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卒業生インタビュー:Image Engine Design Inc. 平井 豊和さん

  • 2021年07月13日
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プロフィール

平井 豊和(Hirai Toyokazu)さん

1988年東京都生まれ。2007年情報科学部ディジタルメディア学科に入学。2011年に卒業後、中国江蘇省無錫市の企業で立体映像の技術者を務める。帰国後、株式会社トランジスタ・スタジオでCGデザイナーとして経験を積む。2019年7月からMill Film、2021年1月からはImage Engine Design Inc.に勤務。

海外で多くのことを経験し将来の仕事や人生に生かしたい

30歳でオーストラリアに渡り、現在はカナダで映画の3DCG制作に携わっている平井豊和さん。
自分の技量や機が熟せば、「やりたいことを仕事にするのは悪いことじゃない」と考えるようになったと言います。

アート要素とプログラミングが融合したVFX制作

2019年からオーストラリアのアデレードで、2021年1月からはカナダのバンクーバーで主に映画の3DCGの制作に携わっています。

専門とするのは、炎や煙、水、洪水や竜巻などの効果(VFX)で、例えば実写映画『キャッツ』では煙を、アクション映画『モータルコンバット』では稲妻などを担当しました。効果が複雑になると、コンピューターの計算に1、2日かかる場合もあり、ほんの数秒のショットの制作に数カ月かけることもあります。

映像のインパクトやリアリティを高めるためには、作り手の個性よりも、現象を忠実に再現することが求められます。それでもVFXには、アート要素とプログラミング要素の両方があって、その絶妙なさじ加減が腕の見せ所であり、魅力でもあります。制作において、私が最終的な見栄え以上にこだわっているのが、そこに至るプロセスです。効率のよいアプローチで、理路整然とした「きれいな」プログラムを作ることができ、それが同業者から評価された時の喜びはひとしおです。

オーストラリア時代、会社のバルコニーでエフェクトチームの同僚と(前列右端が平井さん)。写真提供:『CGWORLD』。

オーストラリア時代、会社のバルコニーでエフェクトチームの同僚と(前列右端が平井さん)。写真提供:『CGWORLD』。

大学のデジタルコンテストがCGへ向かう原点に

小学生の頃からパソコンに慣れ親しんでいて、「CG制作の授業もあるんだ」という軽い気持ちで法政の情報科学部に入学しました。ところが、そのCGの最初の授業でよりによって一番初めの操作を間違え、ついていけなくなってしまって(笑)。細々と独学を続け、2年次のデジタルコンテンツ・コンテストで優秀賞に選ばれて、自分の作品が人に評価された時のうれしさを知りました。今でも、それが私のモチベーションとなっています。

吉田健治教授のゼミでは、専用眼鏡をかけなくても立体に見える映像の研究に携わり、卒業後は立体映像のエンジニアとして中国の会社に勤務しました。たまたま海外勤務となりましたが、吉田先生の紹介でしたし、通訳も付いていたので、特に不安は感じませんでした。

2008年度第4回デジタル・コンテストの静止画部門で優秀賞に選ばれた平井さんの作品『心が貪る様に時を隠して』。

2008年度第4回デジタル・コンテストの静止画部門で優秀賞に選ばれた平井さんの作品『心が貪る様に時を隠して』。

30歳を機に海外就職に再びチャレンジ

中国の会社の解散に伴い、1年半ほどで帰国。その間に自分の制作スタイルにぴったり合うCG制作ソフト「HOUDINI」に出合って、CG制作に携わってみたいという思いが強くなり、そのソフトのスペシャリストがいる会社に入社しました。

どんどん作品を作った方がいいというアドバイスを受け、腕を磨いているうちに、そのソフトが日本でも普及し始めて、制作と並行して専門学校の講師や書籍の執筆を手掛ける機会にも恵まれました。

CG制作で生活していける状況にはなりましたが、周囲から「30代になると新しいことに挑みにくくなる」と聞いていたこともあって、30歳を目前にして「このままでいいのだろうか」という漠然とした不安を抱くように。そんな時、海外でVFX制作に携わる方々の話を聞く機会があったんです。以前から、CGの質が高い海外の制作現場を見てみたい、英語を話せるようになりたいという思いがあったので、「チャレンジするなら今しかない」と決心し、英会話のオンライン講座で準備をして、海外企業の面接に臨みました。

やりたいことを仕事に それも一つの選択肢

海外で働いて感じたのは、制作予算が日本とは桁違いなだけに、オーストラリアにもカナダにも世界中から優秀な人材が集まっていることです。20代でも腕のいいスタッフが多いので、周囲に見劣りしないレベルを維持しなければというプレッシャーはあります。

せっかく日本を飛び出したからには、いろいろな経験をして、仕事と英会話のレベルアップを図り、海外生活も楽しみたいと思います。機会があれば、CGのクオリティーが驚くほど高いディズニー映画が、どのように作られているかを目にできたら何よりです。

学生時代の私は、「音楽でメシ食っていきたい」というバンド仲間の言葉を「世の中そんなに甘くないだろ」と受け流し、「留学して人生観が変わった」と聞けば、そんな短い期間で何が分かると斜に構えていました。でも、思い切って海外就職にチャレンジしてみた今は、こう思います。「やりたいことを仕事にするのは、悪いことじゃないかもしれない」と。もちろん、それで十分な収入が得られるのか、自分の技量が通用するのかをよく調べ、考えることは必要でしょう。20代の学生、社会人の皆さんには、あまりステレオタイプに固執せず、自分の可能性を広げていってほしいと思います。

 

(初出:広報誌『法政』2021年5月号)