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【総長研究室訪問企画 第5弾】社会学部 李舜志ゼミを訪問しました

  • 2026年01月23日
  • ゼミ・研究室
  • 教員
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2025年12月18日に「総長研究室訪問企画 第5弾」として、Diana Khor総長が社会学部メディア社会学科 李 舜志(り すんじ)准教授の研究室を訪問し、李先生および李ゼミ4年生(太田さん、有馬さん、楢崎さん、杠さん)にインタビューを行いました。
本学は法政大学憲章にて「真に自由な思考と行動を貫きとおす自立した市民の輩出」を社会に約束しています。教育現場の実践から、どのように法政ブランドが生み出されているのでしょうか。この企画では、総長が先生やゼミ生を訪問し、教育への思いやゼミ運営の工夫などを直接伺い、その魅力を広く発信していきます。

「意識の外側にある関心」に出会えるゼミ

コー:本日は社会学部の李先生の研究室に訪問しています。最初に気になったのが、このギターです。研究室でギターを弾かれることがあるのでしょうか。

李:大人数授業の中で、弾くタイミングがありますね。

コー:実際に授業でギターを弾いている李先生を見たことがある人はいますか?

有馬:オンライン授業で、歌手のモノマネをしている先生を見ました(笑)。

コー:それは印象に残りますね。改めて、先生は普段どのような研究をされているのでしょうか。

李:「テクノロジーと人間社会」がテーマです。特に最近はAIが話題になることが多いですが、作業をすべてAIに任せれば良いわけではありません。とはいえAIを全く使わないのも非現実的です。では、AIをどのように使えば、人々の自由や民主主義における公正さを後押しできるのか。その点を中心に研究しています。
 

コー:面白いですね。4年生の皆さんはどんな研究をされていますか。

太田:私は「ジェンダーレスファッションの将来性」について研究しています。特に「なぜ男性がスカートを履くと違和感を持たれてしまうのか」という問いをはじめとする、服装とジェンダーの関係性に関心があります。

有馬:私は、経験に意味を見出すことが求められる現代社会で、それが人間形成をどのように硬直させているかを研究しています。意味づけできない経験をあえて抱え続けることが、自分を新しく創り出していくための資源になると考えています。

楢崎:私は「体罰とリーダー論」に関心があります。なぜ、体罰が当たり前だった時代から問題視される時代になったのか、またそこから見えてくる指導者の在り方を研究しています。

杠:私は、自分の考えや気持ちを分かりやすく言語化することが評価される現代において、単純な言葉では掬い取れないものの複雑さや、その豊かさを捉え直す研究をしています。


コー:皆さん、本当に多様なテーマですね。李先生のゼミは、学科やコースの異なる学生が集まっているかと思いますが、ゼミの運営方針で大切にしていることはありますか。

李:教育理念と言うと大げさかもしれませんが、「本当の意味で学生の自由を守ること」を意識しています。今の中高生は大学受験のため、大学生になると就職活動のために、「いかに効率よく、無駄なく進められるか」を考えざるを得ない状況にあります。さらに、SNSの影響で自分や他人の効率性を監視しあっている時代です。そうした圧力の中で、教員が「学生の自由に任せる」として放任すれば、かえって学生は不自由になってしまうと私は考えています。「タイムパフォーマンス」や「最短距離」を気にしていたら見えなくなってしまうような、自分でも気づいていなかった関心――いわば意識の外側にある関心に出会える場を、ゼミで提供したいと思っています。遠回りでもいいし、すぐに役に立たなくてもいい。そうしたものを追いかけられる自由を、大学で味わってほしいですね。
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コー:すごく腑に落ちました。教育の本質だと思います。

大人数授業でも学生の「学ぶ姿勢」を養う

コー:では、ご担当されている「メディアと人間」のような大人数授業での工夫はありますか。

李:大人数授業で一番難しいのは、教員が一方的に話し続け、学生は聞いているだけという構図になりがちな点です。そこで私の授業では、VRゴーグルを持参し、学生と一緒にバーチャルリアリティーの世界を体験する回を設けています。また、ゲームを扱う回では、遊びではなく授業のために実際にゲームを動かします。

