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【開催報告】58年館色ガラスブロック 再生デザインコンペティション2次審査・デザインスクールを開催しました(8月20日)

  • 2021年10月05日
お知らせ

【コンペティションの概要】

法政大学55/58年館は故・大江宏名誉教授の代表作であり、日本建築学会賞など主要各賞を受賞し、DOCOMOMOをはじめとする各学協会から保存再生が要望された20世紀を代表する近代建築でした。その重要な遺構であり、建築意匠の特徴の一つであった色ガラスブロックを市ヶ谷田町校舎に保存設置して公開することになりました。そのためのデザインコンペをデザイン工学部で実施し、1次審査を通過した案の2次審査を学内及びデザインスクールとして公開しました。

 

【開催日時】
2021年8月20日(金)14:00~18:00

【開催方法】
発表者と審査員は市ヶ谷田町校舎5Fマルチメディアホールで対面

視聴者はzoom参加

【参加者】
発表者:9組15名(うちオンライン発表者2組4名)

審査員:下吹越武人 教授(建築学科)、高見公雄 教授(都市環境デザイン工学科)、安積伸 教授(システムデザイン学科)、大江新 名誉教授
視聴者:40名程度(うちデザインスクール参加者24名)

 

【2次審査の内容】

審査員紹介の後、下吹越教授より、55/58年館の紹介がありました。

 

大江宏先生が設計された55/58年館は、2期に分かれて作られ、館名に竣工年がついていました。2019年に残念ながら解体となり、現在は新しい大内山校舎が稼働しています。大江新先生のお父様でいらっしゃる大江宏先生は、法政大学建築学科創設期の教授として、学科の礎を築いてくださいました。大江宏先生が常々提唱されていた「アーキテクトマインド」という言葉を、現在建築学科では学習・教育到達目標として掲げ、その教えを継承しています。大江先生の作品には、国立能楽堂(1983)などがありますが、55/58年館は初期の代表作です。外堀沿いに水平に伸びていた端正で繊細な障子のようなファサードと、細長いボリュームに直交して貫くように中心に据えられていた教員と学生のためのホールが大きな特徴です。戦後の大学校舎をどのように作っていくかという議論を経て、学生の居場所を中心に据えたことも高い評価を受け、多くの重要な賞を受賞しています。学生にとっては授業の時間よりも授業と授業の合間の時間がすごく大切だから、そのためにどのような居場所を作るかが重要だと、大江先生が設計の際におっしゃっていたと、新先生からお聞きしました。学校建築が誰のためにあるべきかということを、この校舎から教えていただいたと思います。色ガラスブロックがあった場所は事務室に改修されて、一般の人は見ることができなくなっていました。これを解体の時に一部保存し、保管していまして、今回のコンペは、色ガラスブロックをどのようにデザイン工学部の校舎で保存展示できるかということを、学生の皆さんと一緒に考えようという趣旨で開催しました。

 

続いて大江名誉教授より、趣旨説明がありました。

 

55•58年館の解体が決まった時、大幅な改修による保存再生ができないだろうかと、建築学科教員と院生有志とで再生案を作成し、またOBを中心とする「再生を望む会」は展示会や見学会によって学内外へのアピールを試みました。でも新たな建て直しを望む声が多く、現在の大内山校舎と富士見ゲート棟が完成しました。

 保存再生の歴史が長い西欧諸国にはもともと石造やレンガ造の建物が多く、解体よりも手を加えて更新することが容易で合理的という背景があります。一方、木造が主体だったわが国では壊して新しく作り替えることがごく自然に行われてきました。伝統的な伊勢神宮も20年ごとの建て替えで生まれ変わり、頻繁に大火を経験した江戸の町も何度もの建て替えによってよみがえりました。でも現代のコンクリート建築を木造のような感覚で作り替えることは容易でないし、手を加えながら使い続けて行くことがSDGs(持続可能な開発目標)にもかなった道です。

 また保存といっても、広島の原爆ドームのように実用的な価値ではなく、過去の出来事を後世へ伝える保存にも大きな意味があります。東日本大震災の時、陸に打ち揚げられた船や完全な姿のまま転倒してしまった建物の多くが撤去されてしまいましたが、嫌な過去を消し去るのではなく、そのまま残して将来へ伝えることも重要です。

 55•58年館については、なつかしい思い出だけでなく嫌な思い出を持つ人もいるでしょうが、その記憶の一端を伝えてくれる色ガラスブロックが田町校舎で生き続けるのは素晴らしいことです。その残し方のデザインについて、皆さんのアイディアを聞かせていただくことが楽しみです。

