お知らせ

次世代のバーチャルリアリティを目指して(理工学部電気電子工学科 望月 典樹 教務助手)

  • 2020年09月17日
お知らせ

2019年度に受賞・表彰を受けた教員の研究や受賞内容を紹介します。

望月典樹教務助手は、「第22回サイバースペースと仮想都市研究会シンポジウム優秀発表賞」(日本バーチャルリアリティ学会)を受賞しました。

  • 論文「Motion-LessVR:リアル身体の運動を必要としない身体没入型VRインターフェースに関する基礎検討」

バーチャルリアリティとの出会い

ソードアート・オンライン(SAO)という作品をご存じでしょうか。バーチャル空間での死が本当の死となるゲームの世界に閉じ込められた主人公が、その中で起こる出来事を通して人間的に成長しつつ、ゲームをクリアまで導く、というストーリーから始まる物語です。ゲームをクリアし現実世界へ戻った後も、バーチャル世界で得られた経験や、そこで築いた友人関係を大切にし、その後普及した新たなバーチャル世界で巻き起こる問題に対して、様々な精神的な葛藤がありつつも必死に立ち向かっていく主人公の姿が描かれています。

私は、インターネットが普及し始めた幼少の頃から、パソコンを使ったテキストや音声によるチャット、オンラインゲームなどに興味を持ち、友人を巻き込んでバーチャルな情報を扱うサービスに積極的に触れてきました。そして、学部生の時に放映されたSAOという作品に出会い、バーチャルリアリティ(VR)という技術の存在を知りました。VRは今まで使ってきたコミュニケーションツールの究極形だと思い、魅了されました。

幸運にもロボット系の研究室でVRの研究をやらせてもらえることになり、その興味は一段と増しました。VRはコンピュータで生成した情報をあたかも現実であるかのように感じさせる技術で、人間が接する物事の本質を理解・抽出してシステムで再現するところから始まります。そこで、研究を進めていくうちに、そもそも「空間とは何か、人間とは何か」といったことや、「身体とは何か、動くとは何か」といった問いに対しても関心を抱くようになっていきました。

バーチャルリアリティの理想形と現在の方式

SAOの世界ではナーヴギアというヘルメット型の装置が登場します。これは、脳とコンピュータを接続して情報のやり取りを実現するBMI(ブレイン・マシン・インタフェース)と呼ばれる技術により、ベッドに横たわった状態や椅子に座った状態でバーチャル空間の中を自由に動き回ることを可能としています。ある意味これはVRの理想形と言えます。

現在、BMIは神経科学の分野を中心として活発に研究が行われています。これは特に、身体が不自由な方の支援やリハビリテーションなど、医療・福祉分野での活用が期待されているためです。しかしながら、高密度で複雑な中枢神経系である脳を対象としているため、現時点ではやり取りできる情報は限定的です。具体的には、「前に進む」といった意志を汲み取ることはできたとしても、「大体このくらいの歩幅で、少し前かがみな姿勢で、後ろの人に追い抜かれないよう早歩きをする」といった細かな意図を高精度に読み取ることまでは難しい状況です。

一方で、現在主流となっているVRのシステムは、コントローラを手で持った状態でゴーグルを被り、実際に身体を動かすことで、ゴーグルに表示される映像の視点やバーチャルの身体が一緒に動くといった方式となっています。そのため、バーチャルの身体に入力される動きは、現実の身体で実行可能なものに限定されます。これは、例えば日本のように人口密度が高く、生活空間が狭いような環境では、広大なバーチャル空間を現実と同じように動き回ることができないことを意味します。

現実の身体での運動を伴わないバーチャルリアリティ

SAOで描かれたVRと現在のVRで「本質的に」異なることは何なのか。修士課程を出た後、企業勤めをしつつも、このことについて考え続けました。その結果、「脳との信号のやり取りをするか否か」ではなく、「現実の身体での運動を必要とするか否か」という結論に至りました。そこで、身体を動かさずに、なおかつ現実に近い形でバーチャル空間を動き回る手段が存在するのかどうか、休日を返上して調べました。いくら検索してもBMI以外に関連する情報は出てきませんでした。

次はいかにして実現するかですが、これまでの経験をもとに「そもそも人間がどのようにして動いているのか」という観点から考えました。当然ですが、筋肉の収縮による力の発生にたどり着きました。そこで、コックピットのような装置に座り身体を固定した状態で、身体を動かそうとした際の力を計測して正しく運動の意図を解釈することができれば、現実の身体は動いていないにもかかわらず、バーチャルの身体を現実の身体と同じように動かすことができるのではないか?と考えました。これを、修士時代の恩師である中村壮亮先生に相談したのが、この研究の出発点です。

受賞までの経緯とこれから

最初は思うように研究は進みませんでした。しかし、2年半の歳月をかけて基盤となる手法を確立し、日本バーチャルリアリティ学会のサイバースペースと仮想都市研究会で発表した結果、今回の「サイバースペース研究賞」を受賞することができました。

今回の発表では、手法の概念提案を行い、身体の一部においてシステムの実装例と評価結果を報告しました。この研究は最終的に、現在私たちが生活している空間で生じるあらゆる物理的な制約からの解放へと繋がります。例えば、昨今社会問題となっている感染症の鎮圧手段にもなり得るものと考えています。引き続き、全身での実現に向けて、研究に邁進していく所存です。

身体を動かさずに運動意図を取得する装置の例

法政大学理工学部電気電子工学科

望月 典樹 教務助手(Mochizuki Noriki)

1990年山梨県生まれ。2013年中央大学理工学部電気電子情報通信工学科卒業。2015年同修士課程修了。ソフトバンク株式会社、株式会社ロビットを経て、2019年法政大学大学院理工学研究科電気電子工学専攻博士課程を中退。同年より法政大学理工学部電気電子工学科教務助手に着任。現在に至る。バーチャルリアリティ、人間拡張、ロボティクスに関する研究に従事。

  • 所属・役職は、記事掲載時点の情報です。