お知らせ

総長から皆さんへ 第3信(4月20日) コロナブルー

  • 2020年04月20日
お知らせ

コロナブルー

いま教員たちは懸命に、皆さんにオンラインで学んでもらうための準備をしています。法政大学はずいぶん前から、学習支援システム(昨年度までは「授業支援システム」)によってネット上で授業の資料配布ができるようになっています。オンライン授業導入の準備も、進めていました。通信教育部が設置されていて、そこではすでに郵送ではなくネット上の授業もおこなわれています。しかし、全科目をいちどにオンライン化する事態が起こるとは、誰も想像していませんでした。それでも、なんとか新しい学びの方法を打ち立てようと盛んに情報交換しています。

その情報交換のなかである日、社会学部の金原瑞人先生が、集英社インターナショナルの公式サイトにある「コロナブルーを乗り越える本」 https://www.shueisha-int.co.jp/coronablue のコーナーを紹介していました。そこでは複数の作家が本を推薦しています。金原先生もそのおひとりですが、先生がとりわけ関心をもったのはパオロ・ジョルダーノ著『コロナの時代の僕ら』(早川書房)でした。

私もさっそく読んでみました。なんと、イタリアで感染者がどんどん増えていくそのさなかで、その事態を観察しながら自分の感じたこと、考えたことを、つづり続けているのです。日本語訳もすぐに出ました。印象に残ったのは、こういう言葉です。
「この時間を有効活用して、いつもは日常に邪魔されてなかなか考えられない、次のような問いかけを自分にしてみてはどうだろうか。僕らはどうしてこんな状況におちいってしまったのか、このあとどんな風にやり直したい?」
「僕らは、今からもう、よく考えておくべきだ。いったい何に元どおりになってほしくないのかを。すべてが終わった時、本当に僕たちは以前とまったく同じ世界を再現したいのだろうか。」

災難が去ったら元通りになるに違いない、と私たちは思ってしまいますが、ほんとうに以前と同じ生き方をしたいのでしょうか? 何かをやり直せるのではないでしょうか? そして同時にジョルダーノさんは、「コロナウイルスが過ぎたあとも、僕が忘れたくないこと」をいくつも書き綴っています。コロナ災禍のさなかで心にしっかりとどめること、この後にくる年月について考えること、それは各人各様です。自分にしか発想できないこと、自分にしか書けないことが、確かにあるのですね。

この「コロナブルーを乗り越える本」のコーナーで『コロナの時代の僕ら』を推薦したのはノンフィクション作家、佐々涼子さんです。私は佐々さんの本を何冊か読んできました。『エンジェル・フライト』は、海外で亡くなった方たちを国へ送り返す「国際霊柩送還」という仕事に迫った本です。最近では『エンド・オブ・ライフ』に感銘を受けました。佐々さんが「死」に向き合って書き続ける背後には、母上の病と看取りがあったことを知りました。

私たちは明るい楽観的な本だけで元気が出るわけではありません。「哀しみ」を読み、「哀しみ」を歌うことで、自分の哀しみから立ち戻ることができるのです。私の子供時代の童謡は哀しい童謡ばかりでした。「雨」「あの町この町」「かなりや」などは、今でも大好きな歌です。樋口一葉の作品にも、上田秋成の『雨月物語』などの古典にも、悲哀があふれています。感情をゆさぶられ、時には泣くことによって、私たちは救われます。

2020年4月20 日
法政大学総長  田中優子