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ロボット技術により、仮想現実を自由に動き回るような未来を創る(理工学部電気電子工学科 中村 壮亮 准教授)

  • 2021年12月14日
お知らせ

理工学部電気電子工学科
中村 壮亮 准教授


ロボット技術を人間の能力拡張や行動支援に役立てようと研究を続ける中村壮亮准教授。
コードレスで自動的に電源が供給されるような、電力インフラの研究にも取り組んでいます。

ロボットによる「人間拡張」と「人間支援」技術を追究

ロボット技術による「人間拡張」と「人間支援」の研究に取り組んでいます。分かりやすく言えば、ロボット技術を使って人間自身の能力を補完・強化するのが人間拡張であり、ロボットが人間の代わりに働き、人間の生活を支えるのが人間支援です。

人間拡張のテーマとして現在取り組んでいるのが、人間が動かないまま仮想現実の世界で動き回れるモーションレスVR(仮想現実)システムの実現です。具体的には、体に取り付けたセンサーで動こうとする意図を感知し、実際に動いたかのような感覚を疑似的に生成させる方法を取っています。CGの映像でVR身体の動きを表現できても、体の感覚として違和感が残るのではと思われるかもしれません。難題ですが、筋肉の伸長から関節の角度を知覚するという人間の特性を踏まえ、振動などの外部刺激により筋肉の伸長を再現して一定の運動感覚を提示することに成功しています(図1)。

  • 図1:腕部に取り付けるモーションレスVR装置。動かそうとする意図を読み取り、運動しているかのように脳内を錯覚させるための工夫が施されている

さらに、装置の稼働に欠かせない電力を自動で補う電力インフラの研究にも取り組んでいます。現実的な解決策として、コードレスでの全自動の電力供給と、人間支援で研究している自律移動するロボットとの組み合わせを考えています。コードレスでの充電機能を備えたロボットが部屋中を移動しながら電気製品に電力を供給していく。掃除ロボットのように、生活空間をロボットが自由に動き回り、自動的に充電するイメージです(図2)。5年後ぐらいにプロトタイプ※を完成させ、研究室内にはケーブルが存在しないという環境にしてみたいですね。

  • 図2:自律移動ロボットにより、生活空間内の電力ケーブルが一掃されるイメージ図。自律移動ロボットには無線給電機能と自動運転のコア技術を搭載

自由に研究活動ができる法政大学の文理融合に期待

学生の頃から、社会インフラを構築するような、スケールの大きな課題に取り組みたいという思いを抱き続けてきました。新規事業の企画開発への携わりやすさや風通しの良さを期待して、ベンチャー企業に勤めたこともあります。しかし、自分が望むような仕事を成し遂げるには、試行錯誤を繰り返し、時間をかけてじっくりと取り組む必要があることに気付き、大学の研究職を志すようになりました。

縁あって法政大学に着任し、理工学部の先生方の研究の多様性にとても驚きました。自由な研究活動を奨励し、じっくりと研究に取り組みたいという私自身の希望もかなえてくれる環境に感謝しています。

それは理工学部だけでなく、他の学部も同様でしょう。日本では文系と理系を分けて考えてしまいがちですが、法政は15学部を擁する総合大学ですから、学部を横断して互いの専門性を用いて協力し合える研究は十分可能だと思います。私自身、スポーツ健康学部の泉重樹教授と共同で人間拡張の研究に取り組んだことがあります。三つのキャンパスが離れているため、難しい部分もありますが、今後の文理融合の実現に期待しています。

社会の仕組みを知り、研究を通じて成長してほしい

学生を社会に送り出す教育者としては、モノづくりの技術を習得するだけではなく、一般教養やビジネス知識も身に付けてほしいと思っています。

市場原理、顧客心理などを意識すれば、どのような製品が売れるかという視点で考えられるようになります。売れる製品を作らなければいけないわけではありませんが、買いたいと思う人がいない製品は、社会実装されることはないでしょう。優れた製品を作り出したいという思いがあっても、研究資金は無限ではないので、コスト意識も必要です。私自身、社会に大きな影響力を与える仕事がしたいという思いで研究を続けているので、社会のニーズを知ることは大切だと認識しています。

そのため、学生が取り組む研究も、まず目的思考で考えるように促しています。何を実現したいのか、それは人の役に立つのか。より多くの人に、よりニーズの高いものを作り出すという目的が最優先で、そのために手持ちの技術だけでは足りない部分は、技術の習得を図り、必要に応じて外部からの協力も得て実現を目指しています。

また、学生のうちから社会と接点を持つ経験ができるように、企業と共同研究する機会を設けたり、企業の最前線で働く研究者を招き、話をしていただいたりしています。社会を知る人の声だけに説得力があります。

そうした、社会の仕組みを知った上で、自分がどのようにやっていくのか、等身大で考えられるようになってほしいです。ネット検索して答えがすぐ見つかるような安易な力を求めるのではなく、時間をかけて、試行錯誤しながら答えを見つけようとすることで得られる継続力や思考力。そうした多角的な力を「実践知」として、自分の成長に役立ててほしいと願っています。

  • 研究室の夏合宿では、半日かけて研究成果を発表し、その後はバーベキューや観光と、メリハリを付けた交流を心掛けている(写真は2018年撮影)
  • プロトタイプ:製品化する前の試作品や原型。

    (初出:広報誌『法政』2021年11・12月号)

理工学部電気電子工学科

中村 壮亮 准教授(Nakamura Sousuke)

1982年生まれ。東京大学工学部電気工学科卒業。東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士前期課程、同電気系工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。株式会社エリジオン、中央大学理工学部助教を経て、2016年より本学理工学部電気電子工学科専任講師に着任、2018年より同学部准教授に就任。現在に至る。