法政大学は,本学のすべての構成員が,個人として尊重され,ハラスメントによる人権の侵害のない快適な環境において,学び,教え,仕事をする権利が保障されるように努めます。そのために本学は,ハラスメント防止・対策規程を定め,その内容をわかりやすく構成員に伝えるために本ガイドラインを制定します。ハラスメントの申し出があった場合には,規程に基づき事実を把握し問題の解決を図るとともに,再発防止の観点からハラスメントに対し厳しい姿勢で臨みます。
大学には,多様な考え方をもつ構成員がおり,教職員と学生,学生同士,教職員同士等の人間関係が存在します。大学にとって,ひとりひとりが個人として尊重され自律的に活動できること,考え方の違いを退けるのではなく互いの価値を認め合う場とすることは極めて重要なことです。
ハラスメントは,個人の尊厳を不当に傷つけ,精神的・身体的損害を与える社会的に許されない行為です。大学においては,その立脚点である学問の自由,学習や教育・研究の権利,働く権利等を侵害する悪質な行為であるという認識をキャンパス全体で共有する必要があります。
本学は,ハラスメントを,その被害を受けた本人及び周囲の構成員に対し各自の目的の達成を阻害し,大学の秩序を乱す問題と受け止め,ハラスメントのないキャンパス(教育・研究,修学,就労)の実現に向けて取り組みます。
本学は,ハラスメント防止のため,以下の体制を構築しています。
(1)「法政大学ハラスメント防止・対策規程」(以下「防止・対策規程」といいます。)
(2)「法政大学ハラスメント防止・対策に関するガイドライン」
(3) ハラスメント防止・対策委員会(以下「防止・対策委員会」といいます。)(常置):全学に対してハラスメント防止のため様々な啓発活動を行います。また,申立て事案ごとにハラスメント審査委員会を設置し,必要に応じて審査報告書の作成などを行い,迅速かつ適切な解決を目指します。
(4) ハラスメント相談室(常置):公認心理師資格等を有する専門相談員が常駐し,相談を受け,申立てを支援する体制を整備しています。
(5) ハラスメント審査委員会(必要に応じて設置)(以下「審査委員会」といいます。):防止・対策委員会の指示により,設置されます。 申立て事案の事実関係の調査(ヒヤリング)等を行います。防止・対策委員会の要請により,緊急・仮の措置,話し合いによる解決等も行います。
(1)本学の学生・生徒・教職員等の本学構成員が対象となります。本学の学生とは学部学生,大学院生,通信教育部生,科目等履修生,交換留学生,付属校生徒を含め本学において学ぶあらゆる立場の者が対象になります。教職員は,専任・非専任を問わず,本学に在職するすべての教職員を対象とします。さらに,本学の業務遂行に関わる委託業者又は派遣契約業者等も対象です。(以下,「本学構成員」といいます。)なお,生徒の場合は保護者を代理人とすることができます。
(2)卒業・退学・退職等により本学構成員でなくなった方でも、在学中または在職中に起きたハラスメントであれば,籍を失ってから1年以内に限り対象とします。また,申立てがあった場合は,本学から離れたとしても,当該事案の調査に協力しなければなりません。
本学構成員同士の関係において,本学における教育・研究,修学,就労上の関係が継続するときには,その時間・場所を問わず,ハラスメントとして適用します。これは,本学のキャンパス内か外か,授業,研究,勤務,課外活動等の時間であるか否かを問いません。
例:ゼミ合宿等の活動,サークル等の課外活動,飲み会(ゼミコンパ,サークルでの新歓コンパ等)
大学におけるハラスメントとは,教育・研究,修学,就労など,本学のあらゆる環境において,本学構成員の不適切な言動によって,他の構成員に不利益または損害を与えたり,あるいはその者の尊厳もしくは人権を侵害したりすることをいいます。
相手が言動を不適切と受け止める場合はハラスメントになる可能性があります。一方で価値観や感じ方の基準は人それぞれ多様なものであり,言動がハラスメントにあたるかどうかの境界線は,相手との人間関係や前後の状況により変化します。悪意のない言動であっても相手から思わぬ誤解を招く場合もあり,どのような言動がハラスメントに該当するかは慎重に判断する必要があります。
