2016年度

6月

2016年度

6月30日(木)

世田谷にある静嘉堂文庫美術館で、「江戸の博物学」という展覧会を開催中で、その特別講演をおこなってきました。題名は「江戸文化と本草学」です。久々の、自分の専門の講演でした。その講演をおこなって発見したのは、学問はその時代の人々が必要としていることと無縁ではない、ということです。そして、江戸時代であっても、学問は世界の学問をその環境として育っていた、ということです。本草学は、世界の自然を知るために出現した博物学から多大な影響を受けて変わっていきました。記録としての博物画は絵画に影響を与え、文化全体と結びついて時代を変えました。今の私たちも、大学のなかでおこなわれていることが、世界の何とつながっていて、これからどう変わり得るかを考えねばなりません。

6月27日(月)

校友会総会が開催されました。校友会は一般社団法人で、代議員制度をとっています。各県の校友会を中心に、正会員40人に1人の代議員が選ばれ、総会でさまざまなことを決めます。海外でも国内の各地域でも、仕事その他で互いに助け合うことができます。これからの卒業生たちも、帰省先や赴任先で開催される校友会の催し物に出席し、ネットワークを作ることをおすすめします。校友会を通して、大学は卒業後の皆さんをサポートできるかも知れないのです。

6月26日(日)

付属三校(中高、二中高、女子高)の合同説明会が開催されました。昨年と同様、総長講演のあと尾木直樹教授・教職課程センター長との対談でした。講演は法政大学憲章冒頭にある約束「自由を生き抜く実践知」についてです。

世界の流動化が高まり、世界や日本のさまざまな場所で働くことになるでしょう。ニューヨーク市立大学のキャシー・デビッドソン教授が、「米国で2011年度に入学した小学生の65%は、大学卒業時、今は存在していない職に就くだろう」と言っており、また他の説では、約45%の仕事が自動化されると言われます。そういうなかでこれからの中高へ進学する生徒たちは、「思考力、判断力、表現力」を身につけていく必要があるわけですが、法政大学としては、理想ももってほしいのです。どんな人も自由を生き抜くことのできる世界をめざし、自らもさまざまな実践を通して知を磨いて下さい。すでに付属三校はグループワーク、ディスカッション、プレゼンテーションなどを授業に取り入れています。その様子を紹介しました。

尾木先生からは、「自己決定」のプロセスにおける「失敗」にどう向き合うかを教えていただきました。それは生徒に話に耳を傾けることでした。失敗の背景にあったことを十分に聞くことで、生徒が自らその原因を知り、乗り越えていくことが重要だと、教えていただきました。今年も、実り多い合同説明会でした。

6月25日(土)

成績優秀者奨学金の授与式があり、その後で、奨学生の方々と会って話す機会がありました。皆さん、おめでとうございます。この4年間で取り組んだことを忘れずに、社会に出ても自らの可能性を思い切り試して下さいね。

博士課程の学生の指導をしていますので、国際日本学インスティテュート博士課程3年生の論文中間発表会に参加しました。多くの留学生で構成されるこの大学院では、博士論文のテーマも、ハワイ・オキナワン、江戸時代の朝鮮通信使、名所研究、博物学、古典文学、時代小説、教育関係、鉢植え論などさまざまです。イタリア人もロシア人も中国人もレベルの高い日本語の論文を書いています。

6月17日(金)

リクルート進学総研の高等教育専門誌『カレッジマネジメント』のための座談会が、丸の内のリクルートホールディングス本社で開催されました。国立大学からは、金沢大学の山崎光悦学長、公立大学からは、北九州市立大学の近藤倫明学長、私立大学からは私でした。ファシリテーターは筑波大学教育センターの吉武博通教授。学長の役割から大学経営の困難さまで、ありとあらゆる話題が出ましたが、地方の国公立大学の最近の改革には、目を見張るものがあります。たいへん刺激になりました。

6月16日(木)

