2025年度

大江宏の建築を後世へ継承する -小堀哲夫研究室の実測調査より-

2025年度

 デザイン工学部建築学科の小堀研究室では、大江プロジェクトと題し、本学建築学科の礎を築き、市ケ谷キャンパスの55・58年館も手がけた大江宏が設計した作品を毎年1点選定し、調査を行っています。本プロジェクトは、建築の記録と実測から図面と模型の制作を行い、大江建築の魅力を幅広く発信していくものです。

 2024年に実測を行った梅若能楽学院会館は、建築家・大江宏が設計し、1961年に竣工した東京都中野区の能楽堂です。この調査では、建築と能楽のつながり、および自然光と能舞台の成り立ちの関係性について検証しました。ほかの能楽堂と比較することで見えてくる梅若能楽学院会館の建築としての魅力、竣工当時と現在との自然光の有無による舞台周りの照度の違いと感じ方を演者の方々へのインタビューや照度数値を実測することで明らかにしました。最終成果物では各階平面図および配置図、演者インタビューや照度実測、2023年に調査した普連土学園の生徒を対象とした実測ワークショップの内容をまとめたパネルを制作しました。また、本建築への自然光の流入とその様子が分かるよう舞台を中心とした50分の1の部分断面模型、竣工当時の周辺環境と建築の関係性が分かる100分の1の敷地全体復元模型を制作しています。実地調査と演者の方々へのインタビューから、客席と舞台とが適切な距離感にある本建築はコンパクトでありながら音が吸収されすぎない絶妙なバランスをもった建築であり、演者の方々にも愛される建築であると言えます。コンクリート造の〝洋〞の中に〝和〞の要素をもつ木目を用いているところにも梅若能楽学院会館の魅力が詰まっているのではないでしょうか。このように、客席と舞台の関係性、自然光の取り込みと舞台での活かし方や竣工当時に見られた池と関係をもった大江宏の細やかなテクスチャを見ることができます。

建築を記録するために作成した野帳図(舞台の梁装飾部分)

  • 梅若能楽学院会館

  • 50分の1の部分断面模型

 現在開催中の企画展示「大江宏の建築を後世へ継承する」では4年間にわたり、調査を行った大江宏設計の4建築を模型と図面をメインに紹介します。本プロジェクトを通して、毎年継続的に大江研究と建築の記録を行うことは、私たちにとって大きな意義があると同時に、多くの方々に大江宏の建築の魅力を伝える貴重な機会になると考えています。

 

  HOSEIミュージアム 2025年度特別展示
  大江宏の建築を後世へ継承する  ―小堀哲夫研究室の実測調査より―
【期間】2025年10月3日(金)~ 2026年 3月14日(土)(予定)
【会場】HOSEIミュージアム    ミュージアム・コア(九段北校舎1階)

制作協力:法政大学 HOSEIミュージアム事務室

(初出:広報誌『HOSEI』2025年12・1月号)