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卒業生インタビュー:国境なき医師団プロジェクト・コーディネーター 末藤 千翔さん

  • 2021年10月05日
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プロフィール

末藤 千翔(Suefuji Chika)さん

1988年東京都生まれ。法政女子高等学校(当時)から法学部国際政治学科に進学。2011年3月に卒業後、日本の国際協力NGOに就職。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、パリ政治学院修士課程を経て、2018年、国境なき医師団のプロジェクト・コーディネーターに。これまでバングラデシュ、シリア、フィリピン、イラクで活動。

世界はつながっている。それを感じてもらうため、活動で知った共通点を発信していきたい

緊急性の高い医療ニーズに応えるため、独立・中立・公平な立場で医療・人道援助活動を行っている国際NGO「国境なき医師団」。その一員として、世界各地で活動している末藤千翔さんは、どの地域にもメディアでは報道されない「普通の暮らし」があり、世界はつながっていると言います。

イラクで展開中の緊急プロジェクトに従事

民間の非営利団体「国境なき医師団(MSF)」に参加して4年目を迎え、今年の5月中旬からイラクのバグダッドでプロジェクト・コーディネーターとして緊急プロジェクトに携わっています。

一時、中東で最高の医療水準を誇っていたイラクは、紛争で医療施設・体制が破壊されたところへ新型コロナウイルス感染症の蔓延が重なり、医療システムがひっ迫。MSFは現地の医療体制では治療の難しい、新型コロナウイルス感染症の重症患者を受け入れています。現在、55床の専用病棟が24時間稼働しており、当初の死亡率90%以上から、約60%が呼吸リハビリそして退院できるまでに状況が改善しました。また、今回のプロジェクトでは、患者さんや家族の精神面でのサポート、退院後のフォローアップなどにも力を入れています。

「医師団」という名称から、医師や看護師の活動というイメージが強いと思いますが、医療活動を展開するには、水や電気、通信網の確保、病院の建設、ドライバーや清掃員の採用、物資の調達など多くの作業が不可欠で、約半数が非医療従事者で構成されています。

プロジェクト・コーディネーターは活動地における責任者で、現地の役所や軍、警察との連携や交渉、治安や情勢、医療のニーズの変化の把握など必要な調整を担当します。MSFでは、セキュリティー確保の面からも、現地の人に受け入れてもらい、距離感を縮めることを重要視していて、私たちも積極的に街へ出かけ、市民と対話をしています。やはり最終的には人と人との関係、一緒に築き上げようという姿勢が大切だと思います。

フィリピンのミンダナオ島マラウィでは、街宣車で感染症に関する啓蒙活動を行った(右端が末藤さん)。© Gilbert G. Berdon/MSF

フィリピンのミンダナオ島マラウィでは、街宣車で感染症に関する啓蒙活動を行った(右端が末藤さん)。© Gilbert G. Berdon/MSF

海外の学生から受けた刺激が意識向上と行動の原動力に

高校3年の夏休みに英国のサマースクールに参加し、大学生から「ボランティアに参加して、マラリアの治療薬が入手できず、命を落とす人が今も絶えないという状況を変えるために、伝染病について学んでいる」と聞き、自分も問題意識を持って何かを学びたいと思いました。海外の大学にも興味があったので、派遣留学制度が充実している法政大学に進学しました。

大学1年次のサマースクール、3〜4年次の派遣留学の際に、現地で出会った学生が朝から晩まで勉学に励み、目標を叶えるために本気で挑む姿を目にし、世界の本気を肌で感じました。

長谷川祐弘先生のゼミでは、国際協力分野で活躍されている方から貴重な話を聞けたほか、シンポジウムの計画・運営や議事録作成など実務に近い作業を経験することもできました。ボランティア活動をきっかけに受け入れていただいた国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)でのインターンでは、問題意識を学びだけで終わらせず、行動につなげたいという思いが強くなりました。経験者の中途採用が多いNGOに新卒で就職できたのは、学生時代に「できない」とは言わずに何でもやってみたことが大きかったと思います。

大学4年次に訪れたイタリアのベネチア

派遣留学先の米国カリフォルニア大学デイヴィス校にて(前列左端が末藤さん)。

社会人1カ月目で実感「世界はつながっている」

大学卒業直前の2011年2月にマケドニアに赴任した直後に、母国が東日本大震災で大変な状況になっているのを目にして、「私はここで何をしているんだろう」ともどかしさを感じ、落ち込んだことがあります。そんなとき、日本の状況を心配した現地の人々が声をかけてくれて、「世界はつながっている」と実感しました。外見や言語、信仰は異なっていても、安全に安心して生活を送りたい、より良い世界を次の世代に残したいという望みは皆、同じなのです。

シリアやイラクには、新聞で報道されるような一面もある一方で、平和を願い、ごく普通の生活を送っている人が大多数です。日本にいると、紛争や飢餓、医療崩壊はどこか遠くで起きていることと思いがちです。そうした事象に外と中という線引きはなく、今回のパンデミックでは、日本でも移動や行動が制限され、医療崩壊に直面しています。これをきっかけに、世界の相違点よりも共通点に目を向け、今の自分に何ができるかを考えてもらえたらと思います。

接点を見いだせれば世界は広がり、考えは深まっていく

私が常に意識しているのは、より広い世界に目を向けることです。まずは、自分の周囲の空間から一歩外の世界に踏み出してみる、目を向けてみる。そこで、それまでの空間、社会との接点を見いだせれば、世界は広がり、考えが深まっていくはずです。

学びも同じで、行動を起こし、世界を少しずつ広げながら、自らの課題を見つけ、徹底的に追究し続けることが大切。自由な社会に生かされる一人として、その特権を自分なりの形で生かし、いかに社会に還元できるかを考える。それが私の責務であり、実践知だと考えています。

自分が本当にやりたいことに携われているので、今の仕事を大変だと思ったことは一度もありません。一人でも多くの人に世界のつながりを感じてもらい、よりよい社会づくりに貢献できるよう、これからも活動を通じて知った共通点を発信していきます。

 

(初出:広報誌『法政』2021年8・9月号)