大原社会問題研究所は1919(大正8)年、岡山県倉敷の富豪・大原孫三郎により設立され、1949(昭和24)年に本学と合併して法政大学大原社会問題研究所となりました。社会科学分野では日本で最も長い歴史を持つ民間研究所です。
大原は倉敷紡績などの事業を営むかたわら大原美術館、倉敷労働科学研究所などを設立し、さらに福祉施設や学校、病院を設けるなど、文化・社会事業にも熱心な人物でした。
しかし、次第に社会事業に限界を感じるようになった大原は、社会問題の解決には根本的な調査・研究が必要であると考え、大原社会問題研究所を創設、初代所長に東京帝国大学教授・高野岩三郎を迎えました。
高野のもとには櫛田民蔵、権田保之助、森戸辰男、大内兵衛、久留間鮫造、宇野弘蔵、笠信太郎らの優れた研究者が集まり、労働・社会問題、マルクス経済学などの分野で数多くの研究実績をあげました。
研究所では当初から図書資料の収集を重要な事業の一つとしていましたが、当時は海外の資料を集めるのは大変困難でした。
そこで1920(大正9)年10月、研究員の櫛田と久留間が欧州に派遣され、1922(大正11)年8月に帰国するまでに、櫛田がドイツを中心に、久留間はイギリスを中心に資料収集を行い、膨大な社会・労働関係図書や機関紙などを入手しました。
入手資料は貴重なものばかりで、中でもマルクスの署名が入った『資本論』初版本、エルツバッハーの無政府主義のコレクション、あるいはスミス、マルサス、リカードなどイギリス古典派経済学を網羅した資料などは、世界に誇る貴重コレクションとなっています。
2008年には、同じく大原孫三郎によって設立された大原美術館、労働科学研究所、岡山大学資源植物科学研究所、倉敷中央病院とともに「大原ネットワーク」を立ち上げ、コレクションの相互貸出しやシンポジウムを行っています。
さらに研究所は戦前・戦後の膨大な資料を擁しており、社会労働問題の研究拠点となっています。研究テーマは労働問題、貧困問題、社会福祉、ジェンダー、環境などに及んでいます。
取材協力:法政大学大原社会問題研究所
(初出:広報誌『法政』2014年度3月号)
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