ハラスメントに該当する代表的な場面として,セクシュアル・ハラスメント,アカデミック・ハラスメント,パワー・ハラスメント,レイシャル・ハラスメント,妊娠・出産等に関するハラスメント,育児休職・介護休暇等に関するハラスメント,の6つを例示しますが,ハラスメントはこの6種類に限りません。その他にもハラスメントに該当しうる具体的言動もいくつか紹介します。
本学構成員が,教育・研究,修学,就労等の環境において,他の構成員に対して不適切な性的言動を行うことにより,他の構成員に不利益又は損害を与え,あるいはその者の尊厳もしくは人権を侵害することをいいます。
セクシュアル・ハラスメントは,教員と学生,上司と部下のような地位の上下関係にかかわらず,生じる場合があります。また,性別に関係なく生じる場合や,性的指向や性自認に関する言動もハラスメントになる可能性があります。
教育・研究,修学の環境においては,性的な事柄を扱うこともあり得ますので,これらの環境では適切な範囲を超えた性的言動のみが問題となりますが,それ以外の環境では,同じ事柄でも不適切とされる可能性も十分にあります。
(1)Aさんは,ある日友人から「B君と付き合ってるんだって?」と言われてびっくりしてしまいました。「B君とは時々話はするけれど,付き合ってないよ」と答えましたが,既にサークル内でかなりのうわさになっているようです。意を決してAさんがB君に問いただしたところ逆に「付き合ってほしい」と言われましたが,Aさんはいつもサークルで周囲の女の子の美醜について話してばかりいるB君と付き合うのはちょっと…と思っていたため,他に好きな人がいるからという理由で断りました。すると,その日から,B君の意図的な嫌がらせが始まり,「俺はAに捨てられた」「Aは誰とでも付き合う尻軽女だ」等のうわさをサークルのメーリングリストやLINEに流され,サークルに居づらくなってしまいました。
→環境が不快なものとなり,学生生活に支障をあたえるような性的な誹謗中傷の流布
(2)ゼミ生に丁寧な指導を行っているとの評判を聞き,C先生のゼミに入ったDさん。確かに,授業も為になるもので,Dさんも満足していました。でも,4年生になると,C先生から「卒論の個別指導を行うから,これから僕の知っている店に行かないか?」と誘われ,Dさんは「外で二人きりで会うのは嫌だな」と躊躇しつつも,卒論の指導のためと思いC先生について行きました。着いた場所は居酒屋の個室で卒論についての話は出ず、「僕と付き合わないか?」「僕が何でも教えてあげるよ」と手を握られ,Dさんはびっくりして手を払い居酒屋を飛び出しました。その夜からC先生に対する嫌悪感が募り,ゼミを続けていく自信がなくなりましたが,卒論の単位がどうなるかも心配です。この先どうしていいかわからず,Dさんはハラスメント相談室を訪れました。
→単位認定の権限を持つ教員からの性的言動
そのほかにも次のような事例がセクシュアル・ハラスメントに当てはまる可能性があります。
(3)「彼氏/彼女はいるの?」「結婚しないの?」「子どもはまだなの?」等,家族関係,友人,恋人等,プライベートな事柄について執拗に尋ねること。
(4)「女らしくない」「男のくせに」等の,性差別・性役割感を押しつけること。
(5) 性に関わる話題や性的な嫌がらせにあたる行動で,業務の遂行を阻害したり,相手が不快感を持つ状況を作り出すこと(猥褻な絵や写真,パソコン画面を見せたりする,不必要に体に触るなど)。
(6) 執拗,もしくは強制的に性的行為への誘いや交際の働きかけを行うこと(ストーカー行為を含む)。
(7) 性的な関係を拒否されたことにより評価を低くしたり,指導を拒否するなどの不当な対応をすること。
(8) 性的指向や性自認に関する差別的言動や嫌がらせをしたり,本人の了解なくそのことを第三者に漏らすこと。
(9) 相手の合意なく性的な行為をすること。
本学構成員が,教育・研究,修学等の環境における優越的な関係を背景に,教育・研究,修学上必要かつ適切な範囲を超えて他の構成員に対して不当な言動を行うことにより,他の構成員に不利益または損害を与え,あるいはその者の尊厳もしくは人権を侵害することをいいます。
意図の有無にかかわらず,優越的な関係が背景にあることを前提に,尊厳や人権を侵害する言動を行ったり,不当に低い評価を与えたりするものです。
部活動やサークル活動でも,優越的な関係を背景に適切な範囲を超えた言動が行われれば,アカデミック・ハラスメントと同様に扱われる可能性があります。
