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2023年度学位授与式 廣瀬克哉総長 告辞

  • 2024年03月24日
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みなさん、ご卒業、ご修了おめでとうございます。ご家族の皆様にも、心よりお祝い申し上げます。

今日卒業を迎える学部生のほとんどは、2020年4月に入学したみなさんです。例年この日本武道館で行われる入学式も、コロナ禍で行うことができませんでした。キャンパスに足を運ぶ機会もほとんどなく、郵便やメールで届く大学からの連絡を受けて、授業を受ける準備を4月に行い、連休明けからは教員と学生の双方が不慣れななかで、オンライン授業が本格的に始まる。そんな大学生活のスタートでした。法政大学の学生になったんだという実感をもてないまま、大学で新たな友人と出会う機会を得ることも難しかった。4年近くが経過して、かなり社会生活もコロナ前に近づいている今、もうその頃は遠い昔のように感じられているでしょうか。それとも、自分の学生生活の記憶に深く刻まれていて、忘れたくても忘れることの出来ない体験となっているでしょうか。

当時は2020年度入学生がちゃんと大学生になっていけるだろうか。学びの機会を失うことなく、学生生活を送っていけるだろうかということが、教職員にとっては、つねに意識せずにはいられない気がかりでした。みなさんの卒業を目前にした今、そういう心配事は、ほぼ解消されています。学生も教職員も互いに五里霧中で試行錯誤していた時点から、いろいろな場面で、みなさんの適応力に感心させられました。大学が契約して時間制限のないZoomのオンライン会議が出来るようになるには、少し準備に時間を要しましたが、それが実現する前から、制限時間内で会議の主催者をリレーしながら長時間のコミュニケーションを可能にしている学生たちがいました。学習成果の発表についても、オンラインならではの画像合成を使いこなした効果的なプレゼンテーションのテクニックが開発されていきました。スマートフォンをもって街中から実況中継をしながら臨場感のあるレポートをしてくれる学生もいました。そんなノウハウを駆使して、早くから準備を進めて、多摩キャンパスの2020年の学園祭は、その時点で蓄積されたオンラインでのノウハウを駆使してのバーチャル開催となりました。何とかして対面で開催しようと取り組んだ市ケ谷キャンパスと小金井キャンパスでは、キャンパス内の密度を下げるためのICTの活用や、万が一感染が発生した場合に備えて、来客のトレーサビリティを確保するシステムが開発・導入されたりもしました。必要があるからこそ、それを満たすためのイノベーションが生まれる。ひとつひとつは小さな事だったかも知れませんし、今となっては日常の一部に溶け込んでしまっているかも知れません。しかし、それが生まれてくる瞬間には、自分にとってのチャレンジがありました。可能性を感じられたアイディアを、自力で磨き上げながら自分のものとしていくプロセスには、出来上がったものを受け取っての習熟することとは違った「自分ごと」ならではの実感と学びがついてきます。コロナ禍のスタートと同時に始まった大学生活は、結果的に、そんなことをみなさんにもたらしたのではないでしょうか。

みなさんが2年に進級するタイミングで、1年遅れの入学式を日本武道館で行ったところ、当時の新2年生の6割以上が出席してくれました。その時の式辞の中では「制約があるからこそ、それを乗り越えるための工夫や努力に熱くなって、面白く感じられる場合がある」ということを述べました。その後、実際に制約を乗り越えるために自分たちから行動を起こさなければ、と思い立った活動が、2020年度入学生の中からいくつも生まれてきました。その一つである、ホーセーイノベーションクラブは、2022年度の「自由を生き抜く実践知大賞」で大賞を受賞しましたが、その活動はその後も発展し、継承されています。先月多摩キャンパスで行われた地域交流DAY2023では、現在の1年生を含む今年度のチームリーダーたちから、活動報告がいきいきと行われていました。2022年度、2023年度の実践知大賞にエントリーされた学生のみなさんの取り組みの中には、2020年度の体験を踏まえて生みだされた活動が他にも数多く含まれていました。

