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【法政の研究ブランド vol.1】スポーツ・メディアのプラットフォーム研究プロジェクト ―「法政スポーツ」を学内外に発信し、「混ざり合う場」を創出―(スポーツ健康学部スポーツ健康学科 泉 重樹 教授 社会学部メディア社会学科 諸上 茂光 准教授)

  • 2020年12月16日
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「法政の研究ブランド」シリーズ

法政大学では、これからの社会・世界のフロントランナーたる、魅力的で刺激的な研究が日々生み出されています。
本シリーズは、そんな法政ブランドの研究ストーリーを、記事や動画でお伝えしていきます。

「法政スポーツ」をキャンパス活性化の起爆剤に

法政大学では多摩キャンパスの将来について考える「多摩将来計画」のなかで、スポーツ分野の研究・教育とメディア研究・教育の連携による、「スポーツ・次世代メディア研究プラットフォーム」を構築し、その担い手となる人材の輩出をめざす研究プロジェクトが推進されています。これはどのようなプロジェクトなのでしょうか。

kenkyu1_tama_izumimorokami04.jpg泉 法政大学は、競技スポーツが盛んな大学の一つに数えられていますが、本学の特色のひとつでもある「法政スポーツ」を学内外にどのように発信すべきかという問題提起から本プロジェクトはスタートしました。東京オリンピック・パラリンピックを控え、スポーツの機運も高まるなか、スポーツを起爆剤として、多摩キャンパスを活性化できるのではないかと考えたからです。
 私はスポーツ健康学部スポーツ健康学科に所属していますが、そこでは競技スポーツにおけるトップアスリートだけではなく、一般の人たちにスポーツをどのように広めていくかを意識しています。そのため競技スポーツとしての「法政スポーツ」だけでなく、スポーツをする・みる・ささえる・教える・研究するなど、幅広い観点から「法政スポーツ」を捉えており、地域と法政大学をつなぐツールとしてスポーツを活用できるだろうという思いがあります。
 私の研究分野は、「アスレティックトレーニング(スポーツ医学)」「スポーツ科学」がメインで、アスリートのトレーニング法や、一般の方の安全なエクササイズ法といったノウハウやスキルは持ち合わせていますが、それらを広めていくための知見やメディアに対する理解についてはカバーしていません。そこで、本日ご一緒させていただいている社会学部メディア社会学科の諸上先生とタッグを組み、「法政スポーツ」を発信するためのメディアの活用方法について議論を重ねています。

諸上 私はマーケティングや消費者行動の研究を行うなかで、メディアは転換期にあると感じています。たとえばマスメディアの力が相対的に弱まりつつあるなかで、ソーシャルメディアなど新たなメディアが存在感を示すようになってきました。法政大学はこれまで「自主マスコミ講座」を設けるなどして、マスメディアへ多くの人材を輩出してきましたが、メディアの変化に伴って、求められる人材も変化しています。そこで、法政大学らしい新たな人材育成について学内の様々な方々と議論を重ねるなかで、カリキュラム改革などにも取り組んできました。
 そんな折に、泉先生から大学のブランディングにおけるスポーツの活用についての提案を伺いました。そこで、マスメディアに取り上げられるメジャーな競技・種目だけがスポーツではないというお話を伺い、なかなかマスメディアに中継されないスポーツにとって、ソーシャルメディアが重要な役割を担うのではないかと考えたのです。こうした仮説をきちんと検証している例が日本にはまだないため、大学という場所できちんと検証したら面白いし、大学の在り方も、大学スポーツの在り方も、地域のなかにおける大学の在り方も大きく変わると考えて、本プロジェクトに携わるようになりました。

 本プロジェクトは、多摩キャンパスの地の利を生かした研究ということで、地域との融合、地域との密着というキーワードを加えた、スポーツの発信を目指しています。そこにソーシャルメディアをどのように介在させていくか、複数の分野の知見を組み合わせた研究プロジェクトです。
 

多方面から自らの研究を見ることで学際的な研究に

スポーツを大学のブランディングに活用する例はしばしば見られますが、本プロジェクトにはどのような特徴がありますか?

