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日本設計工学会 論文賞:データサイエンスの応用で地球環境問題への貢献を目指して(理工学部機械工学科 吉田 一朗 教授)

  • 2020年11月09日
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2019年度に受賞・表彰を受けた教員の研究や受賞内容を紹介します。

吉田一朗教授は、「日本設計工学会学会賞 2018年度論文賞」(日本設計工学会)を受賞しました。

共同受賞者:伊是名 秀昭(学生)

  • 論文「プラトー構造表面の評価方法の開発」

受賞論文

「プラトー構造表面の評価方法の開発

Development of Evaluation Method for Surfaces Having Stratified Functional Properties」

論文賞の賞状

賞の目的

「日本設計工学会 論文賞は、設計工学の分野における学術研究および教育の発展に寄与した論文を顕彰することを目的とし、 前年の1月以降12月末までに学術論文誌「設計工学」に掲載公表された論文のうち、その内容が最も優秀と認められるものを対象とし、その論文の筆頭著者および連名著者を表彰します。」(学会HPより)

受賞日

2019年5月25日

研究内容、受賞内容

環境問題への対応やサスティナブルな社会の実現、SDGsへの貢献を目指し、自動車や航空機など様々な機械の環境負荷を低減させる技術の研究開発が、我々研究者の使命となっています。そのため、近年の航空機や自動車などの機械製品は、動作する部分・摺動部分(こすれる部分)の摩擦抵抗を大幅に低減させる技術の研究開発が盛んに行われています。その中でも、本研究では部品表面に存在するマイクロメートル・ナノメートルレベル(マイクロメートルは1/1,000 mm、ナノメートルは1/1,000,000 mm)の微細な凹凸に注目し、データサイエンスと画像処理技術を応用した評価技術の研究開発を行いました。具体的には、プラトー構造表面と呼ばれる特殊な機能を発現する表面凹凸を対象とした研究です。

研究対象の表面凹凸の例

このプラトー構造表面は、ヨーロッパが主導している国際的な工業標準化機構であるISO(International Organization for Standardization)の国際規格やJIS(日本産業規格)、先行研究において、その評価手法が提案されてきました。しかし、この手法には、煩雑な処理や難解なアルゴリズムのプログラミングが必要という課題がありました。これらの課題を解決しようと研究する過程で、本論文の計算アルゴリズムを着想しました。このアイディアは、私が紙に印刷した実験データのグラフを回転させながら定規を当てて解析する作業中に着想を得ました。受賞した論文では、この着想に近いラドン変換とデータサイエンス・統計計算を応用することで、計算アルゴリズムが直感的に理解しやすくプログラミングが容易な新しい評価手法を開発しました。また、受賞論文内では、実際のデータを用いて評価実験を行うことで、本手法の有用性も示しました。贈賞して頂いた学会からは、産業界で20年近く課題となり解決しなかった煩雑で難解な計算手法を、直感的に分かりやすいアルゴリズムというだけでなく理にかなっている新しい手法を提案した点、実際の実験データに適用し提案手法の妥当性の高さと信頼性の高さを示している点などを評価いただき、受賞に至りました。

データサイエンスによる解析過程を画像化した例

受賞の感想

本論文及び本受賞は、私が民間企業から法政大学に着任して初めての卒研学生である伊是名秀昭さんと一緒に研究した内容であるため、とても感慨深い論文であり受賞です。伊是名さんは、就学費の一部を自分のアルバイト給与から賄っている勤勉な学生であったため、自ら平日以外や夕方から研究室に来室して、多くの実験データを解析してくれていた姿を今でも思い出します。そのため、授賞式で賞をもらった際には非常に嬉しく2倍の喜びを感じました。現在も、伊是名さんの後輩にあたる修士課程の学生や学部学生とともに受賞論文に関連する研究を継続して進めており、複数の国際会議および複数の学術論文誌に掲載する成果を得ております。

今後に向けての展望など

本受賞論文の内容は、大手自動車メーカー様と精密計測機器メーカー様に注目をして頂きました。現在、大手自動車メーカー様からは、本論文の内容を発展させた研究テーマで共同研究を締結して頂き、発展研究を継続して進めています。また、精密計測機器メーカー様とは、特許を2018年5月17日に共同出願し、2019年11月21日より出願公開されています。また、本研究と発展研究の成果は、国際規格であるISO規格への提案を考えております。

「計測工学」「データサイエンス」「機械設計・設計工学」は弊研究室の3つの柱であり私の専門分野ですが、これらは理系技術者にとっては非常に重要、かつ、どんな分野でも必要とされる学問です。「計測工学」は、『計測なくして科学なし』と言われるほど科学技術の基本です。「データサイエンス」は、実験データだけでなく人工知能(A. I.)、ロボットの研究開発、経済予測・株価予測の分析・考察まで幅広く応用できます。「機械設計・設計工学」は、ものづくりにおいて必要不可欠であり機械系技術者にとって必須です。今後も、私の専門分野である「計測工学」「データサイエンス」「設計工学」と、前職の企業において実践で培った「機械設計」をベースに、熱意あふれる若い学生の皆さんたちとともに社会に貢献すべく研究開発に取り組んでいく所存です。

法政大学理工学部機械工学科

吉田 一朗 教授(Yoshida Ichiro)

1976年生まれ。2008年、明治大学にて博士号取得。2008~2016年(株)小坂研究所 課長を経て、2016年に法政大学着任。2018年に准教授、2019年に教授となり、現在に至る。他に、東京大学 生産技術研究所 リサーチフェロー、中京大学 人工知能高等研究所 特任研究員。ISO/TC213国内委員会幹事、委員及び国際エキスパート、日本規格協会認定資格:規格開発エキスパート。精密工学会 理事。

  • 所属・役職は、記事掲載時点の情報です。