このように、2020年度入学生のみなさんが芽吹かせた種が、いまキャンパスに根付いて、これからもさらに花開いていこうとしています。あのパンデミックのなか入学してきた学年の、状況を打開していくための熱心な取り組みが、大学の歴史の中に新しいページを開いたのです。否応なくふりかかってきた制約を乗り越えようとする、みなさんの工夫や努力は、しっかりと実を結んだと思います。そして、2020年の前半に感じていた今年度の入学生がちゃんと大学生になっていけるだろうかという心配は、いまでは解消され、みなさんのこの4年間の取り組みに対して、誇らしい思いもいだきながら、心から卒業を祝う気持ちで、私はこの場に立っています。

さて、4年前に実際私たちが遭遇した、きわめて非日常的な状況に置かれたとき、人の行動には、普段にも増して個性の違いが増幅されるのだ、ということを実感しました。対面での行動と、人とのコミュニケーションや一緒に取り組む活動をしないことには、生きている実感が持てない、というタイプの人は、コロナ禍の初期の状況の中でも、少しでも対面の活動が可能な機会を見つけては、その機会を最大限活用しようとしていました。対面での活動が活動の上で不可欠な種類のサークルや部も、例年よりは人数は減ったけれども、活動を継続できたのは、そんな人たちがいたからでした。そして、例年よりも、リアルでの活動に行動的な人が厳選されたような集団が形成されていたように思います。

他方で、リアルの行動が制約されているからこそ、自分たちの出番がやってきたといった反応を示していた人たちもいました。バーチャルの活動は、リアルの活動の劣化版ではなく、バーチャルでしかできない質と内容のものであり得るのだ。これまではまだ完成されていなかった、そんな活動を新たに作り出すのは自分たちだという構えで、多くの人にとっての「制約」は、自分たちにとっては適性にあった環境だと、生き生きと新しい取り組みに向かっていきました。リアルの活動が普通に展開されているキャンパスでは必ずしも目立たなかった、バーチャルを主舞台とする創造的な活動が、役割を得て、普段よりもくっきりと見えるようになっていました。それを目にすることによって、制約があるからこそ生まれてくる創造というものがあることを、あらためて実感することができました。

そんな風に個性が増幅して行動に反映された時期を含むこの4年間、その時期の自分の行動を、あらためて今振り返って見ることは、自分の個性や適性がどんなところにあるのかを、普通の時期の大学生活以上にはっきりと自分に対して示してくれているのではないかと思います。この4年間という時期に当たった大学生活が、そんな自己認識を得る機会となったことを、自分にとっての貴重な経験として心に留めて、これからの人生を歩んでいって欲しいと思います。そして、どんなタイプの人にも、大学生活を通して、自分と共通する特性をもった人や、逆に自分にはない特性をもった人とのつながりが生まれたのではないでしょうか。共通する仲間とは、強みをさらに増幅することができます。自分にはない特性をもつ仲間とは、お互いに補い合うことで大きな総合力を得ることができ、自分一人では実現出来ないことを、実現出来るチャンスが得られることでしょう。学生生活のスタートに当たっては、そもそも仲間との出会いそのものが難しかった学年だったからこそ、そんな制約の中でも出会えた仲間とのつながりを、今後も意識して、大事にしていってください。

さて、制約を乗り越える創意工夫や努力の成果が目覚ましいものであったとはいえ、4年前に思い描いていた「大学生活の中でこんなことをしたい」という希望のなかには、実現出来なかったことも少なくないと思います。それを、「今後もう実現することの出来ないことのリスト」としてしまわないで欲しいと願います。やらずにはいられないこととして胸に刻んで忘れずにいれば、いつか、どこかで必ず実現する機会はめぐってくるものです。「普通の環境で大学1年生をやってみたい」ということでさえ、リカレント教育の必要性が叫ばれている現代の社会においては、十分に現実的な、また、社会からも望まれる行動となる可能性のあることです。

「いつか必ず実現したいこと」のリストを忘れず、コロナの経験を通してはっきりと確認できた自分の特性と、同じタイプの仲間、違うタイプの仲間との協働の力を信じて、「実現出来たこと」のリストをひとつひとつ増やしながら歩んでいってください。そして、実現出来たことが増えるに従って、その経験を通して「実現したいこと」のリストもさらに豊かになっていくことでしょう。この4年間を乗り切ってきたみなさんだからこそ、それは十分に可能なことだと信じます。

みなさんの前途が素晴らしいものとなることをお祈りし、みなさんを送ることばといたします。

(以上)