例年の、学部がその特徴をプレゼンテーションする自己点検懇談会が開催されました。今年から付属校も1校ずつ入ることになり、法政女子高のプレゼンも聞くことができました。一学部8分という厳しい制約でしたが、それだけに、各学部の熱意やビジョンが伝わってきます。法政大学は、それぞれの学部のもっている個性が強いところです。

6月11日(土)

栃木県校友会総会が宇都宮で開催され、校友会が企画し、一般のお客様も集まって下さった講演会で、「自由を生き抜く実践知」をお話ししました。

6月10日(金)

山王社(赤坂の日枝神社)山王祭(7日~17日)の、神幸祭の日でした。法政大学は山王社の氏子です。職員5人が朝6時半に日枝神社に集まり、そこから300メートルに渡る祭礼行列の山車を引きながら、一口坂校舎前を通りました。私はそこから九段三丁目の氏子として行列に加わり、四丁目の氏子に引き渡すまで行列と一緒に歩きました。御鳳輦二基、宮神輿一基、山車五基、王朝装束の総代役員や氏子約500人が加わったということです。行列の全体を拝見できましたが、王朝装束が他の祭とは違って、優雅なものです。江戸時代から神田明神と1年交代でおこなわれた天下祭(江戸城に繰り入れる祭)です。将軍は城に祭を迎え入れましたが、天皇家は祭を入れませんので、皇居には入れません。坂下門できびすを返し、日本橋、銀座、新橋を行列して山王社に帰ります。

ちなみに、法政大学は靖国神社がもっとも近い神社なのですが、靖国神社は地域に根ざした日本の伝統的な神社ではなく、近代の新興宗教である「国家神道」の組織で、日本国の戦死者のみのために作られた神社ですので、地域に氏子を持ちません。

明治大学お茶の水キャンパスでJMOOC (Japan Massive Open Online Course)の2016年度定時総会が開催され、招待講演者として、大学におけるオンライン授業の可能性について話しました。すでにお知らせしたように、今年の1月、法政大学はJMOOCへの配信を始めましたが、その第1回目の講義を私が担当したのです。7万字に渡る原稿を書き、4週の講義を配信した経験から、JMOOCの可能性と問題点をお話ししました。すでに世界に展開しているMOOCは日本からの発信と大学での活用ができるのか?もうひとりの講演者は、新しい入試を作り上げる「高大接続」のトップに立っている文科省顧問(中教審前会長)の安西祐一郎氏でした。入試にもオンラインは欠かせなくなりそうですが、それよりも、新しい能力の育成にオンラインはどう役立つのか?真剣に考える時期に来ています。

6月7日(火)

HOSEI ONLINEで、世田谷区議の上川あやさんと対談しました。今年の法政二中高の入学式の際、北詰昌敬校長が二中高の共学化を祝う意味で、上川さんの著書『変えてゆく勇気──「性同一性障害」の私から』(岩波新書)を取り上げ、上川さんが法政二高でどう過ごしたかを、紹介なさいました。校長という立場で、生徒たちに上川さんを誇りに思う気持ちを語ったことに感銘を受け、また、大学が「ダイバーシティ宣言」を準備していることもあり、ぜひおめにかかりたい、ウェブサイト上で学生たちに向けて語って欲しい、と思ったのです。

上川さんは私が思っていたとおりの(いやそれ以上に)、困難な現実をしっかり受け止めつつ、その中で自らを含めた多様な人々が生き得る社会を、明確にめざしている方でした。自分だけの幸せを願うのか(あるいは不運を嘆くのか)、自らを含めた社会全体を変えていく行動をとるのか、そこで人間は分かれます。「自由を生き抜く実践知」は後者のための知性です。上川さんからはこれからも、多くの実践知を教えていただこうと思います。