kenkyu1_tama_izumimorokami05.jpg諸上 まず本プロジェクトは私たち2名だけでなく、スポーツ健康学部、社会学部のほか、経済学部、現代福祉学部といった多摩キャンパスに所属する学部の様々な先生が参加し、多様なアイデアが出されています。そうした対話のなかで私たちがヒントを得たのは、「これからの法政大学は、従来のマスメディアが行ってきたようにチャンピオンスポーツを追いかけるのではなく、パラスポーツにスポットを当ててはどうか」という意見でした。確かにパラスポーツに限らず高齢者スポーツなどは従来のマスメディアの守備範囲ではないかもしれません。多摩キャンパスには、スポーツ、福祉、メディア、地域など様々な分野の研究がそろっているわけなので、こうした視点は法政大学らしいと考えています。

 学際的という言葉がありますが、多摩キャンパスはまさに学際的なキャンパスだと言えます。例えば私自身はアスレチックトレーナーの立場から、ケガをしないような体づくりをしたり、ケガの応急処理の教育をしてきました。私の他にもスポーツ心理学、栄養学、フィジカルトレーニング、戦術分析など、競技スポーツを「行う」「支える」という教育が中心になっており、スポーツをどう見せていくか、伝えるかということは考えていませんでした。私たち教員はスペシャルなことをやっているにもかかわらず、それをあまりスペシャルだと意識していないので、自分たちがやっていることが外からどんな風に見えるのか、実は面白いのではないかといったことに、なかなか気づくことができません。そのためスポーツを魅力的なコンテンツにするために、どう見せていくべきかというメディア側の視点に触れて、ディスカッションを続ける意義を感じています。このように多方面から自らの研究を見るからこそ、学際的な研究となり、新たな研究テーマが生まれるという意味でも、多摩キャンパス一丸となって取り組むことに意義を感じています。
 

法政スポーツを学生が発信し、地域や受験生にファンを増やす

「法政スポーツ」のメディア発信について、具体的なイメージはどのようなものになりそうでしょうか。

諸上 まずソーシャルメディアの特徴として、発信者も受信者も消費者であるという点が挙げられます。これを法政スポーツの発信に活かし、選手やスポーツの魅力を学生目線で発信することで、新たな魅力を引き出せるのではないかと考えています。例えば「法政の学生アスリートが頑張っているよ」と学生が発信することで、キャンパス内の学生への周知はもちろん、地域の人もキャンパスに足を運んで応援してくれる、それを見込んで企業の方も様々な形で取り組みに参画してくれる。そんな図式を私たちは描いています。

 諸上先生がおっしゃるように、学生のスポーツを学生が伝える。そこに地域の人たちも巻き込んでいくという過程において、大学をどのように地域に開いていくのかということを考える必要があります。そのために多摩キャンパスの体育施設である体育館をひとつの拠点にできないかと考えています。体育館にスタジオを併設し、そこから常にスポーツの発信が行えるような体制をつくるのです。ソーシャルメディアであれば、学生一人一人がカメラマンであり、発信者になりうるわけなので、編集スタジオのようなものがあれば、発信には事足りてしまいます。
 また、地域の人たちも体育館に集い、実際に運動教室に参加したり、食堂をカフェのラウンジのように改装して、そこで学生が作ったコンテンツを流すことで、「法政の学生は頑張っているな」と地域の人が共感できるような場をつくっていけるのではないかと考えています。

まさに、プロジェクトのコンセプトにもなっている「混ざり合う場」の創出ですね。

諸上 地域の方と学生もそうですが、縦割りになっている学部同士がなかなか混ざり合うことができなかったので、こうしたプロジェクトを一緒にやることで、今後は混ざり合うようにできればいいと思います。また、いま多様性が重視されていますが、様々な特徴を持った人同士がここで混ざり合い、将来的にはオリンピックとパラリンピックみたいな区別すらも無くなるのではないかと思っています。このように様々なものが混ざり合うのではないかという意見が、議論するなかで出てきました。