「優越的な関係」は,「パワー・ハラスメント」についての厚生労働省の指針に準じる形で判断されます。「パワー・ハラスメント」の項目をご参照ください。
(1)大学院生のEさんは,F教授から「こんなことも知らないのに,よく大学院に入れたな」「研究者としての資質に欠ける」と言われ続け,辛さを感じながらも自分が至らないのだと思い黙って従ってきました。しかし,F教授はEさんの家族や恋人のことをあれこれ聞きだし,「君の研究を優先させないようじゃ,親(恋人)としてダメだな」「恋人とは別れたほうがいい」と言い始め,Eさんはより一層の苦痛を感じるようになりました。
→学生を劣等者扱いするような侮辱的な対応
→学生のプライバシーに不要に立ち入るような言動
(2)「先生とゼミ生の関係が近く,何でも話し合えるゼミです」との謳い文句にひかれてG先生のゼミに入ったH君。授業にはすべて出席し,課題も提出していましたが,学期末に行われるゼミコンパが苦痛で仕方がありません。G先生は「コンパで俺を笑わせる芸の出来ない奴に単位はやらん」と何度も言っており,実際に単位をもらえなかった人もいるとの話も聞きました。前期のコンパでは緊張して芸をするどころではなかったH君は,後期のコンパが近づくにつれ,心配のあまり体調を崩し,他の先生に相談を持ちかけました。
→単位を交換条件とする理不尽な要求
(3)この春,I先生は院生時代の指導教員であったJ先生と同じ母校の学部に着任しました。J先生は自分の研究を手伝うように強い調子で何度も頼んでくるため,I先生は次第に自身の研究をする時間がとれなくなりました。困って他の先生に相談したところ,そのことがJ先生の耳に入ってしまいました。それ以来,J先生から,他の大学へ移ってはどうかという内容のメールが届いたり,廊下や研究室などで会うと必ず,「まだここにいるのか」と嫌みを言われるようになりました。I先生は,たまりかねてハラスメント相談室に相談しました。
→研究活動の妨害
→退職の強要
そのほかにも次のような事例がアカデミック・ハラスメントに当てはまる可能性があります。
(4)正当な理由なく,教育・研究指導を拒否したり,学会や論文等で研究成果の発表の機会を与えないこと。
(5)教育・研究に無関係な雑務または私用を強要すること。
(6)正当な理由なく,提出された論文やレポートを受け取らないこと。
(7)職務上知り得た個人情報やうわさを流布すること。
(8)指導を口実として殴る,蹴る,叩く等の暴力を振るうこと。
(9)正当な理由なく,就職活動を妨げること。
本学構成員が,就労の環境における優越的な関係を背景に,就労上必要かつ適切な範囲を超えて他の構成員に対して不当な言動を行うことにより,他の構成員に不利益または損害を与え,あるいはその者の尊厳もしくは人権を侵害することをいいます。意図の有無にかかわらず,優越的な関係があることを前提に,尊厳や人権を侵害する言動を行ったり,不当に低い評価を与えたり,昇進を妨げたりするものです。
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「優越的な関係」とは
厚生労働省は,職場におけるパワー・ハラスメントは,①優越的な関係を背景とした言動であって,②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,③労働者の就業環境が害されるものであり,①から③の要素をすべて満たすものをいう,と定義づけています。そして①の「優越的な関係」の例として以下を説明しています。
・職務上の地位が上位の者による言動。
・同僚または部下による言動で,当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており,当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの。
・同僚または部下からの集団による行為で,これに抵抗または拒絶することが困難であるもの。
<参考資料:厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和2年1月15日厚生労働省告示第5号>
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パワー・ハラスメントの6類型
