お知らせ

卒業生インタビュー:公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 総務局 人事部 人事制度課 北川 祥大さん

  • 2020年08月11日
お知らせ

初出:広報誌「法政」2020年4月 ※インタビューは2020年2月に実施しました。

プロフィール

北川 祥大(Kitagawa Shodai)さん

1989年富山県生まれ。2013年3月に文学部日本文学科を卒業後、株式会社JTBパブリッシングに入社。その後、大学院人文科学研究科日本文学専攻修士課程を経て、一般社団法人 日本経営協会に入職。2019年4月東京都庁に入都後、公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に出向。

これまでに得た知識・経験を総動員し、 未知の領域に挑んでいます

東京都庁からの出向で、東京2020オリンピック・パラリンピックの組織委員会のスタッフとして大会準備に当たっている北川祥大さん。大学祭の経験や読書で得た知識が、現在の仕事にとても役立っていると言います。

大会の成功に向かって混成チームが日々奮闘中

1年前から、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会で、大会スタッフの安全衛生管理とダイバーシティ&インクルージョン推進を担当しています。この組織委員会は、国、都、地方自治体、民間企業、スポーツ団体などからの出向者が多くを占める混成チームで、私も都庁に入ったその日に出向を命じられました。

最初は、メンバーがそれぞれの出向元の利益を優先するなど、対立構造があるのではないかと懸念していました。ところが実際は逆で、スタッフ全員が団結して大会を成功させるという目標に向かって動いているダイナミズムを日々肌で感じています。

東京2020大会は一度きりのもの。どんなに検討を重ねても「正解」が見えないなど、未知のものへの挑戦には怖さもありますが、やりがいも大きいです。現在の職場は障がいのある人やさまざまな文化を持つ外国人も多く、日本で最もダイバーシティな環境だと感じます。その中で多様な考え方や違いに触れ、各企業・団体のダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みに関する知見を得られるのは、とても勉強になります。

ここで得た経験を大会後に私たちスタッフが元の組織へ、ボランティアの方々が地域へと持ち帰り、日本全体にダイバーシティ&インクルージョンのマインドが醸成されれば、インフラやスタジアムと同様に、東京2020大会の「レガシー」となることでしょう。

東京2020オリンピック・パラリンピックマスコットのミライトワ(左)とソメ イティ(右)が迎えるエントランスで

東京2020オリンピック・パラリンピックマスコットのミライトワ(左)とソメ イティ(右)が迎えるエントランスで

大学祭の実行委員会で身に付けた解決力

大学ではできるだけ多くの本を読み、創作も学びたいと考え、法政の文学部に進学しました。学部では根本昌夫先生から編集者の視点で、大学院では中沢けい先生から作家の視点で、文学や文芸創作、公共図書館の運営について教わり、読む力と書く力を培い、行政政策の基礎を学ぶことができました。

学業以上に力を入れたのが、大学祭(自主法政祭)の実行委員会の活動です。大学との交渉、参加団体との話し合いなど、主張が対立する場を数多く体験して身に付いたのが、交渉力と解決力です。A案かB案かを選ぶのではなく、それぞれの要求を取り入れたC案を作り、全員が損や譲歩だけで終わらないようにする「止揚」の考えにもとづくアプローチを心がけました。

そうはいっても苦労は多く、何度も実行委員会を辞めようかと思いましたが参加者や来場者が大学祭を楽しんでいる様子を目にするのが楽しみで、最後まで続けました。3年次に実行委員長を務めたこともあってか、卒業式の日にはキャンパスで多くの学生、教職員の方から「おめでとうございます」と声をかけてもらえて、それまでの苦労が報われた気がしました。

今の仕事は、安全衛生管理一つをとっても、職員の安全確保をはじめ、その先にいる競技会場や沿道の観客まで含めると数百万人という大勢の人の安全を考慮する必要があります。新型コロナウイルスへの対応もあり、その責任の大きさにふと不安を覚えることもあります。それでも、やっていけると思えるのは、大学時代の実行委員会で得たさまざまな経験があるからです。

大学祭の説明会の様子。壇上右が実行委員長の北川さん

大学祭の説明会の様子。壇上右が実行委員長の北川さん

本から得た知識を実践力につなげていきたい

これまでに約5000冊の本を読みました。人は一つの人生しか経験できませんが、小説を通じてならいくつもの人生を経験することができます。また、新書や学術書、専門書を読めば、断片的ではあっても、相当量の専門知識を得ることが可能です。内容をすべて頭に入れるのは無理でも、「あれに書いてある」と知っていれば、いつかどこかで役に立つものです。

本は「生もの」というのが私の持論です。書店に並ぶ「旬」の本のうち、面白そうと感じるものには、往々にして自分に不足している栄養(興味や知識)が含まれています。読んで損をする本はまずないので、学生の皆さんも興味を持った本はぜひその場で購入し、早いうちに読んでみてください。

最近、本で知った言葉の一つに「ブリコラージュ(寄せ集めて作る)」があります。これは、何かを作ると決めて必要な素材を集めるのではなく、自分が持ち合わせている物を組み合わせて新しいものを創造するという概念で、私が追究する知識と実践の融合に通じるものがあります。

東京2020大会は難しい局面を迎えていますが、大会の成功に向け、これまでに得た知識や経験を総動員して、未知の領域に挑んでいます。

出版社、ライター、大学院、そして行政コンサルタント、公務員と、いくつかの組織や業務を経験して、自分がぶれなければ、どの業界でもどの組織でも、活躍できると感じています。

組織委員会の仕事を通じて、「世界」というキーワードが私の人生に加わりました。大会後も、世界を意識して、文化や知識の普及・啓発に取り組んでいきたいと思います。

(初出:広報誌『法政』2020年4月号)