 実は体育会の学生と、そうではない学生も今後は混ざり合うといいと思っています。隣に座っていた体育会学生の活躍を、メディアを通じて学内で目の当たりにできるようになれば、「あの彼、映像に写っているけど、昨日隣に座っていたな」など、身近な存在に感じられ、見方も変わってくるのではないかと思います。こうした壁を取り払うためにもこのプロジェクトは機能するのではないでしょうか。

諸上 私も今回のプロジェクトに携わって知ったのですが、多摩キャンパスの体育施設は本当に充実しています。こうした施設をジムとして地域の人たちに開放し、体育会の学生がアルバイトでトレーナーの役割を担うことで、「いつも教えてくれる学生さん、実はすごい選手だったんだなあ」と知るきっかけになって、色んな形で応援してくれるようになるんじゃないでしょうか。
 

ワクワクやドキドキを感じられるのが研究の醍醐味

スポーツとメディアというそれぞれの専門分野が「混ざり合う」ことで何か新たな発見や相乗効果などはありましたか。

泉 議論をしている中で、多摩キャンパスで子どもたちの運動会をやって発信してはどうかというアイデアが出て、さらには、そのまま地域の小学校に出張して運動会をプロデュースしようという話にまでつながりました。私たちの専門領域だけで考えていたら、そもそもこんな発想には至りません。メディアの先生方とディスカッションができるからこそ、なるほどそんなことまでできるんだ、という気付きを与えてもらうことができます。

諸上 泉先生がプロポーザルの中で仰っていたことで特に印象的だったのが、多摩キャンパスの中で、試合観戦に来た方々に向けて「ホットドックも売ろう」と提案されたことです。私自身アメリカに住んでいた時期があり、そういえば、日曜日の公園のちょっとしたオープンステージで、地域の人が演奏の発表会をするのを芝生から眺めながら親子連れがホットドックなんかを食べていたりして、まさに「混ざり合う場」だったことを思い出しました。楽しくなければ地域の人は集まりません。
このワーキンググループ自体も、コアメンバー以外にもたくさん参加者がいて、毎回時間をオーバーするほど活発に議論ができてとても楽しいんです。

泉 研究プロジェクトの醍醐味ですよね。やはりドキドキ感やワクワク感を我々が持っているから、つい夢を語ってしまいます。でも、夢がないと研究はできませんよね。

諸上 本プロジェクトを通して、学生の皆さんが授業や課外活動やその他のプロジェクトの一環で、コンテンツをつくることで混ざり合い、新たな流れが生まれることも期待しています。私自身、泉先生とご一緒させていただきコンテンツ動画を作成する過程で、日本でもトップクラスの選手と関わることができました。そんなことは、プロジェクト以前には想像もしていませんでした。こんな驚きを学生の皆さんも体験すれば、法政スポーツに関心を持ち、もっと応援するようになるのではないでしょうか。

諸上 まずは自分たちが、法政スポーツの魅力を理解することが大切ですよね。自分たちが大事にして、応援して、そこに地域の人たちを巻き込んで、一緒にのぼりを立てて応援してくれるようになれば、一緒に盛り上げて応援したいと考える受験生も増えると思います。

泉 このキャンパスには、コンテンツが豊富にあると思います。こうしたコンテンツをメディアの諸上先生のチームとコラボして一緒に発信をする。それを見た人たちが面白いと感じてどんどん広がっていく。そんな混ざり合う場を作らなければなりませんね。

スポーツ健康学部スポーツ健康学科 泉 重樹 教授

2017年より法政大学スポーツ健康学部およびスポーツ健康学研究科教授。博士(スポーツ医学)、鍼灸マッサージ師、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(AT)。スポーツ外傷・障害予防に関する研究、特に体幹(腰部)機能評価に取り組んでいる。同時に各種スポーツ現場においてATとして活動を行っている。

社会学部メディア社会学科 諸上 茂光 准教授

2011年より法政大学社会学部メディア社会学科准教授。博士(工学)。専門は消費者心理学及び脳認知科学。脳科学の知見から、商品や地域のブランディングにおけるコンテクストの効果について理論的な研究を進める一方で、近年はSNS上の消費者間コミュニケーションのモデル化を試みている。日本経営システム学会評議員および地域デザイン学会特命担当理事。