厚生労働省が代表的なパワー・ハラスメントの言動の類型として挙げているものです。
(パワー・ハラスメントに当たるすべてを網羅したものではなく,これら以外は問題ないということではありません)
・精神的な攻撃
例)同僚の目の前で叱責する。他の職員も宛先に含めメールで罵倒する。必要以上に長時間,執拗に叱る。
・身体的な攻撃
例)叩く,殴る,蹴るなどの暴行をする。丸めたポスターで頭を叩く。
・過大な要求
例)仕事のやり方も分からない新人に他人の仕事まで押しつけ,他の人は皆先に帰してしまった。
・過小な要求
例)運転手なのに営業所の草むしりだけを命じる。事務職なのに倉庫業務だけを命じる。
・人間関係からの切り離し
例)一人だけ別室に席を移す。送別会に出席させない。
・個の侵害
例)交際相手について執拗に問う。家族に対する悪口を言う。
<参考資料:厚生労働省 「NOパワハラ」事業主の皆さまへ>
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(1)K 課長は最近家庭での問題を抱え,職場でもイライラしがちです。元々気分にムラがあり,機嫌の悪いときに仕事の相談をするとけんもほろろに「そんなこともわからないのか」と怒鳴りつけられることがありました。このところ ,それが一層ひどくなり,突然理不尽なことで怒鳴るようになり,課員たちはいつも緊張しびくびくしています。真面目で丁寧に仕事をこなす課員のLさんは,K課長の怒りを受け流すことができず,特に自分が怒鳴られた日は 眠れなくなることが続いていました。睡眠不足のため集中力がなくなり,自分の担当業務を期限内に終わらせる見込みが立たなくなったLさんは,業務量の調整を K課長に願い出ました。K課長は「それはお前の能力不足が原因だ」と言い,Lさんの仕事量の調整に応じず,他の課員がいる前で「お前なんかいない方がいい」「給料泥棒」といった 暴言を繰り返すようになりました。Lさんは徐々に腹痛など体調不良により出勤できない日が多くなりました。
→適正さを欠いた業務管理
→人格を否定する発言
(2)専任職員に加えいろんな職種の非専任職員がいて,人員の入れ替わりも多い部署に新しく派遣職員のMさんが配属されました。MさんはOAスキルが極めて高く,素早く仕事をこなすため周囲の評判も良く,そのことが,専任職員のNさんには面白くありません。NさんはあからさまにMさんを無視し始め,他のメンバーにもMさんを無視するように仕向けてしまいました。その結果,業務に必要な情報も伝えてもらえなくなってしまい,部内で孤立してしまったMさんは退職に 追い込まれました。
→周囲を巻き込んだ無視
→業務情報からの遮断
(3)専任職員さんのOさんは学部の事務で時間割の編成を担当することになりました。選択・必修科目の配分や空き教室の関係で,どうしてもP先生の担当する授業を希望通りの時限にすることができず,その旨をメールでお願いしたところ,「そんな事もできない職員は無能だ。いる必要がない」と激しい口調のメールが返ってきました。P先生は日頃から自分の思い通りにならない事があると声を荒げることも多く,恐怖を感じてOさんは上司に相談をしました。
→威嚇して要求を通そうとすること
(4)業務に対して,著しく不公平で不当な評価を行ない,意図的に昇進,昇格を妨害すること。
(5)職務上知り得た個人情報やうわさを流布すること。
(6)日常的に弁当・たばこ等の買い出し等の私用を言いつけること。飲み会に参加しないことを「付き合いが悪い」と執拗に責めるなど,業務の範疇を超えるものを要求すること。
本学構成員が,教育・研究,修学,就労等の環境において,他の構成員に対して,国籍,人種,民族等に関する不適切な言動を行うことにより,他の構成員に不利益又は損害を与え,あるいはその者の尊厳もしくは人権を侵害することをいいます。
レイシャル・ハラスメントは,教員と学生,上司と部下のような地位の上下関係にかかわらず,生じる場合があります。
レイシャル・ハラスメントとなりうる例:
(1)専任職員のQさんは,R国出身です。ある時,R国のショッピングセンターで銃乱射事件が発生し,買い物客や従業員など25人が死傷した,というニュースが流れました。次の日職場で,同僚たちが「R国人って野蛮で怖いよね」「R国なんて行きたくないね」と口々に話しているのを聞いたQさんは,自分自身や大切な家族,友人たちが「野蛮で怖い」と言われているように感じ,とても辛く悲しくなってしまいました。
