12月14日(土)に、2024年度(第8回)「自由を生き抜く実践知大賞」表彰式を市ケ谷キャンパス 外濠校舎6 階 薩埵ホールにて開催しました。
詳細は、以下よりご覧ください。
廣瀬総長より、受賞された実践事例への選定理由コメントと、ノミネートした実践事例にコメントが寄せられましたので、下記の通り紹介します。受賞した実践事例以外にも、「実践知」を生み出している素晴らしい事例が数多く存在しています。ぜひご覧ください。
◆掲載内容
実践主体/実践事例名称
廣瀬総長からのコメント
2024年は年初に発生した能登半島地震の被災地への支援活動が、学内においてもさまざまに展開された。いずれも、これまでのボランティア活動の蓄積や、法政大学自体における避難所運営のための実践的な学習の経験を基礎としながら、それぞれの主体の特性を生かした取り組みが行われている。
その中で、「ボランティアキャンプ・フィールドワーク」は、被災地自治体や関係諸団体との関係性構築を早くから進め、ボランティアの受入・滞在の拠点として現地に「ボランキャンすず」の整備が実現され、全国からの多数のボランティアの活動を支えたことを基礎とする活動であることが特徴だ。夏に行われた法政大学からのボランティアとフィールドワークは、この拠点なくしては実現できなかったものと思われる。そして、夏の活動から大学に戻った参加者たちは、多様なフィールドワークの成果を携えて9月に多摩キャンパスで行われた”CAMP in Campus”実証実験に参加し、能登半島での活動成果が大学にもフィードバックされた。このように、法政大学に限定されない被災地ボランティアの基盤整備につながったことが高く評価されるとともに、法政大学からの参加者個人にとどまらず実証実験を通して大学にフィードバックされた点で大学らしい取り組みだったと評価できる。
今では多くの人が日常的に使っているスマホの地図アプリによる経路検索だが、それは利便性や距離で経路を表示する機能は持っているが、夜の一人歩きでは、警察なども推奨しているように、多少距離が遠くなったとしても、できるだけ人通りが多く明るい道を選びたい。それを実現するアプリを、街路灯の位置データ、犯罪発生データ、準リアルタイムの人流データなど、入手可能なデータを活用することによって、既存の地図アプリにアドオンして開発した取り組み。実際に歩いてみて初めて分かる危険や不安についてのレポート機能なども盛り込み、コンテストで優秀な成績を収めた。既存の資源(データと基盤となるアプリ)をうまく活用して切実なニーズに応えた秀逸な取り組みだ。
多摩キャンパスが隣接する神奈川県相模原市。その市内にある佐野川地区は、近年急速な人口減少と耕作放棄地の拡大という状況下にある。この地区の茶畑を学生たちの手で再生し、収穫された茶葉を製品化して販売し、茶畑再生のための資金を獲得している取り組み。自分たちの生み出すものに価値が認められ、好んで受け入れられることは、やり甲斐とプライドの源泉となる。この取り組みは、耕作放棄地の改善という物理的な成果を超えて、この地域から生み出される佐野川学生茶が売上げを伸ばし、多くの人の飲用に供されることを通して、地域のプライドの再生を成し遂げつつあるのではないだろうか。
多摩キャンパスは広大だが、その構成員のほとんどが日々目にしているのは、各々の「生活圏」に限定されていて、多摩キャンパスの全体像を把握しているわけではない。その中で、多摩キャンパス全体を日々の活動範囲としている稀な存在が、大学からの委託を受けた「総合管理」の担当者だ。その知見をもとに、多摩キャンパスに配置されていたさまざまなゴミ箱を、キャンパス構成員の動線を踏まえて合理的に再配置し、利用者が捨てやすく、回収担当者が巡回しやすいゴミ箱の配置を実現した。近年喧伝されている「EBPM(根拠にもとづく政策立案)」の実効性にあふれた教科書と評するに足るものだ。
情報科学部のGBCは「授業や勉強方法、簡単な学生生活上の悩みを気軽に相談できる場」として2009年に開設され、不可欠な存在として定着していた。しかし、2020年からのコロナ禍による事実上の活動停止により、利用者数はコロナ前の水準には戻らず、新しく入学してきた学年からのSAの育成もいったん途絶えてしまっていた。そこで、2022年度から始動したGBC再建の取り組みは、あらためて利用者のニーズを把握することから始め、SAの質を向上する取り組みを重ね、恒常的な取り組みにたどり着き、それが再建を支えた。継続の危機に直面したことによって、結果的にGBCの本質を改めて確認し、それを持続させる仕組みが確立された素晴らしい取り組みである。
