お知らせ

会計学研究の課題-市場の効率性と分配の公正性(経営学部経営学科 大下 勇二 特任・任期付教授/受賞時 教授 )

  • 2020年09月21日
お知らせ

2019年度に受賞・表彰を受けた教員の研究や受賞内容を紹介します。

大下勇二教授は、「2018年度学会賞」(グローバル会計学会)、「令和元年度太田・黒澤賞」(日本会計研究学会)を受賞しました。

  • 著書『連単分離の会計システム―フランスにおける2つの会計標準化―』(法政大学出版局、2018年)

市場の効率面重視の会計学研究

今日、貧富の拡大が重大な社会経済問題になっていることは周知のとおりです。日本では、国民の多くが戦後の高度経済成長の恩恵を享受し、経済的な豊さを実感できる平等で民主的社会を実現してきましたが、その日本でも最近は貧困問題が重要な問題となってきました。貧富の拡大は今日の資本主義経済社会の基本的な問題であり、市場メカニズムに委ねれば解決できるというものではありません。

会計学研究の多くは、会計情報の面から、市場(資本市場)をフル回転させるために市場の効率性の妨げになっている諸問題に取り組んできました。市場における情報の非対称性に関する問題がこれであり、企業経営者と市場参加者(株主・投資者)との間にある情報格差-情報の非対称性-を解消すべく、会計研究者はどのような会計情報がこれに有効かを研究してきました。

分配面重視の会計学研究

筆者は、このような研究は社会における経済的格差の問題解決には有効でなく、市場の効率の面に加えて分配面からの会計学研究が必要であると考えています。筆者がフランスの研究に取り組んできた理由がここにあります。フランスの会計システムは、分配面を重視した点に特徴があると考えているからです。

各国の会計制度は、基本的に英国や米国などの英米型会計モデルとドイツやフランスなどのヨーロッパ大陸型会計モデルの2つに大きく分類できます。英米型会計モデルは、市場の効率性の面から、伝統的に資本市場(金融・証券市場)の市場参加者(株主・投資者)のニーズを第一義的に重視するところに大きな特徴があります。国際会計基準(IFRS)も同じ特徴を有しております。これに対して、ヨーロッパ大陸型会計モデルは、社会的な分配の公正性にも配慮し、伝統的に株主・投資者だけでなく従業員、債権者、国・地方自治体といった広く企業に関わる様々なステークホルダーを重視する点に特徴があります。かつては日本もヨーロッパ大陸型会計モデルに分類されておりました。

しかし、経済活動のグローバル化に伴い、国際会計基準(IFRS)が、証券監督者国際機構(IOSCO)の支持を得て、世界の主要な資本市場で共通に用いられる会計・財務報告の基準になりつつあります。各国、特にヨーロッパ大陸型会計モデル諸国の会計システムは、英米型会計モデルを基礎に証券市場の株主・投資者のニーズに向けられた国際会計基準との収斂(コンバージェンス)を通じて、その影響を大きく受けております。

分配面重視のフランスの会計システム-連単分離の会計システム-

このような問題意識の下で、筆者は、フランスが市場の効率面を重視した国際会計基準(IFRS)と国内の伝統的な分配重視の会計を同国の会計システムの中でいかに統合してきたかを歴史的、理論的に解明しました。今回の学会賞の受賞はこの点が評価されたようです。

フランスでは、個々の法人単位の個別会計次元の会計標準化は国内的な国家のニーズ(公平な課税と分配面で重要な付加価値などの経済的概念に基づくマクロ経済統計の整備)を強く反映する形で展開され、これに対して企業グループ単位の連結会計次元の会計標準化は、個別会計次元とは大きく異なり、資本市場における株主・投資者の情報ニーズを重視する形で展開されてきたこと、国際会計基準(IFRS)の影響が個別会計次元と連結会計次元で大きく異なること、そして国内的および国際的なニーズに二元的に応える過程で連単分離の会計システムが形成されてきたことを明らかにしました。端的に言えば、個別会計次元は伝統的な分配面重視の会計を、連結会計次元はIFRSの影響を受けて市場の効率面重視の会計を、連単分離の形で展開してきたのです。

経済的格差を解消し、効率的で平等な社会を実現するために、会計学研究がいかに貢献できるのか、今後もこのような問題意識の下で研究を継続していきたいと考えております。

著書『連単分離の会計システム-フランスにおける2つの会計標準化-』

法政大学経営学部経営学科

大下 勇二 特任・任期付教授/受賞時 教授 (Oshita Yuji)

1954年香川県生まれ。博士(経営学)。神戸商科大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。1983年法政大学経営学部助手,専任講師,助教授を経て1995年教授,2004年経営学部長。日本会計研究学会評議員,日本社会関連会計学会副会長,グローバル会計学会理事,国際会計研究学会元理事, 元中小企業診断士試験委員、元公認会計士試験委員。主な著書に『フランス財務報告制度の展開』(多賀出版)ほか。

  • 所属・役職は、記事掲載時点の情報です。