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株式会社ChillStack 代表取締役 伊東 道明さん

  • 2021年01月19日
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プロフィール

伊東 道明(Ito Michiaki)さん

1995年中国北京市生まれ。2014年、理工学部応用情報工学科に入学。2020年3月、大学院理工学研究科修士課程(応用情報工学専攻)修了。2018年3月、IEEE CSPA 2018でBest Paper Awardを受賞。大学院在学中の2018年11月に同級生3人と株式会社ChillStackを設立。

最先端のAI 技術を実用化し、サイバー攻撃への不安を無くしたい

大学院在学中に研究室の仲間3人と設立したChillStackで、世界トップレベルのAIセキュリティー技術の研究・開発に携わる伊東道明さん。好きなことをやり抜くには、面倒なこと、苦しいこともいとわない覚悟が必要だと言います

AI技術で不正を見抜き、AIのセキュリティーを追究

従来のサイバーセキュリティーの基本は「絶対にやられない」ことでしたが、現在は防御と攻撃のいたちごっこ状態で、攻撃を100%回避するのは今や不可能です。そこで、AI(人工知能)技術を活用して、攻撃や不正を早い段階で検知する技術の研究・開発に取り組んでいます。

一方でAI技術は多大な可能性を秘めていると同時に、危険性もはらんでいます。従来のサイバー攻撃は、基本的にインターネット経由でなされますが、AIに対しては、例えばカメラに写る画像に影響を及ぼす細工を道路標識にして、制限速度の30キロを80キロと勘違いさせる手法などが考えられます。また、学習をさせる開発段階で不適切なデータが紛れ込むと、意図せぬ判断をするAIになりかねません。

日本にはAIのセキュリティーを専門とする研究者や企業がまだ少なく、各社がコストと手間をかけて対策に当たっているのが現状です。そこで、社会に安心・安全を提供するために、オンラインゲームやアプリを不正に利用しているユーザーをAI技術でいち早く検知するシステム「Stena」を提供し、AIセキュリティーに関する研究・啓蒙活動も展開しています。

設立メンバーは全員、彌冨(いやとみ)仁研究室の同級生。左から谷洋 樹さん、伊東さん、新井颯人さん、茶山祐亮さん。

設立メンバーは全員、彌冨(いやとみ)仁研究室の同級生。左から谷洋 樹さん、伊東さん、新井颯人さん、茶山祐亮さん。

大学で知ったセキュリティーの深さと面白さ

小学生の頃からオンラインゲームに親しみ、漠然とプログラミングやゲーム作りができたらと思っていました。情報科学部と理工学部のどちらを受験するかで悩みましたが、ロボットや機械など物との結び付きが強い印象のあった理工学部を選びました。

入学後は、やればやるほど広く深くなっていくプログラミングやネットワークの世界が楽しくて、一時は体調を崩すほど四六時中パソコン漬けの生活を送っていました。2年次からは、自分の視野を広げ、モチベーションを高めるために、「セキュリティ・キャンプ」※1に参加する他、他大学の学生と一緒に学生・若手エンジニアの団体「Cpaw(シーパウ)」を設立して、勉強会やコンテストなどの活動を積極的に展開しました。

小金井キャンパスで特に思い出に残っているのが、2年次の秋に図書館に設置されたラーニングコモンズです。ホワイトボードやスクリーンなどがあってグループワークに便利な空間ですが、まだ当時は利用者が少なく、勉強や開発コンテスト「Hack U」※2の準備、会社名の検討(Chillにはリラックスするという意味がある)にと、存分に活用させてもらいました。

4年次に、国際学会IEEE CSPA 2018で彌冨先生との共同研究を発表し、Best Paper Award(最優秀論文賞)を受賞した。

4年次に、国際学会IEEE CSPA 2018で彌冨先生との共同研究を発表し、Best Paper Award(最優秀論文賞)を受賞した。

二つの要素を組み合わせて自分の強みを生み出す

大学の学びに実用性を求める人が少なくないようですが、数学やプログラム理論など基礎知識となる「学問」と、ウェブサイト構築やゲーム作りなど個人的な興味や創造性を追究する「自分の学び」は別のもの。その二つの学びを結び付けて、自分の糧にしていくのが、本来の大学の学びだと思います。

エンジニアも同様で、専門技術だけでなく、それを生かせる応用分野を持つことが大きな強みになります。3年次の研究室選びでは、セキュリティーと組み合わせられる他の分野を学ぼうと考え、医療+情報工学の研究を専門とする彌いやとみ冨仁先生の知的情報処理研究室を希望しました。

この研究室には留学生が多くてグローバルな雰囲気があり、マシン環境も充実していて、学部・大学院の計4年間、かけがえのない時間を過ごすことができました。セキュリティー+AIという自分のテーマを確立できたのも、国際学会の発表で賞をいただけたのも、仲間と一緒に起業できたのも、すべてこの研究室のおかげです。

好きなことをやり通すには覚悟と我慢が必要

日本は、米国や中国に比べて、AI技術の実用化が遅れています。そこで、自らが研究界と産業界の橋渡し役となり、役に立つ、面白い技術を幅広く世の中に届けたいと考え、就職ではなく仲間と起業する道を選びました。

好きなことを仕事にしていますが、スポーツ選手が食事制限を強いられるように、好きなことを貫くには面倒なこと、苦しいことがたくさん伴います。やりたいことがあるのなら、学生のうちに一度思い切りのめり込んでみて、面倒な部分も含めて「好き」と言えるものかどうか見極めることをおすすめします。

世界中で研究が同時に進行する中で、最先端の技術を追い続けるのは大変ですが、社会の変化を先取りできることに大きなやりがいを感じています。世の中の人がセキュリティー対策に振り回されず、本来のサービス提供やものづくりに専念できるように、これからも研究とビジネスを両輪に好きなことをやり続けていきます。

 

(初出:広報誌『法政』2020年11・12月号)