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デザインとエンジニアリングを融合したメカニズムを探究(デザイン工学部システムデザイン学科 山田 泰之 准教授)

  • 2021年08月26日
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デザイン工学部システムデザイン学科
山田 泰之 准教授


あらゆるメカニズムの「形・構造・動き」の関係性を探求し、デザインとエンジニアリングの融合を図っている山田泰之准教授。
さまざまな課題を解決するモノづくりにまい進しています。

メカニズムはSDGsの古くて新しいソリューション

専門はメカニズム(機構)、デザインエンジニアリングです。古くからある機械工学の一分野であるメカニズムを、ユーザーの視点に立ったデザインとエンジニアリングの双方から検討して、コンピューターや電子機器、電力などのエネルギーの消費に依存し過ぎることのない、シンプルな課題解決方法として提案することを目指しています。

このようなメカニズムでの課題解決方法は、電子デバイスやアクチュエーターを多用したソリューションよりも、構造を簡略化して耐久性も高く、高いリサイクル性や省エネルギーにつながることから、SDGs(持続可能な開発目標)の課題解決の一助としても貢献できる方法だと考えています。

人間中心のモノづくりは、古くは「人間工学」、今では「デザイン工学」「デザイン思考」「ヒューマンセンタードデザイン」など、さまざまな言葉で語られています。世界的には関心の高まりがうかがえる分野ですが、日本での取り組みはまだ緩やかです。社会問題の複雑多様化した昨今、さらに需要が高まるのはこれからだと推測しているので、自身もさらに成長しつつ、後進も育てていきます。

研究開発成果を世に送り出す「社会実装」を実践

今後の大学研究・教育には、研究成果を実際に社会で使われるものにする、いわゆる「社会実装」をかなえること、およびそれができる人材を教育することも必要と考えています。

それを痛感したのは「YaCHAIKA」というハイヒールを開発したときでした。「疲れにくいハイヒール」と注目され、国際的なデザインコンテストの「ジェームズダイソンアワード」を受賞 して、パリコレクションにも採用されるほどの高評価は得たのですが、市販には至りませんでした。商品を販売した経験がなく、半ば他人任せだったからです。その経験から、研究開発成果をより確実に社会実装するために、ベンチャー企業を設立し、会社経営や商品を販売することを実践しつつ学ぶことにしました。

デザイン工学部には、デザイン事務所や建築事務所を兼業している先生が少なくありません。実務を経験することが、大学での最先端の研究の社会実装につながり、さらには、より実践的な教育にも生かせるからでしょう。

メカニズムでの課題解決方法は、今後さまざまな分野でニーズが増すと確信しています。その一例が、上腕の作業負担を軽減するアシスト装置TasKi(補助を目的とした道具)です。TasKiは、上腕を支えて負担を軽減することで、果樹園での農作業や保守点検作業など、腕を上げ続ける必要のある作業をアシストする装置です。すでに社会実装も始まっています。

  • 腕の重さを感じさせない自重補償機構で上腕を支えるアシスト装置「TasKi」。ばねを使ったシンプルな構造なので、屋外でも雨を気にせずに長時間使える

現在着目しているのが「子ども乗せ自転車」です。現状では、大人用の自転車にチャイルドシートを取り付けただけの構造になっているので、子どもにとっての安全性や乗りやすさが必ずしも優先されているとは言えません。運転する大人も、同乗する子どもも双方が安全で快適な新しい自転車のメカニズムを検討したいです。

他にも、工具がなくても簡単に組み立てられる家具など、メカニズムの工夫で課題解決を図るようなモノづくりを手掛けていきたいと考えています。

恩師から受けた教育の恩は学生に還元、潜在能力の開花を後押し

  • 用途に応じて配置を自由に改良できるようにデザインした研究室。学生でも簡単に扱えるように、部屋内の家具は、全て1つの工具だけで組み替え可能

現代社会の複雑多様な課題の解決方法は、それに比例して複雑多様になる傾向にあります。そのような解決方法を考案して実現するには、多分野にまたがる知見と統合力が必要になります。

幸いなことに、機械工学の新たな領域に携わるたびに、第一線で活躍する先生方から教えを受ける機会に恵まれました。学生フォーミュラに夢中になっていた学部生の頃には自動車工学を基礎から教わり、大学院では人間工学、ロボット工学やシステム設計について深く学びました。研究職を志すようになってからはソフトロボティクスや生物規範デザインの研究にも携わっています。そうして得てきた技術や知見は、自身の研究につながっています。

その恩は、教育者として学生の育成に注力することで、返していきたいと思っています。学生が持っている潜在能力を引き出し、育てて、社会に送り出す後押しをしながら「実践知」を広めていく。それが、教員としての私の役割だと思っています。

デザイン工学部システムデザイン学科の学生は、自主性が高く、自分のやりたいことに前向きに取り組む姿勢が見えるので、先行きが楽しみです。状況の変化に対応しながら、新しいものを作り出す「機動的柔軟性」を身に付けてほしいと願っています。

学生時代に夢中になっていた学生フォーミュラで、設計製作したレースカーを走らせる前に整備点検している

(初出:広報誌『法政』2021年8・9月号)

デザイン工学部システムデザイン学科

山田 泰之 准教授(Yamada Yasuyuki)

1986年三重県生まれ。慶應義塾大学理工学部機械工学科卒業、同大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻前期博士課程修了、同研究科開放環境科学専攻後期博士課程修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員、日産自動車、中央大学研究開発機構助教、中央大学理工学部精密機械工学科助教、インペリアルカレッジロンドンVisiting Prof.、東京電機大学システムデザイン工学部助教などを経て、2020年にデザイン工学部准教授に着任。現在に至る。2017年中央大学中村太郎教授とともに株式会社ソラリスを設立。取締役CTO(最高技術責任者)を務める。