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誰も取り残されない社会をどのように構築するか考える(人間環境学部人間環境学科 佐伯 英子 准教授)

  • 2021年11月22日
  • ゼミ・研究室
  • 教員
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人間環境学部人間環境学科
佐伯 英子 准教授


米国への留学経験で文化や思想の多様性を体感し、リプロダクティブ・ライツ(生殖に関する権利)に着目した研究を続けている佐伯英子准教授。ジェンダーと身体の問題に取り組んでいます。

世論の力で社会が動くその様相を捉えたい

専門は社会学です。社会の中で「命の始まり」はどのように捉えられているのか。リプロダクティブ・ライツ(生殖に関する権利)という概念に基づき、学際的な視点からジェンダー、身体、医療などに関連する研究を続けています。

現在注目しているのは、アイルランドの情勢です。厳格なカトリック教徒が多いアイルランドでは、近年まで同性婚や人工妊娠中絶に対して厳しい姿勢が取られてきました。ところが、2015年には、同性婚を国民投票で合法化した世界初の国となり、2018年の国民投票では、それまで「胎児の生存権」を認め、事実上禁止とされてきた人工妊娠中絶が、一転して合法化されたのです。

保守傾向が強い国で、世論が社会を動かし、歴史的な転換を起こすまでに至ったのには、どのような背景があったのか、今後どうなっていくのか。こうしたことに興味を持ち、現地調査などで渦中にいる人たちの思いを確かめながら分析しています。

法政大学が取り組んでいるSDGs(持続可能な開発目標)には「誰一人取り残さない」という大切な原則があります。しかし、ジェンダーのことを考えると、多くの人が取りこぼされているのが現実でしょう。日本にも格差や偏見が存在し、他の国に比べてジェンダー・ギャップ指数※が低いという結果が出ています。

それでも、一見変化を望まないように見える保守的な社会でも何かのきっかけで変わることがあると、アイルランドの例が教えてくれました。歴史や状況、背景が異なるのでそのまま比較することはできませんが、逆照射することで日本のことがもっと見えてくるのではないかと期待を寄せています。

自由な発想を口に出せる環境づくりを

大学における学びでは、知識の習得に加えて、自分で考える力を育むことが大切です。そこで、授業では社会問題に関してメディアでの語られ方、描かれ方、データや理論を分かりやすく提示し、まずは何を感じるのかを問うようにしています。一つの答えを押し付けることなく、突拍子もない考えでもオープンに口にできる空間をつくるように意識しています。

そうしたこだわりは、私自身の学びの経験の中で培ってきました。

米国(ハワイ)の大学に進学した後、米国で暮らしながら10年間研究を続けました。国籍も話す言語も文化的背景も異なる人たちが集まる中では、自分の中では「当たり前」なことでも「正解」だとは限りません。違って当たり前だからこそ、意見の違いを恐れずに声を上げる勇気を持つこと、誰の考えも否定せずに聞く姿勢を学生のうちから大切にしてほしいと考えています。

留学中に、もう一つ夢中になったことが音楽です。インドネシアの伝統的な民族音楽であるガムランに魅了され、研究の合間を見計らってアンサンブル(合奏)に参加するほど没頭していました。今は合奏に参加する時間が取れず、遠ざかってしまっていますが、状況が許すようになれば再開したいと思っています。

多くの音楽には思いが込められていて、感情や思考が揺さぶられることから社会運動の中でもとても重要な位置を占めています。政治や社会への憤りなど、歌詞に含まれるメッセージ性により、社会を動かす力になることもあります。そうした力の一端を感じられるよう、その日のテーマに関連する音楽を流しながら講義をしてみたいとアイデアを膨らませています。

大・中・小のさまざまな銅鑼や鉄琴のような鍵盤打楽器で合奏するガムランの練習風景。写真は、ハワイ大学時代の一枚

理論と実践をつなぎながら自分なりの「実践知」を育む

2016年に人間環境学部のSCOPE(英語で提供される持続可能社会共創プログラム)が開設されたことがきっかけで、法政大学の特任教員となり、2019年からは専任教員として務めています。

社会学では、当事者の思いを聞いたり、実際はどうなのかを調査して確かめる、そうした学外での体験の積み重ねが大切です。幸い、人間環境学部には独自の教科科目としてフィールドスタディ(現地実習)があり、机の上で理論を学ぶだけでなく、実践へとつないでいけます。学生たちもグループワークなどに取り組む姿勢が前向きなので、フードパントリー(食糧支援をする施設)でボランティアをするなど、ゼミでもフィールドワークの計画を立てていたほどです。

新型コロナウイルス感染症の影響により、保留状態になってしまっていることは残念ですが、学際的な人間環境学部で学びを深めていける環境に感謝しています。学生たちにも、経験を積み重ねながら多面的な視点を身に付け、自分なりの「実践知」を育んでほしいと願っています。 

  • 写真1

  • 写真2

  • 写真1:ゼミでの発表風景。対面の授業が再開してからは、アクリル板を用いて感染対策を施しながら、授業を進めている
  • 写真2:2019年に実施したフィールドスタディでは、ハワイ大学が所有するタロイモ畑で、伝統的な農作業を学んだ
  • ジェンダー・ギャップ指数:「The Global Gender Gap Report(世界男女格差レポート)」にて公表されている、世界各国の男女間の不均衡を示す指標。2021年度版では、日本は156の国・地域のうち120位。男女格差が大きいほど指数は低くなる。

(初出:広報誌『法政』2021年10月号)

人間環境学部人間環境学科

佐伯 英子 准教授(Saeki Eiko)

ハワイ大学マノア校人類学部卒業、同大学社会学研究科修士課程、ラトガーズ大学社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。ラドガーズ大学社会学部講師、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科研究員を経て、2016年より法政大学人間環境学部の特任准教授として着任。2019年より同学部准教授に就任、現在に至る。