 

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                             大江新名誉教授による趣旨説明

 

1次審査を通過した10組のうち、辞退の1組(「生徒の学び、生活を支える新たな形としてのスタンディングデスク」、細井匠馬(システムデザイン専攻))を除く9組の発表と質疑応答が行われました。

 

1.「55/58 年館の間仕切り」

南場惠詞、青沼宗佑(建築学専攻)

 ガラスブロックを単純に保存展示するだけではなく、55/58年館の意匠・構成を踏襲したガラスブロックの展示方法にすることで、55/58年館を真に想起させる間仕切り兼掲示板です。現状の掲示機能の課題及び滞留しづらさを解決しつつ、デザイン工学部らしさの見えない田町校舎の一番最初に目に入る顔となる場所に設置される事で、デザイン工学部として相応しいエントランスとなることを考えました。

 

2.「Glass Square ベンチ/ハイテーブル」

合島祐里、浜田怜威(システムデザイン専攻)

 私たちの提案は、55・58年館で長年の間壁としての役割を果たしてきた色ガラスブロックに、全く新しい用途を与えるものです。1920年代のモダニズムの影響を受けて誕生した色ガラスブロックに、当時には存在しなかった「曲げガラス」の技術を融合させることによって構築されたベンチとハイテーブルは、並べて配置することで校舎内に新たなランドスケープを生み出します。これにより、気軽に立ち寄れる作業場や憩いの場が誕生することを期待します。

 

3.「たまちのウラに光を」

飯田夢、木嶋真子、佐野貴大、福士若葉(建築学科)

 今回はガラスブロックのアイデアコンペということで、光によってガラスブロック本来の美しさを取り戻すと共に、55、58年館の歴史を継承し、田町の裏となってしまっている場所にガラスブロックレイヤー、居場所レイヤー、歴史レイヤーの3つを設け、単管パイプによって提案をしました。

 

4.「ガラスブロックと憩う」

原 聖剛(欠席)、澤田怜志(欠席)、清水陽生(建築学科)

 ガラスブロックを用いたベンチを提案する。58年館で用いられていた形と同じようにブロックを積む形で並べることでかつての記憶とモダニズム文化の再認識を図る。アートという側面だけでなく、コンクリートを使った建築的・材料的な考え方を表し、実物としての認識をさせるデザインを考えた。現在あまり利用されていない田町校舎のB1Fカフェテリア横のテラスに設置することで、学部生が集い賑わい溢れる空間として利用されるのではないだろうか。

 

5.「多様化するガラスボード」

筒井彩加、豊嶋春乃(建築学科)

 法政大学58年館の色ガラスブロックの生まれた背景から、ガラスブロック4種と50mm幅のコンクリートのフレーム5つを用いて平面構成を組み直した提案をする。設置場所は一番学生の目に入る、2.3階の階段の踊り場とする。上の大きな窓から光が入り、時間帯や日により様々なガラスブロックの見え方ができる。保存展示のみではなく、フレームに資料等を入れたり手摺の代用となったり等、学生による多種多様な使われ方を目指す。

 

6.「主張の口−市谷田町校舎5階マルチメディアホールの演説台−」

福島将洋、西牧菜々子(建築学専攻)

 5558年間の色ガラスブロックの再生案としてマルチホールの演説台を提案する。今回のプロジェクトで一番大切だと思ったことは、5558年館を尊重する記念性だ。そのため、これまでのデザ工生活のなかで、記念性が発揮発揮される場面を考えた。それはマルチメディアホールで発信される、学生の作品プレゼンテーションの場面であり、また、世で活躍されているデザイナーのレクチャーの場面である。卒業研究の発表やデザインフォーラムなど、デザ工はデザイナーと学生のことばの交流の機会を大切にしている。そんなかけがえのない場面を記念性あふれる演説台で彩りたい。

 

7.「遺構を紡ぐ本棚」

大浦雅生(都市環境デザイン工学専攻)、白銀遼、菅原和史(都市環境デザイン工学科)

 58年館設計者の大江宏氏が当時抱いた「一元的建築観」から「多元的建築観」への思考の変化に着目し、利用者の少ない市ヶ谷田町校舎図書室を「本を読むための場所」から「本がある多様な活動を内包する場所」へと変化させるため、色ガラスブロックを用いた本棚を設置した。この本棚は、色ガラスブロック本来の平面構成を活かしつつ、高低差や奥行きを持つ構成としている。これにより、本棚が新たな空間を創り出し、図書室での多様な活動を促す。