→特定の事象を過剰に一般化することで,相手の国や文化を傷つける発言
(2)Sさんは,入職して半年の非専任職員です。日頃から,仕事の分量や負担が人によって差があることについて気になっていたので,ある日の会議で「公平になるように業務分担を見直してみたらどうか」と思い切って提案してみました。が,「このやり方が一番いいの」と言われてしまいました。その理由を尋ねたところ「感覚が違うんだね。外国人だからわからないか」と言われて,話を打ち切られてしまいました。
→意見の相違を,ただ国籍や人種のみを理由として否定的にとらえる
※ 上記は事例説明のために作成したものであり,フィクションです。
そのほかにも次のような事例がレイシャル・ハラスメントに当てはまる可能性があります。
(3)「日本語の発音が外国語っぽいから窓口業務はさせられない」と能力的に問題はないのに業務を外すこと。
(4)名前を聞いて,「変な名前」「覚えられない」ということ。
(5)「あなたは西洋の人だから,色が白くて鼻が高くていいね」「足が長くてスタイル抜群だね」と容姿の特徴を不必要に言及すること。
(6)「ここは日本の大学だから」と言って宗教や服装などを否定すること。
(7)授業中に皆の前で留学生であることをことさら強調すること。
本学構成員が教育・研究,修学,就労等の環境において,他の構成員の妊娠・出産等に関する就労上の制度・措置の利用及び利用の申出,その他妊娠・出産全般に対して不適切な言動を行うことにより,他の構成員に不利益または損害を与え,あるいはその者の尊厳もしくは人権を侵害することをいいます。妊娠期間中の軽易な職務や業務への転換,出産時の産休その他の妊娠・出産等における雇用管理上の措置が行われた本学構成員,またはその申出をした本学構成員に対し,これら雇用管理上の措置の利用を妨げたり,妊娠・出産等に関して尊厳や人権を侵害する言動を行ったり,不当に低い評価を与えたり,昇進を妨げたりするものです。妊娠・出産等が問題となるかぎり,学生も被害者たりえます。
(1)准教授Tさんは,妊娠していることが分かりました。日ごろよりパートナーとは,互いのキャリアを尊重しながら子育ても協力しあおうと話していたので,今後も計画的に研究を進めるために,時期を見て先輩で共同研究者でもあるU教授に報告と,産前・産後休暇中の研究体制の相談のために場を設けてもらうことにしました。そこでU教授から.「おめでとう。これから子育てに専念することになるだろうから,残念だけど後任を探さないといけませんかねえ」と言われてしまいました。「本学では産前・産後休暇制度の利用は認められているし,今の仕事を続けたい」と伝えても,「研究者には無理な話。君はそんなこともわからないのか。」「もしその制度とやらを利用して戻ってきたとしても,同じ仕事はないと思って欲しい」と言われてしまいました。
→制度等の利用を理由に解雇や不利益扱いを示唆する言動
→制度等の利用を阻害する言動
(2)事務嘱託のVさんは今年度末で任期満了となりますが,経験を重ね周囲からの信頼も厚くやりがいを感じていました。夏には妊娠が判りましたが,最後までしっかりと勤め上げたいと考えていました。ところが,専任職員のWさんに定期検診のための早退日時を打診したことがきっかけで「妊婦さんは無理しなくてもいいわよ」と問題なくできる仕事を外されたり,「お休み?そういう逃げ道があるからうらやましい」などと言われることが度重なりました。最初は「配慮からの言葉,自分も迷惑をかけるのだから」と考えるようにしていましたが,Wさんが上司に「この先,妊婦さんに体調崩されてもねえ,業務のしわ寄せが来ないように早く辞めてもらいたい」「昔はこんなに優遇されていなかった」と話し,上司も相槌を打ち笑っているだけの様子を偶然見かけてしまいました。いたたまれなくなったVさんは,これ以上働き続けられないと考えるようになってしまいました。
→妊娠したことに対して,繰り返される嫌みな言動
※上記は事例説明のために作成したものであり,フィクションです。
そのほかにも次のような事例が妊娠・出産等に関するハラスメントに当てはまる可能性があります。
(3)上司が産前休暇の取得について「休みをとるなら辞めてもらう」と言ったり,時間外労働の免除について「次の査定の際は昇進しないと思え」と言ったりすること。