  • 大人数授業でVRゴーグルを使用する李先生

コー:冒頭で触れたギターもそうですか。

李:そうですね。ギターは、「私たち一人一人の感性が、知らないうちに社会の型に引き寄せられているのではないか」という問いを投げかけるために弾きます。私が弾きたいからではないですね(笑)。学生が関心を持ちやすいものと、自分の関心の外部にある社会問題が実は繋がっていることを教えて、学生自身で学びの姿勢をつくってもらえるように意識しています。

コー:とはいえ、弾きたい気持ちも少しあるのではないでしょうか(笑)。

李:少しはありますね(笑)。ただ、学生も「自分が授業に参加している」という実感を持てますし、私もやりたい形の授業ができているので、学生にも私にもWin-Winの関係だと思います。

コー:楽しそうな授業ですね。気を付けていることはありますか。

李:最近は、アクティブラーニングや学生の主体性が重視されていますが、「主体性はあくまで手段である」という点は意識しています。私の役割は、学生が自ら学ぼうとする姿勢を養い、普段の生活では出会わないような事象や、見過ごされがちな社会のテーマと偶然出会える環境をつくることだと考えています。

コー:とても大切な心構えですね。

読書と対話が行き詰まりを乗り越える秘訣

コー:皆さんは、自分の研究を進めていると行き詰まることもあると思いますが、そうした時はどう乗り越えていますか。

楢崎:一人で考えていると、どうしても分からなくなる瞬間があります。でも、ゼミ生同士で集まって話してみると、先生や他のゼミ生から全く違う角度の意見をもらえます。その度に「その視点はなかった」と気づかされます。また、先生はいつも根本的な部分を問い直してくださるので、「そもそもなぜこのテーマを選んだのか」という原点に立ち返ることができます。それがとてもありがたいです。

太田:私は、研究室の中だけではなく、遊んでいる時や食事の時にも、研究テーマについて話すことがあります。プライベートのふとした瞬間に、友達の意見で大きく視点が変わることも多いです

李:そうだったのですね。初めて聞きました。嬉しいです(笑)。

杠:私は行き詰まったときは先生に相談しています。先生は正解を教えるのではなく、正解が何なのかを一緒に考えながら伴走してくださるので、そうした姿勢に学生として信頼を感じます。

有馬:私は、本を読むようにしています。初回のゼミで、先生から読書の大切さを教わったのがきっかけです。自分の興味で読んでいた本を先生に「とても良いね」と褒めてもらったことがあり、卒業論文とは関係ない内容でも学びになることがわかりました。

コー:それは先ほどの「意識の外側にある関心に出会う」という先生の狙い通りですね。

有馬:はい。さらに、このゼミでは文献を回し読みし、筆者の考えを議論するワークがあります。そうした経験を通じて、実生活でも「この人の考え方に立てば、こう伝えられるのではないか」と想像できるようになりましたし、「自分はこう考えるけど、他の人は違うかもしれない」と多面的に考えられるようになり、思考の幅の広がりや他者理解の姿勢が身につきました。

コー:素晴らしいですね。それは一生ものの学びですよ。

ゼミはどんな場所か ――キーワードは「多様性」

コー:皆さんにとって、ゼミはどのような場所でしょうか。

太田:一言で表すと「多様性」です。ゼミ生一人一人が個性的で自分の軸を持っていて、議論の中で反対意見が出ても、なぜそう考えるのかを伝える努力を惜しまない人が多いです。自分の立場を理解し、相手の立場も理解しようとする体制ができているので、多様性のあるゼミだと思います。

