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デジタルスマートシティの実現に向けて(デザイン工学部都市環境デザイン工学科 今井 龍一 准教授)

  • 2020年09月24日
お知らせ

2019年度に受賞・表彰を受けた教員の研究や受賞内容を紹介します。

今井龍一准教授は、「令和元年度 i-Construction大賞(優秀賞)」(国土交通省)を受賞しました。

  • 業績「点群ブラウザ 3D Point Studio による道路地物の管理効率化」

デジタル都市空間の胎動

デジタル社会に生きる私たちにとって地図は、スマートフォン、タブレットやパソコンで手軽に使える便利な生活必需品です。この地図を作成するには、土地や建物の高さ・深さ・長さ・広さ・距離を測って図示するための「測量」が行われています。凡そ15年の測量の技術動向を振り返ると、レーザを用いた測量方法が一般化した革新を遂げました。レーザ測量機器は、地面に設置して測量することに加えて、航空機・ドローンに搭載して空から測量したり、自動車に搭載して走行しながら測量したり、手押し車に搭載して歩行しながら測量したりなど、多様化しています。それこそ、自動運転車用の地図はレーザ測量により作成されています。

レーザ測量の成果は、一般的に“点群データ”と呼ばれています。レーザ測量機器は種類によりますが、1秒に数十万点ものレーザを道路や建物などの測量対象物に照射し、その反射の時間などの関係から1点1点の座標を算出します。このため、点群データは、都市空間上のx、y、zの座標やRGB値(色のデータ)などを保持した膨大な点の集合体です。

レーザ測量が普及したおかげで、様々な機関で点群データが日々蓄積されており、デジタル都市空間の構築が現実味を帯びてきています。自動運転、スマートシティ・スーパーシティ、都市OSやデジタルツインへの活用など・・・よりリアルに写像した仮想の都市空間で疑似体験したり、シミュレーションしたりして現実社会に反映していく取り組みの基盤として点群データの活用の期待が寄せられています。

いかにして点群データを賢く使うか?

点群データを表示・閲覧すると、私たちには測量された対象物の道路、建物や樹木などが認識できるのですが、コンピュータはそのような認識ができず、あくまで点として認識しています。このため、点群データは様々な期待を寄せられている一方で、用途に即して賢く使いこなすには、まだまだたくさんの技術的な課題が山積しています。具体例として、手軽に確認・編集するための環境がととのっていない、その逆の高度な解析ができる環境もととのっていない、1ファイル数十ギガバイトにもなる点群データをパソコンに保存できないなどです。したがって、点群データの利用技術の開発が喫緊の課題でした。

3D Point Studioの誕生!

私の活動する研究グループでは、15年近く点群データを扱う研究に取り組んでいます。この経験知を活かして、点群データを手軽に賢く利用できる環境を作ろう!を目論んで、3D Point Studioというソフトウェアを開発しました。3D Point Studioは、インターネットのブラウザ(Internet ExplorerやChromeなど)で利用できるオンラインモードと、各自のパソコンで利用できるローカルモードとで構成しています(図1参照)。

図1 3D Point Studioの構成

オンラインモードにて、インターネット上に公開されている点群データを概観し、必要に応じてユーザ環境に点群データをダウンロードします。そして、ローカルモードにて、ダウンロードした点群データを確認・分析します。これにより、手軽に必要な点群データを絞り込んで閲覧し、用途に応じてパソコンにダウンロードして解析する環境を実現しました。

現在、自動運転をはじめとした道路交通サービスや道路管理(日常点検や災害対応など)における点群データの用途開発が盛んですので、このニーズに応じた解析機能も搭載しています。具体例として、道路空間の点群データを車道、歩道、区画線、標識や照明などに分割し、コンピュータが道路構造を理解して解析できる機能を搭載しています。その中で今回は差分検出機能の活用例を紹介します。図2は、2時期の道路法面の点群データから、それぞれグリッド単位の法線ベクトルを生成し、その法線ベクトルの変化を比較することで、植生の有無、段差や剥離の可能性のある経年変化・劣化のある箇所を自動検出しています。

図2 点群データを用いた道路法面の変状検出

i-Construction大賞の受賞

国土交通省では、建設現場の生産性向上を図るi-Constructionに係る優れた取組を表彰し、ベストプラクティスとして広く紹介し、横展開することにより、i-Constructionに係る取組を推進することを目的に平成29年度にi-Construction大賞が創設されています。3D Point Studioは、建設分野の実務者の用途を満たした有効性、先進性および波及性が評価されて、大阪経済大学の中村健二先生、関西大学の田中成典先生・梅原喜政先生、摂南大学の塚田義典先生とi-Construction大賞(優秀賞)を共同受賞しました(図3参照)。

  • 図3 i-Construction大賞の授賞式(国土交通大臣との記念撮影)※真中:赤羽国土交通大臣、右のお二人:静岡県庁の方、左から今井、大阪経済大学の中村先生

私個人としては、出身大学の先輩・後輩と一緒に受賞できたことに感慨深く、そして近い将来、法政大学の教え子達と一緒に受賞したいと感じた次第です。

現在、私の活動する研究グループは、点群データを蓄積・活用していくVIRTUAL SHIZUOKAの施策を鋭意推進されている静岡県と共同研究に取り組んでおり、3D Point Studioを試行しています。今後もデジタルスマートシティを支える基盤や実社会に役立つ研究成果を発信できるように研鑽を重ねて参ります。

3D Point Studioは一般公開していますので、詳細は以下を是非ご覧ください。

法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科

今井 龍一 准教授(Imai Ryuichi)

民間企業・国家公務員・大学研究者の経験を活かして、組織横断的に多くの関係者と連携し、国土空間・都市活動の計測・分析に係わる理論的・実際的なこととを折り合わせた活動に従事。関西大学大学院修了。博士(工学)・東京大学。日本工営株式会社、国土交通省、東京都市大学を経て、法政大学に着任。平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰、国土交通省令和元年度i-Construction大賞、令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰等を受賞。

  • 所属・役職は、記事掲載時点の情報です。