(4)上司・同僚が「妊婦はいつ休むかわからないから仕事は任せられない」と繰り返し又は継続的に言い,仕事をさせなかったり,雑務のみをさせたりすること。
(5)身体の変化について言及したり身体に触れること。
(6)実験や研究がはかどらないこと等を理由に,妊娠した本学構成員に暗に退職を迫ること。
(7)不妊治療に対する否定的な言動をすること。
本学構成員が,教育・研究,就労等の環境において,他の教職員の育児休職又は介護休暇等に関する就労上の制度・措置の利用及び利用の申出に対して不適切な言動を行うことにより,他の構成員に不利益または損害を与え,あるいはその者の尊厳もしくは人権を侵害することをいいます。育児休職や介護休暇等の取得等の雇用管理上の措置が行われた本学構成員,またはその申出をした本学構成員に対し,これらの雇用管理上の措置の利用を妨げたり,継続的に尊厳や人権を侵害する言動を行ったり,不当に低い評価を与えたり,昇進を妨げたりするものです。
(1)3か月前に第一子が生まれた専任教員のXさんは,妻と話し合った結果,育児休職を取得することを申し出ました。ところが,「子供が小さいうちは母親が育てた方がよい」「子供のために休むなんて大学教員として甘すぎる。今は君にとって大事な時期だから,仕事に専念したほうがよい,それが君のためになるんだ」と先輩教員のYさんから言われてしまいました。Xさんは,育児休職取得は当然の権利であるし,子育てや家庭生活と研究者・教員としてのキャリアの両立を目指したいと思う一方で,復職後,大学に居づらくなってしまうのではないかと,とても不安になってしまいました。
→制度利用への否定的な言動や嫌がらせ
(2)専任職員のZさん,近所に住む母親の認知症が進み,だんだん危ないと思う出来事が増えてきました。母親の主治医や担当のケアマネージャーから,「お一人暮らしは難しいのでは」と言われたこともあり,入所できる施設を見つけるまでの間,介護休暇を取得しました。その後,母親は無事施設入所できたので,今後はまた通常通り働くことができる,と上司に報告したにも関わらず,「忙しいときに休まれて困ったので別の部署に異動してもらう。これは決定事項です」と言われてしまいました。
→制度利用への不利益取扱い
※上記は事例説明のために作成したものであり,フィクションです。
そのほかにも次のような事例が育児休職・介護休暇等に関するハラスメントに当てはまる可能性があります。
(3)小学1年生の子が熱を出し看護のための休暇を願いでたところ,「またですか」と繰り返し言い,職場に居づらくすること。
(4)介護休暇について請求する旨を周囲に伝えた同僚に対し,「自分なら請求しない。あなたもそうすべき。」と言い,取得をあきらめざるを得ない状況に追い込むこと。
(5)「産後パパ」って何ですか?と言って子の出生直後に家族をサポートしたい旨の申出を認めないこと。
これまで説明した内容は,すべて例示であって,ハラスメントは,以上の6種類に限定されません。
(1)ダイバーシティに反するような言動
本学は,ダイバーシティ宣言を行っており,人権の尊重,多様性の受容,機会の保障を基盤にして,さまざまな国籍と文化的背景を持つ学生,教職員を積極的に受け容れ,自由を生き抜く実践知を世界に拡げていくことができるよう,教育と研究を充実させていくことを表明し,性別,年齢,国籍,人種,民族,文化,宗教,障がい,性的少数者であることなどを理由とする差別をなくし,多様性を尊重することを宣言しています。
このうち,人種,民族,国籍に関する差別的な言動については,レイシャル・ハラスメントに,性別,性的少数者に関する差別的な言動については,セクシュアル・ハラスメントに,それぞれ該当し得ますが,本学では,文化,宗教,障がい等に関する差別的な言動も,ハラスメントの一つとして考えています。
(2)その他のハラスメント
また,以下のようなモラルを欠く言動も,ハラスメントと認定される可能性があります。これらの事例では,学生の教職員に対する言動や教職員同士など,「優越的な関係」にかかわらず対象となる可能性があります。
ハラスメントとなり得る事例
・優越的な立場が明確でなくても(例:学生から教員へ,部下から上司へなど),長時間・長期にわたり傍若無人なふるまいをしたり,一方的な要求や主張を繰り返し,注意やアドバイスを重ねても止めない,あるいは善処の行動をとらない。
