経済学部国際経済学科
池上 宗信 教授
ケニアやエチオピアの遊牧民を対象に、開発途上国の経済活動を研究している池上宗信教授。
現実の暮らしぶりを客観的に調査、分析することで、世界の貧困問題に向き合っています。
開発ミクロ経済学を専門としています。開発ミクロ経済学とは、個人や家計などの経済行動を分析するミクロ経済学の中でも、開発途上国を対象とした学問分野です。私は主にエチオピア南部とケニア北部の遊牧民に着目し、彼らの家計状況を分析しています。
エチオピアやケニアが位置する東アフリカは降水量が少ない乾燥地帯で、農作物が育ちにくい環境にあります。そのため、水と牧草を求めて移動しながら家畜を育て、繁殖させる遊牧で生計を立てる家族が多く暮らしています。
厳しい自然環境での遊牧生活は不安定で、周期的に干ばつの危機に見舞われることもあり、貧困という根深い社会問題に直面しています。中には「貧困の罠*1」と呼ばれる悪循環が生じているケースもあり、そこから抜け出すためには、経済的に豊かな諸外国からの経済協力や開発支援が不可欠です。
とはいえ、推定だけで支援の必要性を訴えることはできないので、貧困状況を判断するための根拠が必要です。それが、対象地域を正確に調査して検証した家計データなのです。
現在はエチオピア南部の500世帯ケニア北部の900世帯の遊牧民を対象に家計行動を調査研究中です。その結果を論文にまとめることで、貧困問題解決の一助となるような支援策の提言につなげたいと考えているのです。
開発途上国は世界の7割以上を占めています。日本も国際協力機構(JICA)などを通じて、多くの開発途上国に経済支援をしていますが、問題は山積みです。開発途上国の生活環境をより良くするために何ができるかを追究する開発経済学は、国際社会に寄与する実践的な学問で、まさに「実践知」だと感じています。
2010年10月、ケニア在住時に同国で暮らす遊牧民を調査。全地球測位システム(GPS)を使って調査地点の位置を記録している
貧困や紛争などの国際的な社会問題と向き合うために、自分にできることをしたいと思い始めたのは、高校時代からです。国際機関で働く国際公務員を目指し、大学を卒業した後はケニアにある国際家畜研究所に所属。研究員として、約10年間勤めていました。
2018年からは拠点を法政大学に移して、研究を続けながら教育者としても歩み始めました。日本で職に就くことにも、教育者という立場で学生と接するのも初めてで、最初は空回りばかりしていました。
5年を経て少し落ち着いてきたので、今後は研究成果を示すことにも注力したいと考えています。2023年3月には英国オックスフォード大学アフリカ経済研究センターが主催する学会に参加して、論文発表をする予定です。
日本に戻ってきてからの学会発表はこれが初めてになります。これを機に、積極的に活動を展開していきたいですね。学会にはアフリカ経済に興味がある人が集まるので、意見交換ができれば、研究をブラッシュアップできます。
また、前職のように現地に滞在して調査することができない以上、国境や大学の枠を超えたネットワークは、研究を進めるために大いに役立ちます。お互いに協力し合える輪が広がることを期待しています。
法政大学の経済学部には、多方面で研究成果を上げている先生がおられます。その刺激を受けながらも、自分は学生に対して何を提供できるのか、どのように学生の学びをサポートしていけばよいか、自問自答する日々です。教育者としては発展途上中の身だと自覚しているので、学生の後押しをするというより、学生と共に歩みながら、寄り添っていきたいと考えています。
文系に類すると考えられがちな経済学ですが、私が携わっているミクロ経済学、開発経済学の分野では、数学スキルは不可欠です。調査データを集計したり、傾向を分析したりするために、数式も図も多用しています。
いわば文理が融合した学問なので、社会に出てからも応用範囲が高いと思うのですが、その有用性を示すには、まだ認知度が足りないようです。周知していくために、研究面でも教育面でも試行錯誤が必要だと感じています。
近頃の学生たちを見ていると、コロナ禍という状況下で制約に縛られていたせいか、どこか覇気がない印象を受けます。大学時代の4年間は貴重なので、自由に使える時間を大切に、戦略的に有効活用してほしいですね。
停滞していた2年間を振り返るよりも、これからの未来を見て、意欲的に挑戦できること、夢中になって熱い思いをぶつけられることを見つけてほしいと願っています。
(初出:広報誌『法政』2023年3月号)
*1 貧困の罠:低所得層の人は貧しいが故に教育水準が低く、労働生産性を高められないことから所得を増やしづらいという悪循環が生じること
*2 論文:『Can insurance alter poverty dynamics and reduce the cost of social protection in developing countries?』( イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のSarah Janzen教授とカリフォルニア大学デービス校Michael Carter教授との共著)
経済学部国際経済学科
池上 宗信 教授(Ikegami Munenobu)
中央大学総合政策学部政策科学科卒業、ウィスコンシン大学マディソン校農業応用経済学科博士課程修了。博士(農業応用経済学)。国際的な農業研究所であるInternational Livestock Research Institute(国際家畜研究所)の研究員としてケニアに駐在した後、2018年に法政大学経済学部教授として着任、現在に至る。「インデックス型家畜保険の需要増加の要因と長期的な経済効果の分析」の研究に携わり、発表した論文*2は2021年にAAEAInternational Section(米国農業応用経済学会国際部門) にて、Best Publication 2020(最優秀論文)を受賞。