お知らせ

2025年秋季入学式 総長式辞

  • 2025年09月13日
  • イベント・行事
お知らせ

法政大学へようこそ。ご入学、心からお祝い申し上げます。

ご存じのとおり、9月は日本で大学や大学院を始める通常の時期ではありません。私自身、日本で教え始めたときに初めて知ったのですが、日本の新年度は4月に始まります。これは秋、9月や10月に始まるのが当たり前の環境で育った私にとっては驚きでした。その理由を尋ねたところ、「桜が咲くときに始めたいから」と同僚が答えてくれました。それは美しい理由です。しかし、この数十年日本に住んできた中で、入学式や学年の始まりの日に桜が満開であることは、むしろ珍しいことでした。

伝統とは、あくまで長く続いてきた慣習にすぎず、必ずしも最善の方法でも、唯一の方法でもありません。皆さんはすでに、日本の大学における伝統を越えて歩み出す最初の一歩を踏み出しました。そして同じように、私たちもその機会を提供する第一歩を踏み出しました。グローバル教養学部は、異なる学年暦で学んできた海外経験のある学生を受け入れるため、2013年に初めて秋入学を導入しました。2015年には、新入生とそのご家族、総長、教学担当副学長、そしてGISの教員が入学式に出席しました。その当時は、会議室ひとつで十分な規模でした。今では、ここ薩埵ホールにおいて、GISの新入生に加え、人間環境学部のSCOPE、経営学部のGBP、経済学部のIGESS、総合理工学インスティテュートIIST、そして法政ビジネススクール・イノベーション・マネジメント研究科のグローバルMBAプログラムの新入生を迎えています。こうして私たちは、新しい伝統を築いたのです。

新しいことを始め、慣習を破ることは決して容易ではありませんでした。成功するかどうか分からない中で、私たちはリスクを取りました。春や夏に高校を卒業する学生に機会を提供することは価値があると信じ、日本に英語で学べるプログラムを設けることは、国内の学生に新しい進路を開くだけでなく、まだ日本語で十分に学ぶ力がない留学生をも惹きつけると考えました。当時は予想していませんでしたが、こうしたプログラムは、現在ウクライナの戦争によって学びの場を失った若者を受け入れることにもつながっています。全体として、多くの英語開講科目を提供することにより、多様な文化的背景を持つ学生が集まり、豊かな交流の機会が生まれると同時に、世界各地から集まる学生同士が互いの視野を広げ合うことができます。その結果、法政大学におけるすべての学生の学びの環境は、いっそう豊かなものとなっています。

この「伝統を打ち破り、新しいことに挑戦する姿勢」こそが、法政大学の伝統そのものです。本学には「慣習」や「あらかじめ決められた道筋」に縛られない思考と行動を重んじる誇り高い歴史があります。端的に言えば、それは「開拓者精神」です。この精神は本学の校歌にも謳われています。1880年に創立された法政大学は2030年に150周年を迎えます。2016年に制定された法政大学憲章に「自由を生き抜く実践知」と記されたように、私たちは自由と進歩という理念を貫いてきました。この伝統を守るためには、進化し続け、挑戦し続け、真の意味で自由を生き抜き、必要に応じて伝統を破っていかなければなりません。

実際に、女性であり、外国籍であり、幼稚園から大学院まで日本以外で教育を受けた私が総長になったこと自体が、その精神の証だと思います。同規模で同様の歴史を持つ大学の中で、法政大学は2人の女性総長を選出し、その一人が外国籍であるという点で際立っています。これは、本学が進化する力を持ち、前例のなさに臆さないことを示しています。さらに、私は総長になる前、男女共同参画を含むダイバーシティ推進の担当理事を務めていました。これは日本の大学の総長としては異例の経歴です。しかし、これは私が特別なのではなく、法政大学が特別なのです。

卒業生たちもまた、自らの道を切り拓き、この開拓者精神を体現しています。ある卒業生は法学部で優秀な成績を収めた後、英国と米国でファッションデザインを学び、日本で独自のブランドを立ち上げました。別の卒業生は、日本で弁護士として成功を収めていましたが、「留学するメリットはない」と言われたにもかかわらず米国の名門ロースクールに進み、カリフォルニア州とニューヨーク州の司法試験に合格しました。英語でリベラルアーツを学んだ卒業生は客室乗務員として働いていましたが、機内での救急対応をきっかけに天職に気づき、現在はハンガリーで医学を学んでいます。さらに、経済学の知識を活かして、アフリカでアートとサステイナビリティを融合させたキャリアを築いている卒業生もいます。

この新たな道を切り拓く力――これこそが法政大学の本質であり、その可能性は今日ここにいる皆さん一人ひとりの中にもあります。その力は、これからの学びや活動を通じて大きく開花していくと信じています。

ただし、誤解のないように申し上げます。私たちは、単にルールを破りたいのではありません。そこには目的があります。「自由を生き抜く」とは、自由を自分のためだけに使うのではなく、世界をより良くするために使うことです。「自由」というキーワードのもと、多様で、公正で、包摂的な社会を実現し、誰もが自由な思考と行動力を通じて自由を生き抜くことができるようにする。それは自分自身だけでなく、自分の行動がどうすれば多くの人にとって生きやすい社会をつくるのかを常に意識することを意味します。法政大学憲章の「自由を生き抜く実践知」とは、人権と尊厳を尊重し、自由な学風のもとで多様性を認め合い、公正な社会の実現を目指すという理念です。

自由を生き抜くこと、挑戦すること、新しいことに取り組むことは、必ずしも大きなことを意味しません。ほんの一歩、二歩、コンフォートゾーンの外へ踏み出すだけでも良いのです。一歩踏み出せば、新しい世界が見えてきます。これは、私自身の経験から申し上げています。

最後にひとつだけお願いがあります。今日の世界では、特にSNS上で、事実と根拠のない情報が入り混じり、外国人や性的マイノリティ、その他の社会的少数者に対する憎悪の言葉も溢れています。そのような社会の中で、私たちは何を信じ、どのような立場を取り、どう行動すべきなのでしょうか。本当の「真実」とは何か。これは皆さん一人ひとりが向き合うべき問いです。

法政大学で学ぶ間に、どうか十分な情報に基づき、合理的に判断できる力を身につけてください。

  • 何かおかしいと感じたら、落ち着いて話し合ってください。
  • 他者の意見を尊重しつつ、自分の価値観を見つめ直し、磨いてください。
  • SNS上の情報をそのまま信じることはせず、情報を多角的に検証しましょう。
  • 投稿する前に、ぜひ一度立ち止まって考えてください。

授業では、ただ受け身で聞くだけでなく、積極的に関わってください。深く学び、批判的に考え、多様な視点から物事を見る訓練をしてください。そして、疑問や質問があれば、ためらわず先生方に聞いてください。教員も職員も、そして私自身も、皆さんの学びを全力で支えます。

ここで過ごす数年は、あっという間に過ぎていきます。法政大学の学生であることに誇りを持ち、大胆に挑戦し、恐れずに学び、この時間を将来への確かな基盤にしてください。

改めて、法政大学へようこそ。