・酒の強要や一気飲ませなど,相手の望まない飲酒に関する言動により,なんらかの不利益または不快感を与えること。酔った状態での迷惑行為。
(3)間接的被害
以上のハラスメントは,すべて本学構成員が直接他の構成員に対して不適切な言動を行うことが前提となっていますが,直接的な言動でなくても,目にする人,耳にする人自身が尊厳を侵害されると思うほどに不快を感じるような言動であれば,見聞きした立場の者へのハラスメントとされる可能性があります。
ハラスメントとなり得る事例
・会議の休憩時間に性的な話題で盛り上がる声が聞こえてとても不快な気持ちにさせられた。
・隣の席の同僚が毎日のように上司から1時間以上きつい調子で叱責されている。見ていて恐怖で息が詰まる思いがする。
繰り返しになりますが,以上は,あくまでもすべて例示であることにご注意ください。不適切な言動によって,本学構成員に不利益または損害を与えたり,あるいはその者の尊厳もしくは人権を侵害すれば,以上の例示に当てはまらなくても,ハラスメントとなり得ます。このことを十分に心に留めておく必要があります。
(1)互いの人格を対等に尊重する姿勢を持ちましょう。
(2)社会的に形成された性別意識,たとえば「男性や女性はこうあるべきだ」という固定的な性役割観などの偏った見方・考え方を押しつけることは避けましょう。
(3)相手が自分の言動をハラスメントと受け止めているとわかったらすぐに止めて,真摯な気持ちと態度で謝罪しましょう。あなたの家族や身近な人が受けたとしたら不快だと思う行為は慎むという心構えが大切です。
(4)反対意見や「ノー」という意思表示がないからと言って,それが合意・同意とは限りません。立場や地位が上の人(指導者や先輩)は十分配慮してください。
(5)学外での言動であっても,当事者双方が本学構成員であればハラスメントにあたる可能性があります。
(1)見過ごさない勇気を
集団内でハラスメントの存在が黙認されてしまうと,それが慣習化し徐々に環境が悪化していきます。周囲の人たちもその関係に巻き込まれてしまうため,特に教育,指導,管理監督する立場にある人の果たす役割は重要です。ハラスメントを見過ごさない勇気を持ちましょう。
(2)相談を勧める
ハラスメントについての相談を受けた場合は,必要に応じてハラスメント相談室での相談を勧めてください。その際,相談された人が同行することも可能です。
(3)知り得た情報の扱いは慎重に
相談内容等の知り得た情報については,プライバシーに十分に配慮し本人の意向を尊重し慎重に扱いましょう。
(1)ひとりで悩まないで
ハラスメントを受けたと感じたら,ひとりで悩まずに,ハラスメント相談室に連絡してください。相談室に来ることがためらわれる場合は,まず身近で信頼できる人に相談をしてください。相談室には家族や信頼できる友人 ,教職員と一緒に来室することもできます。
(2)記録を残してください
あなたが受けた言動について,「いつ,どこで,誰から,どのようなこと」かがわかる記録(自筆のメモ・メール・録音等)を残しておくと,相談や申立ての際に役立ちます。
(3)緊急の場合は警察に連絡を
相手からの暴力行為などで,心身に危険を感じたり,緊急を要する場合は,迷わず周囲の人に助けを求め,警察に連絡をしてください。
法政大学はすべての構成員が相談・申立てを行う権利を保障します。
本学ではハラスメントに関する相談等に対応するため,ハラスメント相談室を市ヶ谷に設置しています。本学構成員のだれもが相談可能です。相談は面談を基本としています。必要な場合は,相談者が所属するキャンパス・付属校に専門相談員が出向くこともできます。
ハラスメント相談室の開室時間や連絡方法,予約方法,相談の流れ等については公式Webサイトやリーフレット等でご確認ください。
相談者のプライバシーを守るため,同じ時間帯に来室者が重ならないよう,面談は予約制で行っています。安心してご相談ください。
*ハラスメント相談室の対応について
(1)ハラスメント相談室では,専門相談員が内容を伺います。専門相談員は,状況について聞き取りをし,相談者の意向や希望を尊重しながら共に考え,今後とりうる解決方法を提案し,相談者自身が意思決定をするためのサポートをします。
(2)ハラスメント相談室は相談者のプライバシーを守ります。相談内容を相談者の承諾なしにハラスメント相談室の外部に伝えるとはありません。
