「ミュージアム」と聞くと、展覧会を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。確かに展覧会は、多くの人が目にするミュージアムの活動の中でも最も華やかなものです。一方で、ミュージアムは資料を収集し、保存していく場所でもあります。資料の収集・保存は、通常目にする機会はありませんが、ミュージアムの土台となる業務です。
HOSEIミュージアムでも開館以降、特別展示や企画展示を開催し、多くの方々にご来館いただいています。また、法政大学に関する資料を収集・整理し、より良い状態で保存することに努めています。
資料の保存には、劣化などの理由で修復が必要となる場合があります。例えば、松室致の大礼服もその一つです(❶)。
❶昨年度の特別展示において展示された大礼服
松室は、司法大臣を二度務める一方で、法政大学の初代学長(1913年~1931年)を務めた人物。1920年に大学昇格を遂げた法政大学の基礎を作る上で、大きく貢献しました。HOSEIミュージアムでは、松室に関する資料は大礼服の他にも、書画や証書類なども所蔵しています。大礼服は太政官布告により1872年に制定された後、1954年まで、主に宮中の儀式や行事で着用する最上位の礼服でした。松室が大礼服を着用している姿は写真にも残されています(❷)。
松室の大礼服は、昨年の特別展示をはじめ度々展覧会で展示されてきました。中でも上衣は、桐や唐草の模様がスパンコールや金モール刺繍で表されており、とても華やかなものです。しかし、その細部を見ると、スパンコールの剥落や刺繍のほつれ、生地の破れが生じており、この先の保存や展示を考えると修復が必要な状態でした。
そのため、今年の1月から3月にかけて染織品の保存修復士に大礼服の上衣の修復を依頼しました。修復では全体のクリーニングをはじめ、スパンコールの留め付け、刺繍のほつれ、破れを直すなどの処置を実施(❸❹)。修復を終えた大礼服の上衣は、元来の美しさを取り戻しました。9月中旬に、ミュージアム・サテライト(外濠)にて修復された大礼服の展示を予定しています。ぜひご覧ください。
これからも大礼服のように、少しでも良い状態で次の世代へと引き継げるよう資料を保存・管理し、皆さまに鑑賞していただけるよう取り組んでまいります。
❷大礼服を着た松室致(HOSEIミュージアム所蔵)
❸修復作業(撮影:横山翠氏)
❹修復前後(撮影:横山翠氏)
HOSEIミュージアム 2024年度春学期企画展示
大学への「問い」/ 学生との「対話」-中村哲総長と法政大学の15年-
【期間】2024年5月10日(金)~8月23日(金)
【会場】HOSEIミュージアム ミュージアム・コア(市ケ谷キャンパス 九段北校舎1階)
制作協力:法政大学 HOSEIミュージアム事務室
(初出:広報誌『HOSEI』2024年6・7月号)