著名な作家や批評家を多数擁する法政大学文学部日本文学科が、レベルの高い雑誌を発行できていることは当たり前のように感じられるかも知れない。しかし、この雑誌の特長は現役学生が編集に携わっていることにある。入学と卒業があり4年で入れ替わっていく学生が、4年というサイクルの中で年々引き継ぎながら、毎年新鮮な発想や視点を持ち込んで特集を組み立てて行く。そんな学生の作業を教員が見まもりながら、完成した雑誌をともに文学フリマに出展して読者に届けに行く。その繰り返しがこの雑誌のキャラクターとなり、学科の学風を形成するに至っていることを賞したい。
多様性と社会起業をテーマに学び、議論し、プレゼンテーションをする5日間の合宿行事に北海道から沖縄まで多様な中高生が参加した。企画や運営に携わったのは、法政大学の教職員、学生の他卒業生も含めた、多数の法政大学関係者であり、完全に法政大学の「内製」のプログラムだ。共通する関心事を学ぶために全国から若者が集まり、ロールモデルとなるような人々からのメッセージを受け取り、自分たちも本気で議論しながら成果を取りまとめて発表をし、それを共有する。それは大学というものの原点を思わせる場ではないだろうか。
東日本大震災の被災3県が「魅力・希望・未来が感じられ、視聴者が3県に足を運びたくなる作品」をテーマにした映像コンテストに、1ゼミから2作品を応募した。音を通して東北のもつ“癒やし”の魅力を十分に伝える作品と、面白いサプライズに溢れた旅の模様で気持ちを盛り上げてくれる作品が揃って受賞に輝いた。実行委員会に3県の大学が名を連ねている被災13年目のコンテストで、法政の学生が繰り返し東北に足を運びながら、感じ取った東北の魅力を作品に仕上げたという関係性の構築もまた、このコンテストの成果といえるだろう。
「インクルーシブデザイン」をテーマにしたグループ制作演習授業では、身体的な活動に困難を抱える方をリードユーザーに招き、その方の協力の下で実際に役立つ道具がデザインされ、具体化されていく。その一連の成果が、国際的な賞を受賞した。完成した道具の受賞というよりも、個々のユーザーの方の困難にしっかりと正面から向き合い、それをどのように道具が補えるかを試行錯誤し、実際にユーザーの方にも協力いただきながら改善していくプロセス全体が受賞したといえる。エントリーのために開発プロセスを英語字幕入りのドキュメンタリー映像にまとめることは、賞への応募という目的をこえて、この授業が内包している意義を客観化、可視化する効果をもったはずだ。
どの学部のどのゼミも、意欲的な後輩が入ってきてくれることを願って、SNSをはじめとする様々な手段を活用して、それぞれ工夫を凝らした情報発信を行なっている。そこには各々のゼミの個性が反映されている。だが、それが読者である下級生にとって、ゼミを選択するために使いやすい情報になっているとは限らない。入ゼミのために知りたい情報項目が、どのゼミでも読み取りやすく発信されていなければいけない。比較対照が手軽にできるとなおよい。つまり、情報の発信者と受信者を仲立ちする「編集」が不可欠なのである。その「不可欠」を学生の手で生み出した「実践」の力だ。
本学体育会レスリング部に所属する松山楓さんが、パラオ共和国の女子選手の強化をお手伝いした取り組み。日本とパラオのレスリングを取りまく環境の違いを実感しながら、自分の経験にもとづいてレスリング強化のための支援を行った結果、その後行われたミクロネシア競技会でパラオチームは優勝に輝いた。世界のトップクラスにある日本の女子レスリング競技に取り組んでいることは、スポーツの交流を通して日本とパラオ、また他の国々をつなぐ無二の財産だということを教えてくれる。
本学は2016年にダイバーシティ宣言を発出し、大学のダイバーシティ推進に取り組んできたが、推進拠点となるDEIセンターを2024年4月に開設した。そのための情報発信・交流拠点ダイバーシティ・ラウンジも市ケ谷キャンパスに設けられ、コンスタントに学生が利用する場所として定着しつつある。ダイバーシティの推進は、大学の在り方のあらゆる場所、場面に関わることだが、その理念を確認したり浸透させたりするために、ダイバーシティ推進を象徴する、目に見える存在が大事だということを、この物理的な場の設置が示してくれた。