 

8.「線・面の再構成 掲示コーナー」

翟家昊(建築学専攻)

 今回提案のテーマは線と面の再構築です。三色の色ガラスを使ったのは、モンドリアンの赤・青・黄の三原色のみを用いるという原則の影響を受けた結果と考えて、今回の案はモンドリアンの絵に基づいて平面から立体への転換を試みました。絵にはいくつかの白の分があって、それを空間として考えると、たくさんの可能性が現れてきて、そこにポスターかけたり、配布用の冊子などを置いたりすることとかができて、構成は常に変わってきます。

 

9.「歴史を引き継ぐ踊り場」

森谷光緒(都市環境デザイン工学科)、西純平、杉田祐里(都市環境デザイン工学専攻)

 “歴史を引き継ぐ踊り場”をキーワードに、58年館で用いられた「窓としての機能」と、モダニズム建築の象徴である「直線的なデザイン」を展示方法として引き継ぐ。これに新たな機能として、色ガラスブロックを覆うコンクリートの厚みを活かした「ものおきスペース」や、夜間用照明として食堂横の中庭に新たに照明を設置する。昼と夜とで異なる表情を持つ色ガラスに人々が触れることで、大江宏の建築の歴史を引き継ぐ踊り場となる。

 

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                               オンラインでのプレゼンテーション

 

続いて、公開審査が行われました。審査の最初に、審査員からの総評がありました。

 

安積:すごく楽しく拝見しました。良い作品が集まったと思います。多くの作品は実際に使うにはまだ問題がありますが、次のステージでは問題なくなると思います。面白い提案が多かったですが、ガラスブロックを使わなくてもできると感じたものもあり、もう少しガラスブロックに対するリスペクトがあってもよかったのではないか。わざわざガラスブロックを残すためのコンペなので、リスペクトが感じられるものに惹かれました。

高見:面白いものがたくさん見られました。やはり3学科の特徴が出ていて、学科ごとに扱う空間のスケールが異なっている。構造的に不安なものが多かったですが、選ばれた後にサポートされるという前提で、達成される空間の可能性を重視するつもりで選びたいと思います。多様な設置場所と多様なアイディアが出てきたことがよかった。

大江:たった4つのガラスブロックにこんなにたくさんの組み合わせがあるのかと、発想に感激しました。一方で、かなり重く、倒れやすいガラスブロックのモノとしての感覚がまだ掴めていないと感じました。どれが実現するとしても、補強しなくてはならない。また、ガラスブロックは向こうが明るくてこちらが暗い時に一番綺麗に見えます。その明るさの実感を持ってほしいと思います。

下吹越:魅力的な提案が多かったと思います。それぞれの作品のコンセプトがしっかりしていることが一番よかった。表面的なデザインにとらわれずに、本質的に色ガラスブロックをどう扱うべきかを追求していると思いました。デザインとしてのクオリティや構造的な問題はありますが、コンセプトがしっかりしているので、問題はクリアできるでしょう。

 

続いて、下吹越教授から発表者に対して、自分たち以外のどの案を評価するか質問がありました。その後、投票が行われました。投票の結果、上位5組(発表No2, 4, 6, 7, 9)が選ばれ、当初は3組の予定だった優秀賞を4組とすることが決まりました。上位5組の案の実現性について、意見が交わされました。

 

下吹越:4は設置場所が決まっていないため、不確定要素が多いことが心配。7は運用上実現可能か不安がある。コンセプトはしっかりしていて共感できるが、デザイン構成が弱いように思う。9に関しては、サッシの内側に設置するようにデザインを再検討することは可能か。

大江:2は予算内に収まるのか。6はガラスブロックの重さをキャスターで支えられるのか。

安積:2は設置場所の検討と安全性へのデザイン上の配慮が必要。運用上実現性が不確実という理由だけで7を落とすのはもったいないと思う。

 

この議論を受け、上位5組に関して2回目の投票が行われました。投票の結果、2組(2,9)に票が入り、どちらを最優秀とするかについて、議論が行われました。

 

安積:窓に嵌っていたものをまた窓に嵌めるというのは、当たり前でつまらない。未来を見ていない感じがする。このコンペでは、学生と一緒に新しい未来を考えていこうとしていたのではないか。7が一番気に入っているんですが、実現性の問題があるとすれば、2だと思いました。

