お知らせ

法政大学島野教授の研究チームがブータンに生息する絶滅危惧種シロハラサギの人工孵化・育雛に成功 ~シロハラサギの絶滅回避に向けた支援活動の成果~

  • 2024年07月04日
お知らせ

法政大学の島野智之教授(自然科学センター・国際文化学部/シロハラサギ保全チーム代表(※1))、公益社団法人日本動物園水族館協会(JAZA,会長:村田浩一)、兵庫県立コウノトリの郷公園(園長:久下隆史)、NPO法人どうぶつたちの病院沖縄(理事長:長嶺隆)、人間環境大学環境科学部の岡久雄二講師らによる支援チーム(※2)のもと、ブータン王立自然保護協会(※3)のシロハラサギ保全センター(チラン県,ブータン王国)(※4)が2024年6月までに絶滅危惧種シロハラサギ(※5)の人工孵化・育雛に成功し、2羽が成育しました。

同国でシロハラサギの人工孵化・育雛が成功したのは2011年の1例に続いて今回が2例目となりますが、2021年にシロハラサギ保全センターが設置されてからは初めての人工孵化・育雛の成功となります。

なお今回の支援は、「公益信託サントリー世界愛鳥基金」および「TOYO TIREグループ環境保護基金」からシロハラサギ保全チームへの助成も活用させていただきました。

(1)経緯

  • シロハラサギ保全チームのメンバーが2023年にブータン王立自然保護協会のシロハラサギ保全センターを訪問。野外巣から採取した卵を用いた人工孵化・育雛が成功していないことを把握。人工育雛の技術支援が必要と判断した。
  • シロハラサギ保全チームから国内のコウノトリ・トキ・サギ類の飼育繁殖の専門家に協力要請があり、支援チームが結成され、兵庫県立コウノトリの郷公園の獣医師及びJAZAコウノトリ・トキ・サギ類の飼育繁殖を専門とする会員(加盟)園館職員をブータンに派遣した。本支援チームはインターネット・オンライン会議システムを活用し、常に日本からブータンへのアドバイスも行ってきた。
  •  同専門家グループが下記の支援を実施。

(2)支援内容

  • 野外巣から採取した卵をシロハラサギ保全センターまで輸送するための「携帯型孵卵器」の提供
  • 人工孵化・育雛手順書の作成と改定
  • 保温が可能な人工育雛ケージの提供
  • 人工孵化・育雛のために必要なビタミン剤、カルシウム剤、その他資材の提供
  • 現地を訪問しての直接的な支援(孵化直後の育雛管理、応急処置、死亡個体の解剖、サンプル採取など)
  • インターネット・オンライン会議システムを活用し、常に日本からブータンへの長期間の経常的アドバイス
  • 日本国内研修の実施

(3)現地派遣者 

  •  第一陣(2024年3月25日〜3月31日)

埼玉県こども動物自然公園 高木嘉彦 副園長(獣医師)
横浜市立よこはま動物園・繁殖センター(横浜市繁殖センター) 白石利郎 飼育員

  • 第二陣(2024年4月11日〜4月18日)

法政大学 島野智之 教授(自然科学センター・国際文化学部)
兵庫県立コウノトリの郷公園 松本令以 主任研究員(獣医師)

(4)ブータン王立自然保護協会からのコメント 

日本からのチームは全員が専門家として2024年に新たに2羽のヒナの人工育雛のために、その専門知識で多大な貢献を下さいました。専門的な知識のサポートだけでなく、シロハラサギの人工繁殖プログラムを支援するために有用な様々な実験材料を寄贈し、繁殖者の能力向上の研修もセンターで行って下さいました。シロハラサギの保護への揺るぎないご支援と、ボランティアベースで私たちを助けるために多大な努力を払っている貴チームのメンバーの献身的な努力に本当に感謝しています。

さらに、私たちのスタッフ2名を、日本での研修に受け入れてくださるというご厚意にも感謝しています。彼らはとても熱心で、そこから多くのことを学ぼうとしています。あなたのチームがきっと彼らに必要な技術的能力を与えてくれると期待しています。この支援活動は、RSPNの歴史に永遠に記憶されることでしょう。ブータン王立自然保護協会は、ブータンおよびこの地域におけるシロサギの個体数を復活させる長期的な計画を持っており、日本の専門知識による更なる関与と支援は極めて重要であると確信しています。改めて心よりの感謝を申し上げたいと思います。

(5)今後の予定

  1. 国内研修の実施
    6月29日(土)〜7月12日(金)にシロハラサギ保全センターから2名の職員が来日し、恩賜上野動物園、東京都多摩動物公園、兵庫県立コウノトリの郷公園で鳥類の飼育・獣医診療等に関する研修を実施予定。このうち兵庫県立コウノトリの郷公園では、7月7日(日)〜7月12日(金)に、コウノトリの飼育、繁殖、足環装着、治療、野生復帰などについての研修を行う。
     
  2. シロハラサギ保全ワークショップの実施
    7月6日(土)に恩賜上野動物園において、国内動物園関係者等を対象にしたワークショップを実施。

(6)用語解説

※1 シロハラサギ保全チーム
法政大学、東邦大学、人間環境大学、国立科学博物館、国立環境研究所、NPO法人どうぶつたちの病院沖縄の研究者や獣医師で構成される任意団体。2019年からシロハラサギの保全活動を支援している。代表は法政大学・島野智之教授。

※2 支援チーム(任意)
埼玉県こども動物自然公園*、横浜市立よこはま動物園・繁殖センター*、東京都恩賜上野動物園*、兵庫県立コウノトリの郷公園、NPO法人どうぶつたちの病院沖縄の飼育職員や獣医師及び、保全生物学の専門家である岡久雄二講師(人間環境大学環境科学部)、島野智之(法政大学)で構成される専門家チーム(*JAZA加盟園)。

※3 王立自然保護協会(RSPN:Royal Society for Protection of Nature)
ブータン王国第4代国王の勅命のもとで1987年に設立された非政府組織(NGO)。

※4 シロハラサギ保全センター
RSPNが2021年に同国チラン県に設置したシロハラサギ飼育繁殖のための拠点施設。現在5羽のシロハラサギを飼育している(今回成育した2羽を含む)。

※5 シロハラサギ(英名: White-Bellied Heron、学名: Ardea insignis
国際自然保護連合(IUCN)が作成したレッドリストで「絶滅危惧種(CR)」に分類される世界的に希少なサギの一種で、インド、ブータン、ミャンマー、バングラデシュなどに生息している。世界全体の個体数は60羽以下とされており、ブータンでは約20羽が確認されている。サギ類の中では世界で2番目に大きく、翼長100cm、翼開長210cm、体重約3kg、起立姿勢での頭高125cm。

  • シロハラサギ(シロハラサギ保全センターで飼育されている個体)

  • 今回、人工孵化したシロハラサギの雛

  • 成育したシロハラサギのうちの1羽

  • シロハラサギ保全センターでの研修

  • シロハラサギ保全センターでの研修

  • シロハラサギ保全センターでの研修

  • シロハラサギ保全センター

  • シロハラサギ保全センターのスタッフと日本チーム


【本件に関するお問い合わせ先】
法政大学自然科学センター・国際文化学部
教授 島野 智之
E-Mail: sim@hosei.ac.jp