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【法政の研究ブランドvol.19】「スポーツ×ビジネス」の限りない可能性を追求する(スポーツ健康学部スポーツ健康学科 井上 尊寛 准教授)

  • 2022年09月20日
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「法政の研究ブランド」シリーズ

法政大学では、これからの社会・世界のフロントランナーたる、魅力的で刺激的な研究が日々生み出されています。
本シリーズは、そんな法政ブランドの研究ストーリーを、記事や動画でお伝えしていきます。

プロを目指すサッカー少年からスポーツマネジメント研究の道へ

幼稚園からサッカーをはじめ、子どもの頃の夢はプロサッカー選手。プロを目指すなら東京の大学に入らなければと法政大学に入学しました。しかし、そこはスーパーエリートが集う場所。そこで大学のサッカー部ではなく、外のクラブチームでサッカーを続けていました。

経済学部生だったこともあり、友達はみんな卒業後の進路を銀行や商社などに決めていくのですが、私としてはどうしてもスポーツに関わっていきたいという想いが捨てられませんでした。せっかく経済学部で勉強したわけですから、関連するスポーツビジネスの分野で学びを深めようと、指導教授の勧めもあって筑波大学の大学院に進学しました。

大学院の指導教官が、Jリーグのマーケティングを専門とする先生だったので、そのつてで大学院時代にJリーグの長期インターンに参加しました。様々な経験をさせていただく中で、スポーツマネジメントの課題が見えてきましたし、同時に研究が楽しく感じていたこともあり、卒業後は母校の法政大学に勤めることになりました。実は、あるJリーグチームからマネージャーとしてオファーをいただいていたため、迷いもありましたが、研究者の道を選択しました。自分の興味にまかせて自由に活動できるという点では、大学がもっとも魅力的な場所だったのです。

競技へのコミットメントは学習支援で高まる

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私の最大の関心は、スポーツにおいて中核的なプロダクトである「試合」の、どこに人々は感動し、興奮するのかということ。そこで博士論文では専門とするサッカーだけでなく、プロ野球やフィギュアスケートも対象としました。サッカーや野球と異なり、フィギュアスケートは個人の技術力と美しさで勝負する競技であり、プロダクトの構造が他の競技より比較的分解しやすいと考えました。

調査の結果、会場に直接足を運ぶファンが1番見たいのは、選手の美しさであることがわかりました。しかしそれだけではスポーツを見に来ているというよりは、アートに近い感覚ですよね。それをよりスポーツと結びつけるためにはどうすればいいのかを調査したところ、観客に対して学習支援的な取り組みを行うことが有効であることが分かりました。例えば会場の中で選手の演技をリプレイし、技の説明を行うことです。このように技術的な要素の情報を提供することで、観客がより競技にコミットすることが分かったのです。

その延長でサッカーや野球などと調査対象を広げていき、最終的には、「競技に対する専門性が高まると、同時に選手(チーム)に対してのコミットメントも高まる」ことを論文としてまとめました。調査する中で気づいたのは、スポーツにおいては競技の本質的な部分に共感してもらうことが重要だということです。Jリーグの観戦者の60%ほどがサッカー未経験者だと言われていますが、そういう人たちでもすごく戦術的に詳しかったりします。逆に言えば、知識が高まり本質的な部分に共感できるようになったことで、深くコミットしたとも言えるでしょう。

なぜ私が観客の感動を重視するかというと、それがスポーツマーケティングにおいて重要なポイントだからです。私はいわゆるマーケティングとスポーツマーケティングとでは、「ゴール」が違うと考えています。例えば、ワールドカップは1ヵ月で270億人ほどが見ると言われており、商業的な価値は計り知れません。しかし、スポーツの側からビジネスを見たときに定めなくてはいけないゴールはお金を稼ぐことではなく、競技者を増やしたり、選手の価値を高めたりすることです。そのためにビジネスとはいいお付き合いをしましょう、というのがスポーツマーケティングの根底にあるべき考え方で、スポーツ健康学部でスポーツビジネスを学ぶ意義だと思っています。

スポーツにはまだまだビジネスチャンスがある

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スポーツマネジメントを学ぶ上で、法政大学の教育環境はやはり自慢できるものだと思います。その一つがサッカーグラウンドに取り付けられたカメラシステムです(左写真)。日本では法政を含めて4つの大学にしかない特殊なカメラで、録画した試合の映像からAIが自動でスタッツ(競技データ)を取ってくれるので、選手のパスの成功率や走行距離、ボールの保有率をデータでどんどん積み上げていくことができます。このデータを分析すると、選手の成長曲線が見えてくる可能性もあります。今はこのデータをどうマーケティングに生かそうかと考えているところです。

スポーツマーケティングの分野はまだまだ未開拓で、新しい研究課題が次々と見つかるおもしろい領域です。また、関わる企業が多岐にわたるところも魅力の一つ。スポーツ関連産業と聞くと、たいていの人は有名メーカーの名前を挙げますが、実際は人工芝のメーカーや教育機関もスポーツに関連する企業や組織であり、実はとてつもなく大きな業界です。つまりスポーツにはビジネスチャンスが驚くほどたくさんあるということ。ぜひ野心を持って入ってきてほしいと思います。

「スポーツ健康学部」という名前のイメージからなのか、「運動神経が良くないと」などと思われることもあるようですが、それは大きな間違いです。スポーツ推薦で入学する学生は少なく、一般受験で入学する学生がほとんどです。医療系に近いヘルスデザインコースもあるため、理系に特化した学生も多く、体育系の学部とはかなり違った学びの場となっています。ちなみにスポーツ健康学部の食堂は、学生であれば1日1回、無料(学費に含まれています)で食事ができます。“健康”という文字が入っていることもあり、食育を意識するべき大切なテーマとしてとらえています。

スポーツに関心を持っているなら、きっとなにか究めたいテーマが見つかるはずです。大事なのは好奇心。私自身、研究の原動力は、あくまで好きなこと、新しいことに対する興味と関心です。受験勉強は苦手でしたが、研究で新しいものを生みだすということに関しては、勉強がまったく苦にならないから不思議です。ぜひスポーツ健康学部で、スポーツの未来にワクワクしながら学んでほしいと思います。

  • 録画した試合の映像からAIが分析した競技データ

  • 選手のシュートやパスの分析結果が確認できる

  • ドイツのサッカーチーム「ボルシア・ドルトムント」のホームスタジアム、シグナル・イドゥナ・パルク内にて

  • スペインのラ・リーガに所属するサッカーチーム「ヒムナスティック・タラゴナ」のスタジアム、ノウ・エスタディ内にて

スポーツ健康学部スポーツ健康学科 井上 尊寛 准教授

法政大学経済学部国際経済学科卒業、筑波大学大学院体育研究科体育方法学専攻博士前期課程修了、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科スポーツ科学専攻博士後期課程修了。2006年より法政大学の兼任講師として着任、2015年より現職。専門分野は、ライフサイエンス、スポーツ科学。研究テーマは、スポーツマーケティング、スポーツマネジメント、プロ・スポーツ産業における消費者の観戦行動等。17年、日本スポーツマネジメント学会学会奨励賞受賞。著書に『よくわかるスポーツマーケティング』(共著、ミネルヴァ書房)等。