下吹越:おっしゃる通りだと思います。ガラスブロックをこの校舎で一番綺麗に見せるのは9だと思いますが、デザインで未来を切り開こうとしているのに、今までと同じことをするというのは、確かにどうでしょうか。

大江:思い切り過去をそのまま残そう、ということもあり得るのでは。

安積:博物館を校舎の一部に作るのか、完全に転用するのか。どちらを取るかは、我々の姿勢によると思います。わざわざこのコンペをして新規アイデアを募集したのに、博物館を作るだけではつまらないという気持ちがあります。

高見:新奇性があって意欲的であるものも、素直で当たり前というのも、両方いいデザインですよね。

下吹越:市ヶ谷田町校舎も大江宏先生の設計で、58年館と同じ雰囲気がある。提案場所に入れるならいいと思いました。2は、いずれ片隅に片付けられてしまうような状況にならないか、気になります。ガラスブロックは、これから入ってくる学生にも、法政大学の歴史として触れてほしいと思います。階段ならば一番目に入りますし。

安積:同じような目的なら、むしろ5を押したいです。2はメンテナンスが大変かもしれません。9は盤石だが、何のためにこのコンペをやったのか、と思います。

大江:家具的なものは時間が経つとどこかにしまわれてしまうかもしれない。10年後に誰もが目にするためには、建築化しておいた方がよいと思います。

下吹越:家具のよいところは、普段の大学生活の中で直接触れられるところですね。人の活動の中での関係がより近いと思います。

安積:家具は、建築が壊されても残すことができます。しかし、レジェンドを語り伝えるということを考えると、9は素晴らしい提案と言わざるを得ないとは思います。

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                                  審査員によるディスカッション

 

こうした議論の結果、最優秀賞には「歴史を引き継ぐ踊り場」が選ばれ、「Glass Square ベンチ/ハイテーブル」、「ガラスブロックと憩う」、「主張の口−市谷田町校舎5階マルチメディアホールの演説台−」、「遺構を紡ぐ本棚」が優秀賞となりました。

審査員からは、総評と高校生へのメッセージがありました。

 

安積:悲喜交々だと思いますが、こういった提案に参加することに価値があると思います。他学科から学ぶことが多かったなと思います。SD学科が意識できていないところを他学科は提案していました。ノウハウの交換という意味で、すごくいい場所でした。学生の皆さんには、どんどんこういったコンペに参加してほしいです。高校生の皆さん、クリエーションは非常に厳しい世界ですが、楽しいこともたくさん待っています。自分たちの生活環境を考えるということは素晴らしい仕事だと思います。興味がある方は、ぜひ法政大学においでください。

高見:今日の議論を聞いていて分かったと思いますが、デザインの世界にはひとつの答えはない。みなで議論をして、あるものが決まり、選ばれなかったものは残る。参加者の皆さんはそういった経験をされたと思います。高校生の皆さん、ぜひここに来て参加しましょう。お誘い申し上げます。

大江:3学科合同の初めてのコンペで、各学科の特徴が出たと思います。建築学科は普段、大きな空間を作ることを学んでいますが、今回は対象も予算も小さかった。建築学科の提案は構築的でしたが、大きすぎたかな。これからの社会で、家具や動かせるものなどに建築が携わる機会が増えていくことを考えると、今回の機会を頭の片隅に、進めてもらえるとよいと思います。

下吹越:すごく楽しかったです。たった4つのガラスブロックが、こんなにたくさんのアイデアで提案されるとは想像していなかった。また、安積先生や高見先生との意見交換は刺激的で、学ぶことも多かったです。3学科が一つのテーマに沿ってアイデアを出していくという試みを、これからも続けてみたいと思います。高校生の皆さんは、驚かれたと思います。比べようもないものから一つを選び取るというのは大変なことですが、相手のことをリスペクトした上で意見をまとめていくというプロセスが、デザインの世界の基本にある。お互いの信頼関係の中で決めたことを了解していくという、すごく楽しくて刺激的な場所です。ぜひデザイン工学部に興味がある方はお越しください。楽しい生活が待っていると思います。

 

最後に表彰式が行われ、最優秀賞1組には賞状と副賞(図書券3万円)、優秀賞4組には賞状と副賞(図書券1万円)が授与されました。

また「きおくプロジェクト」チームからは、最優秀案へお祝い品が贈呈されました。

5組の皆さん、おめでとうございます!

惜しくも受賞を逃した4組の皆さんの健闘も讃えたいと思います。

 

最優秀賞に選ばれた案については、実施に向けて協議が行われています。

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                                    最優秀チームの提案