お知らせ

祭礼から描きだす地方都市社会のダイナミズム(社会学部社会学科 武田 俊輔 教授)

  • 2020年09月14日
お知らせ

2019年度に受賞・表彰を受けた教員の研究や受賞内容を紹介します。

武田俊輔教授は、下記の通り受賞しました。

  • 「第5回日本生活学会博士論文賞」(日本生活学会)
    論文「長浜曳山祭の都市社会学:伝統消費型都市の生活共同と社会的ネットワーク」
  • 「第13回地域社会学会賞<個人著書部門>」(地域社会学会)
    著書『コモンズとしての都市祭礼:長浜曳山祭の都市社会学』(新曜社、2019年)

研究内容

2020年度より社会学部にて勤務しております武田俊輔です。これまでに①祭礼や民俗芸能を手がかりとした、地方都市や農山漁村の社会構造に関する研究、②地域社会における放送局と住民との関係性、③戦前期日本における地域アイデンティティとナショナリズムといったテーマについて研究を行ってきました。

受賞作について

受賞作は、東京大学大学院人文社会系研究科に提出して学位を得た博士論文「長浜曳山祭の都市社会学:伝統消費型都市の生活共同と社会的ネットワーク」(2018年3月)、およびそれに基づく単著『コモンズとしての都市祭礼:長浜曳山祭の都市社会学』(新曜社、2019年)です。これらは滋賀県長浜市の長浜曳山祭という都市祭礼の、8年間のフィールドワークにもとづいて執筆しています。

受賞作『コモンズとしての都市祭礼:長浜曳山祭の都市社会学』

長浜は16世紀に羽柴(豊臣)秀吉が開いた城下町で、近世以降は北陸と京都をつなぐ要衝の商業都市として繁栄しました。そうして富を得た商人たちの財力を背景として各町内が「曳山」と呼ばれる豪華絢爛な山車をそれぞれ作り、その舞台の上で「狂言」と呼ばれる子ども歌舞伎を演じて各町内の経済力や文化的な力を競い合うのがこの祭りです。振付師や義太夫の語り手、三味線の弾き手を歌舞伎の稽古の時から雇い、衣装・かつらもプロ仕様ですから、各町内では莫大なお金がかかります。さらに祭りの準備は3年前から始まり、特に直前の3週間はほとんど仕事できず祭りにかかりきりになります。この祭礼の調査に当たっては、私自身も祭りの中心として狂言を担う「若衆」となって、祭礼の準備から当日までの多忙なプロセスを経験しています。そうしたフィールドワークとインタビュー、史資料の分析を通じて、祭りを通じて創りあげられている地方都市の社会構造を明らかにしています。

若衆として行事に参加する筆者(武田 俊輔 教授)

長浜に限らず、近世以来の歴史を持つ地方都市には先祖代々その町内に住まいと店を構えて繁栄し、祭りに財と労力を注ぎ込んできた家が、現在でも少なくありません。祭りはそうした家や町内がその名誉・威信を誇示する場です。それは例えば自分の家の男児が役者に選ばれるといったことを通して示されます。役者は長浜全体の注目の的であり、選ばれた家にとってたいへん晴れがましいことですが、一方で選ばれなかった家には悔しいことで、代々の貢献を無視されたと感じて筆頭の家にどなりこんだり、祭りを妨害することさえあります。しかしこうしたもめ事は単なる祭りの障害ではありません。むしろ住民にとってはそれが生み出すスリルこそ祭礼の興趣であり、祭りに人々がのめり込む理由でさえあります。本書ではこうしたもめ事も含めた町内の関係性を、自身の経験とインタビューを通じて生々しく描き出しています。

そして、戦後に郊外の大型ショッピングセンターとの競争によって地方都市の商店街が危機に瀕し少子高齢化が進む中での祭礼の継承と変容も本書で論じています。金銭面でも労力面でも大きな負担であるにもかかわらず、決して町内に生きる人々にとって欠かせない、名誉・威信と興趣を人々に与える祭りが継承されてきた理由や、祭礼を継承していくための工夫としてその観光資源や文化財といった価値を活用する中で、自営業者同士のネットワークがいかに広がっていったのかを分析しています。そのことは同時に、縮小段階にある地方都市がその伝統文化を活かしつついかに存続してきたかについて明らかにすることでもあります。

受賞についての感想

開発や災害といった中での伝統的な地域社会の崩壊と再編、住民の抵抗と社会運動を中心的な研究課題としてきた地域社会学の中では、伝統的な生活文化の継承を通じて地方都市のダイナミズムを論じた本書のテーマはかなり異色ともいえます。その意味で、本書に賞をお贈りいただいた地域社会学会の寛容さに驚きましたし、これからも自分なりにこの分野に貢献していきたいと考えます。また社会学の他に民俗学・文化人類学・建築学・生活科学といった多分野の研究者からなる日本生活学会よりの受賞は、この研究がさまざまな観点から高く評価していただいたことの表れとして、とても嬉しく思います。いずれも長浜の方々のお力添えあってのことであり、心から感謝しています。

今後の展望

長浜を対象とした研究を継続すると共に、今後は関東地方における伝統ある地方都市や都市祭礼に関しても調査をしていきます。また本書の研究と並行して限界集落における祭礼・民俗芸能の継承とそこでの移住者やアーティストの参画について研究を進めています。なおフィールドワークは前任校の学生たちと共に行っており、その成果は共編著『長浜曳山まつりの舞台裏』(サンライズ出版、2012年)として刊行されています。社会学部でも今後同様に、フィールドワークを通じて研究と教育の両面で貢献していくつもりです。

長浜曳山祭

法政大学社会学部社会学科

武田 俊輔 教授(Takeda Shunsuke)

1974年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。博士(社会学)。専門は文化社会学・地域社会学・都市社会学・メディア論。受賞作の他に著書として『長浜曳山祭の過去と現在:祭礼と芸能継承のダイナミズム』(共編著、おうみ学術出版会、2017年)、『歴史と向きあう社会学:資料・表象・経験』(共著、ミネルヴァ書房、2015年)、『民謡からみた世界音楽:うたの地脈を探る』(共著、ミネルヴァ書房、2012年)等。

  • 所属・役職は、記事掲載時点の情報です。