(3)必要に応じて大学内外の関係機関を紹介することがあります。
(4)相談を受けている案件の「ハラスメントの行為者とされた者」と,事実確認や調整のための接触はしないことになっています。
ハラスメント相談において,相談者が相手方への処分の勧告や緊急・仮の措置,話し合いによる解決を希望した場合,申立てを行うことができます。相談者の「ハラスメント申立書」(所定書式にて申請)に基づき,審査委員会が,防止・対策委員会の下に発足します。申立てを行うと,相談者は申立人となります。審査委員会は,本学のハラスメント防止・対策規程(以下「防止・対策規程」)に従って,以下(1)~(3)の対応を行います。
(1)緊急・仮の措置
審査委員会は,事態が重大かつ深刻で,緊急な対策をとる必要があると判断した場合には,当事者双方の所属する学部長・大学院研究科長・付属校長や部局長等に対して,緊急・仮の措置の勧告を行うことがあります。勧告例としては,クラス・ゼミ・履修科目・指導教員の変更,職場・部局・委員会等における担当業務の変更や環境改善等があります。
(2)話し合いによる解決
申立人が当事者間の話し合いによる解決を希望する場合は,事実関係の調査・審査に基づいて解決策を提示します。当事者間の合意が整った場合には,審査委員会はその概要を記録に残して調査を終了し解散します。
(3)処分の勧告
処分の勧告が求められた場合には,審査委員会は申立書に記載された内容を防止・対策規程の 目的と定義に照らし,相手方の言動がハラスメント行為に該当するかどうかについて中立的な立場で,申立人及び相手方,関係者 から事実関係の聞き取りを行って判断します。審査委員会は,必要と判断した場合には,審査報告書原案を作成し防止・対策委員会に提出します。防止・対策委員会が,相手方に何らかの処分が必要と判断した場合は,処分の勧告を含む審査報告書を作成し,総長に提出します。総長は,それを受けて学内の手続きを経たうえで適切な措置を講じます。
*審査委員会の構成について
防止・対策委員から若干名と,必要に応じて学内教職員若干名,及び弁護士で構成し,事案に応じて適切な人選を行います。
*通知の範囲について
申立てにより,審査委員会を設置した場合には,その旨を当事者に通知するとともに,当事者の所属部局長等 に連絡することになります。申立て後の防止・対策委員会では,申立人・相手方の名前を伏せますが,審査委員会では双方の名前を開示します。また,審査委員会設置を申立人・相手方・双方の所属部局長に通知する際,相手方には申立人の名前を通知しますが,双方の所属部局長には申立人・相手方の名前は伏せます。
なお,審査委員会での審査の結果,審査報告書を作成する場合(上記(3)処分の勧告)は,申立人・相手方の名前 を防止・対策委員会に開示します。
総長は,防止・対策委員会から処分の勧告を含む審査報告書についての報告があった場合は,速やかに学内規則を適用し,所定の手続を経た上で,適切な措置を講じます。教職員であれば,譴責,減給,出勤停止/停職,降格・降給,論旨解雇,懲戒解雇等があり,学生の場合であれば,譴責,停学,退学等があります。
(1)ハラスメント相談室において,専門相談員との相談により,相談者の気持ちが整理されたと確認されたとき。
(2)申立て後,審査委員会の「緊急・仮の措置」「話し合いによる解決」等により,解決または環境改善が行われたとき。
(3)申立人が審査の途中で審査の打ち切りを申し出て,審査委員会が認めたとき。
(4)防止・対策委員会から総長へ審査報告書が提出されたとき。
(5)その他,防止・対策委員会が必要と認めたとき。
本学は本ガイドラインに則り,快適なキャンパスライフ,教育・研究環境,職場環境を維持し,これを阻害するようなハラスメントの防止・対策に努めます。大学構成員に対して,リーフレット等の作成・配布,研修会・講演会等の開催により啓発活動を行います。
本ガイドラインの内容に改訂の必要が生じた場合は,防止・対策委員会の承認を得て,改訂・見直しを行います。
付則
1 このガイドラインは,2010年11月19日から施行します。
2 このガイドラインは,2010年12月8日から一部改正し施行します。
3 2012年12月1日一部改正。
4 2019年4月1日一部改正。
5 2020年11月18日一部改正。
6 2022年4月1日全部改正。