お知らせ

法政大学島野教授と滋賀県琵琶湖環境科学研究センターの一瀬研究員が中心となる研究グループが、琵琶湖の絶滅危惧プランクトン種ビワコツボカムリ(原生生物:有殻アメーバ)が103年を経て再記載

  • 2021年08月10日
お知らせ

~琵琶湖の固有種プランクトンで、絶滅危惧種であるビワコツボカムリに関して、国際動物命名規約に基づいてネオタイプが指定された。また、和名も記載当時のビワコツボカムリが改めて提唱された~

【発表のポイント】
1.琵琶湖の固有種である有殻アメーバのビワコツボカムリDifflugia biwae Kawamura, 1918は、1981年以降、生きた個体が見つかっていない絶滅危惧種であり、このままにしておくと本種の標本が失われる可能性があった。本種は1918年に川村多実二博士によって簡単なスケッチによって記載されたが、命名規約上必要なタイプ標本を欠くことから、今回、新たにネオタイプ指定を行うと共に、当時行われていなかった電子顕微鏡観察や統計的解析を加え、再記載を行った。
2.本種の和名については、現在「ビワコツボカムリ」と「ビワツボカムリ」の両方が使われている。今回、初記載時に用いられた「ビワコツボカムリ」を和名として使う事を改めて提案した。
3.本種は中国の湖沼からも報告例があり、固有種でない可能性も示唆されていたが、形態計測に基づいた統計的解析により精査し、別種に相当する違いをみいだした。さらに研究を続け、本種が真の琵琶湖固有種かどうかについて検討を続けたい。

(1)世界有数の古代湖である琵琶湖に生息するプランクトンの固有種(国内は琵琶湖のみに生息)である原生動物のアメボゾア(ツブネリア綱、ナベカムリ目、ナガツボカムリ科)の有殻アメーバ類に属すビワコツボカムリDifflugia biwae Kawamura, 1918は、国際動物命名規約に基づき、再記載がされると共に「学名の適用を決定することができる客観的な参照基準(担名タイプ)」としての標本(ネオタイプ)が指定され国立科学博物館に収蔵されました。平行して証拠標本も同博物館及び琵琶湖博物館に収蔵されました。

(2)1981年10月に生きたビワコツボカムリ個体が見つかったのを最後に、それ以降、生きたアメーバはみつかっていないため、本種の標本が失われていく可能性があります。標本が正式に指定され博物館登録されたことにより、本種か違う種かを、客観的に標本と比較して判断できるようになった価値は大きく、本種の標本が永久に博物館に保存される事が保証されました。

(3)日本の淡水生物学の基礎をつくった川村多実二博士が、1918年にタイプ標本を指定しないまま本種に学名をつけてから、長年続いた動物分類学的に不安定な状態に、103年を経て終止符を打ちました。

(4)川村多実二博士が本種に学名をつけたときに(新種記載したときに)、同時に「ビワコツボカムリ」という和名を付けましたが、その後、様々な図鑑などに掲載される際に、転記ミスで「コ」と言う文字が抜けて「ビワツボカムリ」という和名に変わってしまっていました。このため本論文で和名をオリジナルに戻すことを提案しました。

(5)中国のキアンダオ湖(2001)、ポヤン湖(2003)、そしてムーラン湖(2005)から本種の記録がありました。今回の研究では、有殻アメーバの同定形質である殻の形態について、琵琶湖とムーラン湖のビワコツボカムリについて、形態計測に基づいた統計的解析により精査し、別種に相当する違いをみいだしました。

本種の特徴:有殻アメーバとしては、殻の長さが0.24 mm〜0.38 mmで大きく、細長い一本の角を持ち、開口部は漏斗状に広がり、その縁は多少波打つという特徴的な殻を持ちます。

ビワコツボカムリはその特徴的な形態から日本全国の淡水湖沼の調査からも琵琶湖以外ではみつからず、琵琶湖の固有種と考えられています。

現在まで続く、滋賀県水産試験場と旧滋賀県立衛生環境センター環境部門(現:滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)の106年にわたる定期的調査では、1960年代の8月には、本種が琵琶湖のプランクトンの優占種となっていたものの、琵琶湖の底質環境の変化などにより、1970年代から次第に個体数が減少し、1981年10月9日に生きた個体が見つかったのを最後に、それ以降、生きた個体は見つからなくなりました。琵琶湖の湖底には、今でもこのアメーバの殻が埋没(2007年8月調査)しており、殻のみであれば見つかります。このため、2005年から滋賀県版のレッドデータブックに、絶滅危惧種として掲載されました。

ビワコツボカムリ(撮影:琵琶湖環境科学研究センター、一瀬諭)

琵琶湖を代表するプランクトンである固有種ビワコツボカムリの標本がネオタイプ指定され、同時に証拠標本が博物館に収蔵されたことにより、本種なのか違う種かを客観的に、標本と比較して判断できるようになった価値は大きく、本種の標本が永久に博物館に保存される事が保証されました。

今後、博物館に収蔵された標本等との比較に基づいて、中国でみつかった「ビワコツボカムリとされている種」が、本当に本種か、あるいは別種なのか(本種が真の琵琶湖固有種かどうか)等、さらに詳細に研究が行われる予定です。

■ 発表雑誌: Species Diversity
■ 論文タイトル:Neotypification of Difflugia biwae Kawamura, 1918 (Amoebozoa: Tubulinea: Arcellinida) from the Lake Biwa, Japan
■ 著者:Satoshi Ichise, Yositaka Sakamaki, and Satoshi D. Shimano(琵琶湖環境科学研究センター 一瀬 諭 研究員、鹿児島大学 坂巻祥孝准教授、法政大学 島野智之教授)
■ 2021年8月6日 オンライン公開 https://doi.org/10.12782/specdiv.26.171


【本件に関するお問合せ】
 <原生生物種に関すること>
 法政大学自然科学センター・国際文化学部 教授 島野 智之
 E-Mail: sim@hosei.ac.jp

 <琵琶湖環境とプランクトンについて>
 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター 環境監視部門 生物圏係 藤原 直樹、一瀬 諭
 E-Mail: de51400@pref.shiga.lg.jp