化に加え、より簡単な操作で流体の映像を作る方法にも注目が集まっています。

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簡単な操作の実現

次に私が発表した、より速くより簡単にリアルな流体の映像を作るための研究を二つ紹介します。

一つ目は、テキストや画像などに対して一般的に行われるコピー&ペーストの操作を流体シミュレーションに取り入れるための研究です。スマートフォンやタブレット端末が普及した昨今では、URLやウェブ上の文章をコピーして違う場所に貼り付けるという操作を、多くの人が経験していると思います。また、画像の一部を切り取って別の場所に貼り付けるのも、日頃頻繁に行われる操作です。私の研究では、この操作を取り入れて流体シミュレーションの結果を編集できるようにしました。その結果が図1下の画像になります。

図1

この例では、左上のオレンジ色の球状の障害物のある領域(青色の線で囲った部分)をコピーし、それを右下に貼り付けます。そうすると、ただ煙が流れていた所に障害物がある場合の流れを合成できます。実際には、単にコピーして貼り付けただけでは青色の線の付近で流れが不連続になってしまうため、その部分を滑らかにする方法を提案した研究になります。この研究により、これまでにない簡単な方法で流体のCGを編集し、望む流れを高速に生成できます。

二つ目は、ユーザが指定した流れに従うようにシミュレーションを制御する研究です。これはまず図2の上の画像のように、作りたい流体の形や動きを入力用として用意します。これは流体シミュレーションで作る必要はなく、直接流体の速度を設定するなどして簡単に作成できます。実際、図2の上の画像はシミュレーションで作ったものではないため、全く流体のようには見えないものとなっています。そして、この入力用に従うようにシミュレーションを制御し生成された結果が図2の下の画像となります。全体的な形や動きはそのままに、流体らしい動きが追加されています。このように大まかな形や動きを与えると、それに従った流体らしい動きを生成できる方法となっており、望む流体の映像を簡単に作成できます。

図2

より簡単で高速なCG映像の生成を目指して

ここで紹介した二つの研究は、私がこれまで行ってきた研究の一部であり、他にも同様の目的で行った研究がいくつかあります。しかしながら、冒頭に挙げた問題があらゆる場面において解決されたわけではなく、継続して世界的に研究が行われています。私もリアルなCG映像をより簡単により高速に作り出せる方法を目指して、これからも研究に邁まい進していきます。

(初出:広報誌『法政』2022年11・12月号)

情報科学部ディジタルメディア学科

佐藤 周平 准教授(Sato Syuhei)

1986年生まれ。2009年、北海道大学工学部卒業。2014年、北海道大学大学院情報科学研究科博士後期課程修了。博士(情報科学)。2014年から2019年まで、株式会社ユビキタスエンターテインメント、株式会社ドワンゴ、プロメテック・ソフトウェア株式会社にて研究員。2019年、富山大学学術研究部工学系助教。2022年から現職。専門はコンピュータグラフィックス、特に流体の流れの生成や編集に関する研究に従事。本文で紹介した研究の論文は、「Editing Fluid Animation using Flow Interpolation」(ACM SIGGRAPH 2019)、「Stream-Guided Smoke Simulations」(ACM SIGGRAPH 2021)。