お知らせ

スポーツマネジメントのリサーチフェロー賞(スポーツ健康学部スポーツ健康学科 吉田 政幸 准教授)

  • 2020年10月23日
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2019年度に受賞・表彰を受けた教員の研究や受賞内容を紹介します。

吉田政幸准教授は、「リサーチフェロー賞(Research Fellow Award)」(北米スポーツマネジメント学会(North American Society for Sport Management))を受賞しました。

  • 受賞内容「スポーツマネジメント関連の研究成果が一定の基準を満たしたことに対する表彰(Team identification, fan loyalty, engagement behavior in the sport context)」

リサーチフェロー賞

毎年、北米スポーツマネジメント学会は一定の資格要件を満たした研究者に対してリサーチフェロー賞を授与しています。29歳で大学教員になった私はこのリサーチフェロー賞の獲得を30代の目標として掲げました。30代での受賞は叶いませんでしたが、40歳となった2019年にこの目標を達成することができました。

リサーチフェロー賞には次の基準があります。まず、15編以上の査読付き論文を有し、そのうち少なくとも3編は学会誌のJournal of Sport Managementの論文であることです。私の研究テーマはこれまで一貫して「スポーツ観戦が人々の心理や行動に与える影響」であり、2019年までに35編の査読付き論文を発表し、6編をJournal of Sport Managementに掲載することができました。また、もう一つの基準は学会発表であり、その内容は北米スポーツマネジメント学会で少なくとも6件の発表を行い、他の学会発表と併せた合計が20件以上というものです。私は2019年までに北米スポーツマネジメント学会で15件の口頭発表を済ませ、国際学会での発表は合計で23件となりました。論文は余裕を持って資格要件を満たすことができましたが、国際学会での発表の方に手間取ってしまった結果、受賞までに長い期間を要しました。

2019年度のリサーチフェロー賞の受賞者(吉田准教授は前列左から3人目)

私のスポーツ観戦研究

私がJournal of Sport Managementに掲載した6編の論文のうち、3編が筆頭です(著者が複数いる研究論文では、一人の著者が筆頭筆者に指定されます)。最初に筆頭著者として発表した論文はスポーツ観戦における顧客満足がテーマでした。日本のプロ野球観戦者と米国のカレッジフットボール観戦者から収集したデータを分析したもので、この研究は単に日米の比較というだけでなく、プロとアマチュアを比較し、両者の違いと共通点を明らかにした点が評価されました。次に発表した論文はファンエンゲージメントと名付けた新しい概念に関するものでした。この研究ではスポーツファンが試合運営に協力したり、他の観戦者と助け合ったり、たとえ応援するチームが成績不振に陥っても寛容な姿勢で応援したりするような「非商業的な消費者行動」の存在を明らかにしました。現在、新型コロナウイルスの感染拡大でスポーツファンも行動変容が求められています。こうした状況下において、ファンエンゲージメントという協力的な観戦者行動はその重要性をより一層高めています。

最後の3つ目の論文はファンのリピーター化をファンたちのコミュニティによって説明したものです。それまで人々がスポーツを観戦する最大の理由はスポーツチームへの愛着と考えられてきましたが、私は他の観戦者と場所や時間を共有するスタジアム観戦の場合、ファン同士の絆の方が重要という仮説を立てました。分析ではあるJリーグクラブのサポーターの顧客データを1年に渡って縦断的に検証し、仮説を実証することができました。コロナ禍においてソーシャルディスタンシングや3密回避は必須の感染防止対策ですが、一方でこのような行動制限は人間関係の希薄化を招いています。無観客試合やリモートマッチが新たな観戦スタイルとして注目されていますが、これらはスタジアム観戦の醍醐味であるファン同士の一体感や絆を弱める恐れがあり、今後はファンコミュニティの再生が重要なテーマになるものと予想されます。

留学経験を活かして2019年度から単位化したスポーツビジネス海外演習

スポーツ観戦研究の今後

ウィズコロナの時代となってしまった2020年度からは科学研究費の助成を受け、ウェルビーイングをテーマに研究を行っています。国際連合が発表したSDGs(持続可能な開発目標)の3番目の開発目標がウェルビーイングであり、このウェルビーイングとスポーツ観戦がどのように関係しているかを説明することが目的です。ウェルビーイングには快楽的(hedonic)ウェルビーイングと持続的(eudaimonic)ウェルビーイングの二種類があり、前者はウェルビーイングの短期的かつ感情的側面(たとえば、日々の生活における喜びや嬉しさなどの快感情からもたらされる幸福感)を表すのに対し、後者はより持続的かつ意味的側面(たとえば、人々の人間的成長や自己実現を通じて感じることのできる幸福感)を指します。多くの人々がスポーツ観戦の面白さやアスリートの活躍によって快楽的ウェルビーイングを短期的に高めていますが、ファンやサポーターと呼ばれる人たちの中にはスポーツを通じてアイデンティティを形成し、人生の活力を向上させ、結果的に持続的ウェルビーイングを高めることに成功している人々が存在します。今後の研究ではこのようなスポーツ観戦とウェルビーイングの関係性を科学的エビデンスによって解明し、スポーツ観戦が人々にとって単なる娯楽でなく、人生において必要不可欠な人間的営みであることを証明したいと考えています。

最後に、スポーツマネジメントとはスポーツを生産し、それを必要としている人々にしっかりと届けることです。この学問を学ぶ学生たちが夢中になって勉強し、自己を成長させられるよう、法政大学らしい実践知教育に取り組んでいきたいと思います。

卒業式で撮影したゼミ生たちとの記念写真

法政大学スポーツ健康学部スポーツ健康学科

吉田 政幸 准教授(Yoshida Masayuki)

1979年新潟県生まれ。筑波大学体育専門学群、同大学院修士課程を卒業した後、米国フロリダ州立大学スポーツマネジメント学科博士課程へ留学し、2009年に博士号を取得。専門はスポーツマネジメント。びわこ成蹊スポーツ大学で専任講師、准教授を経て、2017年から法政大学スポーツ健康学部准教授に着任。Journal of Sport Management編集委員、日本陸上競技連盟・総務企画委員、ミズノスポーツ振興財団スポーツ学等研究助成・選考委員長などを務めている。

  • 所属・役職は、記事掲載時点の情報です。