例年おこなう全国市長会(法政大学出身の市長の集まり)が開催されました。鈴木直道夕張市長がメロンを差し入れて下さり、いっそう賑やかな会になりました。今年の夕張メロンの初売り価格は1個150万円でした。良い頃合いにいただくと、他のメロンと違って、高級ワインを飲んでいるような複雑で品格ある香りと味わいです。膨大な債務を返し続けている夕張市のために、多くの人が買うといいですね。夕張市長のことは『自由という広場』でひとつの章をさいて書きましたので、ぜひ読んで下さい。

この日、正式に「全国市長会」の会則ができて発足しました。市長会には法政大学出身者であれば、知事も、区長も、市区長の推薦を受けた市議や区議も、メンバーになれるそうです。市長会の拡がりを期待しています。

6月6日(月)

学術交流に関する協定(一般協定)の締結校である中国山東省の山東大学の李守信・校務委員会主任(最高責任者)他、数名の方々が訪問して下さいました。山東大学の規模の大きさ、立派な校舎や設備に驚くばかりです。中国の教育はまだ「教える」「教わる、従う」方法が基本ですが、そうではないところも出て来ています。このような国立大学が、学生の主体的で創造的な学習に本腰を入れたなら、欧米と並ぶ世界の教育拠点なるでしょう。日本の大学はうかうかしていられません。

大学の敷地の下から考古学の教授が発掘したという、古代青銅器製アクセサリー・ハンガーのレプリカをおみやげにいただきました。おみやげの格も違う!法政大学にも多くの発掘品があります。江戸時代の器のレプリカも考えてよいと思いました。

6月4日(土)

水資源・環境学会が法政大学で開催され、ご挨拶がてら、江戸時代の水制御や環境保全、都市のなかの河川の活用などについてお話しました。持続可能社会の構築をミッションに掲げる本学では、このような学会が盛んに開催されることを望んでいます。

この日、法政大学後援会新旧役員総会・懇親会が開かれ、後援会会長が交代なさいました。企業の代表取締役社長でありながら、いつも学生に寄り添って下さった小林章会長には、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。新会長の祖父江一仁さんは本学の校友でもあります。一年間、よろしくお願いいたします。

6月3日(金)

20年の歴史をもったNew EducationExpo2016が有明で開催されました。東京と大阪が会場となり、全国5カ所にサテライトが作られて発信されます。東京では3日間にわたって多くの講演やセミナーが公開され、ICT関係企業の展示場も賑わっていました。基調講演は、日本学術振興会理事長で文科省顧問の安西祐一郎氏、京都大学総長の山極壽一氏、国際教養大学理事長・学長の鈴木典比古氏、そして私でした。高大接続、アクティブラーニングなど、大きな曲がり角を迎えているこの改革の時代に何が必要とされているのか、話して来ました。

この日、ビッグデータで学習資源を確立し、教育基準の国際化をはかるための日本IMS協会設立記念セミナーも開催されました。ICT教育は国際標準化することでこそ内容や単位の互換ができますので、とても関心ある領域です。

控え室では文科大臣補佐官の鈴木寛氏と話す機会があり、伸ばすべき能力と入試方法の関係、理系と文系の問題など、たいへん刺激に富んだ会話になりました。鈴木氏とは、松岡正剛の編集工学研究所でも時々おめにかかりました。実践しておられる「熟議」は、制度を越えて人が認識を深め合う仕組みとして非常に興味深いもので、政治家には珍しく(失礼!)見識が広く深くスピーディーなかたです。

6月2日(木)

多摩大学の寺島実郎監修リレー講座で「布のちから―江戸時代におけるものと人間―」という話をしました。多摩大学は「サンデーモーニング」にご一緒している寺島実郎さんが学長をつとめている大学です。学長が監修するリレー講座は社会人と学生のための講座で、「現代世界解析講座」として9年目を迎えました。学生も履修できますが、遠方や地方からも社会人の方々が参加します。寺島さんは九段下に「寺島文庫」をもっておいでで、そこでも数々の講演、対談、シンポジウムを展開しています。学長がもっぱら外に向き合い、このような方法で大学の価値を高めていくことができるのは、とても素晴らしくうらやましいことです。理事長と学長が分離されている大学の長所ですね。