コー:日本では反対意見を述べることに躊躇してしまう場面も多々あります。このゼミでは難しくないのですか。

楢崎:私はあまり躊躇したことはないですね。皆さんが自分の経験や根拠に基づいて、相手のことを想いながら反対意見を述べるので、単なる否定ではなく、「新たな視点を教えてもらっている」という感覚があります。

コー:なるほど。ゼミが「安全な場所」であることが自由な議論を可能にしているのですね。先生はそうした雰囲気づくりのために取り組んでいることはありますか。

李:着任して間もない頃は分からないことも多く、ゼミ生に支えられる場面が沢山ありました。その経験もあり、教員と学生の間に信頼関係を築くことは意識しています。学生同士の信頼に関しては、私から働きかけることもありますが、飲み会やBBQといった場を通して、学生が主体的に信頼関係を築いてくれている部分が大きいです。

コー:授業とプライベートを切り分けすぎないことで、ゼミが「安全な場所」となっているのですね。

「多様性を認めあう自由な学風」が育む真の自由

コー:最後にまとめになります。インタビューの中で、先生が「本当の意味で学生の自由を守ること」を意識されていることや、ゼミ生の皆さんから「信頼関係に基づく自由な議論」ができているというお話を聞いて、法政大学憲章と重なる部分が多くあると感じました。特に「真に自由な思考と行動」に関しては、まさに李先生のゼミで体現されていることだと思います。
皆さんも「法政大学憲章」を読んでいただき、ゼミに該当すると感じた箇所があれば教えてください。

楢崎:「自分の経験をもとに相手に寄り添い、時に反対意見も躊躇せず伝える」という李ゼミの体制は、タイトルにある「実践知」の体現なのではないかと感じています。

杠:私も同じ意見です。先生はよく「ゼミ生の皆さんのおかげで」とおっしゃいますが、先生自身も一体となって李ゼミを作っているというところが「実践知」だと思います。

太田:私は「健全な批判精神」が該当すると思います。ゼミ生全員が、他者を批判するだけでなく、自分自身も問い直す視点を持っているので、相手へのリスペクトを前提とした議論が行えています。

有馬:私は「多様性を認め合う」です。例えば、李ゼミとして一つの主張をまとめる際に、必ずしも全員の意見が反映されるわけではありません。それでも、一人一人が結果を受け入れられるところが、多様性を認め合うという箇所に合致すると思います。

コー:どれも素晴らしいですね。先生はどうですか。

李:私は「多様性を認め合う自由な学風」がゼミの狙いと似ていると考えます。多様な人たちが集まると、意見の違いから不自由さが生まれることも多く、好き勝手にやることが多様性、自由であると言われがちですが、それは違うと思います。このゼミでは「多様性を認め合ったうえでの議論」を大切にしています。多様性を認め合うことと自由であることは共存します。他者によって主張が変わる可能性がある前提で議論することが、多様性を認め合うことであり、「真に自由である」と言えるのではないでしょうか。

コー:そうですね。皆さんは普段この憲章を意識して生活されることはあまりないかもしれませんが、実は「自由を生き抜く実践知」を体現されていることがお分かりいただけたかと思います。大学の将来が明るいと感じられる素敵な時間でした。ありがとうございました。

法政大学 社会学部 メディア社会学科 准教授 李 舜志(り すんじ)

1990年、神戸市生まれ。法政大学社会学部准教授(2025年12月時点)。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。日本学術振興会特別研究員、コロンビア大学客員研究員などを経て現職。テクノロジーと人間の関係について哲学的に考察し、「ベルナール・スティグレールにおける注意概念について」で日本教育学会奨励賞受賞、共著のPhilosophy of Education in Dialogue between East and Westで Philosophy of Education Society of AustralasiaのBook Award 2024に選出。著作に『ベルナール・スティグレールの哲学 人新世の技術論』(法政大学出版局)、『テクノ専制とコモンへの道 民主主義の未来をひらく多元技術PLURALITYとは?』(集英社)。

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記事作成:ブランディング推進チーム職員(教員班)