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【法政の研究ブランドvol.14】「最適化」を学ぶことで、社会を様々な角度から眺める視座を手に入れる(理工学部経営システム工学科 林 俊介 教授)

  • 2021年09月01日
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「法政の研究ブランド」シリーズ

法政大学では、これからの社会・世界のフロントランナーたる、魅力的で刺激的な研究が日々生み出されています。
本シリーズは、そんな法政ブランドの研究ストーリーを、記事や動画でお伝えしていきます。

社会における様々な現象における最適な方策を導く

私が所属する理工学部 経営システム工学科では、「数学を道具として社会の様々な事象を理論的に捉えて解明する」という研究を行っています。そのなかで私は「最適化」の応用と理論に関する研究を行っています。最適化とは、利益や効用を最大化したり、コストやリスクを最小化したりすることで、社会における様々な現象において、最適だと考えられる方策を導くためのアプローチだと説明できます。

具体的にどのようにアプローチするかというと、まず現実に解きたい問題を最適化問題として「数理モデル化」します。その後、数学的な手順を用いてこれを解き、得られた解をフィードバックするというのが研究の主な流れです。

数理モデルと聞くと、少々難しく聞こえるかもしれませんが、算数の授業で、「りんごとみかんが合わせて6個あります。みかんの数は、りんごの数の2倍です。りんごは何個ありますか」といった文章題を、みかんをX、りんごをYとした連立方程式を立てて解いたことがあると思います。これと同様に、例えば工場における生産において利益を最も高める(最適化する)ために、どのような数式で表現できるかを検証すること、つまり、現実の問題を数学的な問題に変換することを数理モデル化と考えてもらえればよいと思います。

数理モデルを構築するためには問題を構成するデータの整理が必要不可欠ですが、限られたデータのもとでも今すぐアウトプットが欲しいのか、もしくはデータが十分にそろった上で評価が必要なのか、はたまた確率論を絡め、最適化にも幅を持たせるのかなど、このプロセスがとても重要かつ難しいのです。この変換がうまくいかないと最適解を導くことができないため、数学的なセンスやヒアリング力が求められます。また、最適化に限りませんが、数理モデル化によってできた問題もしばしば複雑で、手作業では解くことができないため、パソコンで計算することになります。こうした計算に必要な手順を「アルゴリズム」と呼びます。例えば、「XがYより大きかったら、こういう計算をしなさい」といった条件やルールの組み合わせだと考えてください。このアルゴリズムも一つではありません。数理モデルによって様々なアルゴリズムを比較し、改良していくことも私の研究の一環です。

私がこの最適化の分野に関心を持ったきっかけは、その言葉自体に惹かれたというのが正直なところです。大学院に進学する際、研究室を選ぶ必要があったのですが、最適化の研究は、何か本質的なものを含み、奥が深いのではないだろうか。そして応用範囲も広いのではないか。そう感じて自分の関心にマッチしたからです。その時の直感通り、様々な実現象を数理モデル化して解くという過程に面白さを感じています。

「数学的にはこれ以上良いものはない」最適解を求める

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最適化についてその概念を説明してきましたが、私たちの生活との関わりについて少し説明してみます。最も分かりやすいのはカーナビゲーションや鉄道の乗り換えアプリです。どちらも、出発地から目的地までのルートを案内するものですが、いくつかのルートが提案されます。所要時間なのか、料金なのか、それとも運転のしやすさなのか、利用する人によって最も重視する条件は異なりますので、それぞれの場合で異なる数理モデル化がなされます。そのため、最適化といった際、何を評価基準にするかによってその答えは異なることがお分かりいただけると思います。

最適とは言葉の上では「それ以上いいものは無い」ということを意味します。私たちの研究では、最適化問題を「数学的にはこれ以上良いものはない」というところまで追及して答えを導こうとしますが、実際の現場や生活においては、上述ししたように、利用者のニーズに加え、予期せぬ要因や社会変化もあります。またその結果を受け入れる人間の感情的な問題もあって、数学的には正しくてもそれが受け入れられるとは限りません。

例えば、個々のドライバーが自分にとって最適なルートを選択するとします。すると、より早くより安く目的地に到着できるルートが渋滞してしまいます。これは社会的に見たら最適化されているとは言えません。そこで混雑に応じた通行料を課し、交通量を分散させるとことで、渋滞による社会損失を軽減、つまり最適化できるわけですが、果たしてこの施策が人々に受け入れられるかという問題が生じます。そのため、私がいま関心を持っているのは、数学的に導いた結果は同じだけれど、どう人々が納得して受け入れるよう社会実装できるかということです。組織や社会に所属するひとり一人に個別の最適化をした場合、社会がどう変化していくのか。そこにはもちろん一人ひとりが最適化を通してハッピーになるということも求められます。

物事を数学的に表現することで本質的な構造を明らかにする

最適化を考える際、研究者と企業が一緒に取り組むケースがしばしばあります。研究者も実践研究を専門とする研究者、数学的に突き詰める研究者など、役割が異なりますが、私自身は複雑な数学的構造を持った最適化に興味があります。

しかし最適化について学ぶ意義は専門家を目指す人だけにあるわけではありません。卒業生には銀行など金融機関に就職する人も多いのですが、金融工学という分野があるように、金融は実は数理的な考え方が役立つ分野なのです。たとえば、保険料などの計算にはリスクとリターンを適正に評価するための数理的な知識が必要となります。

その他、交通インフラ、都市経済など、一見相互関係が無いように見られる実現象なども、数学的に見ると共通点が見られることがあります。そのため、物事を数学で表現できれば、本質的な構造を明らかにすることにつながると考えられます。そのため、大学で最適化を勉強することで、世の中の様々な分野をこれまでとは異なる捉え方できるようになるのではないでしょうか。少なくとも、数理モデル化するというツールを手に入れることで、意思決定に役立つということを知っておいてほしいと思います。

一方で社会では数学的な知識だけではなく、様々な知識や経験が求められます。例えば私の周りには企業で業務システムの最適化に携わる人もいますが、実際の現場では、先にも述べたように様々な制約や条件があります。そこで、より実用的な数理モデルを作るためのデータや制約をしっかりと伝えたり、調査するということも大事な要素になります。そこで、学生の皆さんには、「教科書に書いてあるから」「先生が言っているから」と安心するのではなく、「何でこうなるのだろうか」「本当に正しいのだろうか」と常に考えて欲しいと思っています。大学に入るまでは受験勉強で、速く正しく解くことに特化していたと思いますが、せっかく大学に来たのですから、様々な学問に触れ、その都度自分で考えることを重視してもらえればと思います。最初は真似しながら学んでいくことも必要ですが、疑うことによってさらなる理解や発見につながることが多いと思います。

  • 上海で開催された国際学会で研究者仲間と

  • 法政大学赴任後、初めて指導したゼミ生との卒業記念写真

理工学部経営システム工学科 林 俊介 教授

東京大学工学部卒業。京都大学大学院情報学研究科博士課程修了。博士(情報学)。ミネソタ大学(米国)研究員、国立成功大学(台湾)研究員、京都大学大学院助教、東北大学大学院准教授を経て2020年より現職。専門は連続最適化の理論解析とその応用。Journal of Industrial and Management Optimization (JIMO) 編集委員、Pacific Journal of Optimization (PJO) ゲスト編集委員なども務める。受賞は日本オペレーションズ・リサーチ学会文献賞奨励賞、最優秀発表賞等。