大学院特定課題研究所一覧

記憶・記録・資史料研究所

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2024年5月31日更新

研究代表者 大学院国際文化研究科 教授 佐々木一惠
主たる研究分野 歴史学 国際関係学 文化人類学 (学際的研究)
研究概要

 本研究所(法政大学大学院 記憶・記録・資史料研究所)は、学際的な視点から歴史的な資史料を捉える方法を検討するものである。今日、過去の出来事や人びとの生活の営みに関する研究は、史学や考古学だけでなく、さまざまな分野において実践されている。またこれと連動して、過去に関する研究の方法を用いる資史料も多様化している。こうした一連の動きの発端となったのがアナール学派による実証的史学批判であった。アナール学派は、民俗学・人類学・地理学・経済学・統計学・心理学・言語学などの知見を取り入れ、総合的な歴史学の構築を目指した運動であった。そこでは民衆の生活や集合的記憶や心性などにも焦点が当てられた。さらにこうしたアナール学派の成果は、1970年代以降の社会史・民衆史・歴史人類学・女性史・ミクロヒストリアなどの興隆へとつながっていった。また資史料に関しても、聞き取り資料・裁判記録・書簡・日記・寺社や教会の記録など多様化した。
 本研究所はこれらの成果を踏まえた上で、歴史的な研究と資料・史料との関係を学際的な視点から問い直していく。昨今、歴史的な研究の資史料として、日記や手紙など市井の人びとによる記録としてのエゴ・ドキュメント、人びとの過去の経験に関する丹念な聞き取り、また写真、絵画、映像などの視覚的な記録に注目が集まっている。本研究所では、こうした資史料をつうじた歴史的な研究の可能性を、国際関係学・文化人類学・歴史学を有機的に連携させることで探っていく。具体的には、(1)書かれた過去の記録、(2)語られた過去の記録、(3)写された・描かれた・映された過去の記録、に焦点を当て検討していく。

(1)「書かれた過去の記録」
 これまで歴史的な研究の資史料として主に用いられてきたのが書かれた記録である。なかでも、中立性や信ぴょう性が高い記録とされてきたのが公文書である。一方、近年、人びとの日々の営みを書き綴った日記や手紙、また公文書の中でもセンサスや地図などの記録に注目が集まっている。さらに、こうした資史料を用いた歴史的な研究の中から、従来の見解や定説とは異なる視点や展開が浮かび上がってきている。(1)「書かれた過去の記録」では、これらの新たな研究の動向や成果を紹介し検討することで、歴史的な研究と資史料の今後の可能性や乗り越えるべき問題点について議論していく。

(2)「語られた過去の記録」
 現在、日本の学界ではオーラルヒストリー、ライフヒストリーが様々な学問分野で注目され、学際的な共同研究では、各専門分野の方法論や「ヒストリー」の問い直しにつなげる試みもある。同時に、戦後日本に限定しても、例えば地域(ローカル)史、女性史、人の移動史において、書かれた記録の隙間を埋め合わせるに留まらず、それぞれの方法論を組み立てながら、「大文字の歴史」を批判的に検証してきた膨大な蓄積もある。こうした取り組みを踏まえ、「語られた過去」を記録する方法、記録される者/する者の関係づくりの過程と記録化を通じた関係の変化と「語られた過去」との関係、「語られた過去」の記録の扱い方、ひいては個々の歴史の寄せ集めに留まらない「ヒストリー」のあり方について議論したい。

(3)「写された・描かれた・映された過去の記録」
 写真や動画などのグラフィックは文化財や歴史的遺産としての価値に加え、それらを適切に保存・管理・公開することによって一般社会に資するものである。それらは調査者にとって過去の暮らしや社会の様子を知る貴重な基礎資料であるとともに、当該社会の人びとにとっては記憶を喚起する重要な媒体といえる。加えて、それらが撮影された経緯や文脈などを記したテキストがある場合は、グラフィックとテキストを相互参照することでより深い過去の理解が可能となる。本研究では、とくに植民地時代の太平洋の島々で写された・描かれた・映された記録を用いることにより、記録を残した側の意図やものの見方を考察するとともに、文字を持たない社会であった島々の過去の一側面に迫りたい。

研究員

今泉 裕美子  国際文化研究科 教授
石森 大知   国際文化研究科 教授

大学院
特任研究員

 

設置期間 2024年6月1日~2029年3月31日
設置場所 ボアソナードタワー21階 佐々木研究室