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法政大学診療所(市ケ谷キャンパス学校医・産業医) 鈕(にゅう)主任医師インタビュー:「ピンチは成長のためのチャンス!危機的状況を乗り越えるために、実践したい三つのこと」

  • 2020年05月19日
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法政大学診療所/市ケ谷キャンパス 学校医・産業医 鈕 培(にゅう ぺい)主任医師

生活習慣病や総合内科・産業保健医学の専門家として、東京大学附属病院、地域総合病院、企業ならびに法政大学診療所に勤務。最先端の医療・研究を行いながら、地域医療との連携、大学また企業の産業・健康保健管理に取り組んでいる鈕培先生。

学校医として、学生や教職員が健やかな大学生活を送るためのサポート役を担い、診療所のスタッフの協力のもと、世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスから身を守るための情報発信や健康相談などに尽力しています。

医療現場からの最新情報を入手し、先駆けて対策をスタート

感染力の強い新型コロナウイルス(COVID-19)が、世界中で猛威を振るっています。日本でも感染者の急増に伴い、不要不急の外出自粛を要請する「緊急事態宣言」が発出され、全国の学校で臨時休校措置が続けられています。

私は、2020年1月頃から、日本を含む世界的な感染拡大を警戒して日々最新の臨床情報・症例及び論文の収集に努めてきました。当時は、まだ新型コロナウイルスの正体や予防法、治療法について不明なところが多く、日本国内でもほとんど報道されていませんでした。幸い、私は中国出身で、日本と中国両方の医療を実践した経験があり、中国の専門家・欧米で仕事をする同期・師匠などと迅速な討論もできますし、普段英文の最先端の論文を読む習慣もあるため、早い段階から世界中の医療現場の事情を知ることができました。

情報を精査してみると、想像以上の深刻な状況に危機感を覚えました。このウイルスの感染力を考えると、世界中で感染が深刻化になることは時間の問題だと思われたからです。そこで、新型コロナウイルスの特徴や今までのウイルスとはどのような点が異なるのか、対応策として何ができるのか、症例と論文を分析し、手に入るだけの最新情報を集め、学内での情報共有を図りました。

知り得た症例はまちまちで、咳や発熱などの典型的な症状以外にも、下痢や結膜炎などの症状が出ている症例もあり、症状を認めなくても画像検査にてすでに肺炎とみとめた症例など多彩でした。その中で、海外で発表された論文などとも照らし合わせ、科学的に裏付けられた情報は、できるだけ速やかに診療所のスタッフ内で共有しようと、2020年1月下旬の早い段階で、診療所勤務の医師やスタッフに向けても、警戒を呼び掛けるメールを配信し、大学としての対応策を検討する準備を始めました。COVID-19への対応に関しましては、教職員や学生に「注意喚起」など積極的に発信・情報更新を努め、感染症への予防対策に対する意識の向上に工夫すると同時に、衛生委員会や危機管理対策本部会議にて、健康維持・学内感染対策、クラスター発生予防などについて、最新の情報及び科学的な根拠に基づいて段階的に提案しました。

後に、厚生労働省から医療関係者に向けて届いた通知は、先に入手した情報とほぼ同じものでした。ウイルス対策は、速やかな初動対応が重要なので、大学として先んじて対策に向けての準備を始めることができたのは良かったと考えています。

予想の付きづらいことが、新型コロナウイルスの怖さ

これまでも、深刻なウイルス感染症が世界を震撼させたことは、幾度かありました。例えば、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)により、免疫細胞が破壊され、免疫不全を引き起こすAIDS(エイズ:後天性免疫不全症候群)。感染力が高く、体内の臓器にダメージを与え、多くの人が肺炎などの重度な呼吸器疾患に見舞われたSARS(サーズ:重症急性呼吸器症候群)。どちらも、多くの人が苦しめられました。

今回の新型コロナウイルスは、SARSを引き起こしたウイルス(SARS-CoV)の姉妹種として「SARS-CoV-2」と名付けられました。ただ、肺をはじめとした体内の臓器にダメージを与えるSARSと、全身の免疫機能を衰えさせるAIDSの両方の性質を兼ね備えているのではないかという報告があり、医療関係者は警戒を強めています。

感染者の症状がまちまちで、傾向が予測しづらいことも、社会的な不安を招いています。ウイルスに感染しながらも、軽い風邪程度の症状で済む場合もあり、無症状のままで回復してしまう人もいたと報告されています。その一方で、重症化して高熱や呼吸困難に苦しめられる人もいます。発症から数日で容態が急変し、死に至ってしまった著名人のニュースには、多くの人がショックを受けたのではないでしょうか。

当初は、高齢者や基礎疾患のある人が危険だと言われていましたが、今では、若い人が重症化した例も報告されています。世界中で治療法やワクチンの研究が進められていますが、一人一人の病状に合わせて有効な治療法を確立ことは難しいことです。だからこそ、正しい情報に耳を傾け、正しく恐れる必要があるのです。

三つの生活習慣でピンチに負けない自立心を養う

感染症との闘いは長期戦です。今は間違いなく、誰にとっても先行きが不安な危機的状況でしょう。しかし、物事は必ず両面性があります。この危機は、自分を成長させるためのチャンスでもあります。厳しい局面をどのように乗り越えるかによって、これからの人生を強く生き抜くための自律性が実践的に鍛えられるからです。

ストレスフルな日常の中で、自らの心と体を健やかに保つためには、正しい情報に基づいて、自分はどこに向かうべきなのかを冷静に判断できるような自立心を育むことです。そのためのアドバイスとして、心掛けてほしい三つの生活習慣があります。むしろ、以下のような三つの習慣を作られる人こそ、この危機を乗り越えてウイルスと共に生きられる人であると言っても過言ではありません。

一つ目は、規則正しい生活習慣を身につけることです。夜更かしをして昼夜逆転生活を送るなど、不規則な生活習慣は、心と体のエネルギーを消耗させます。こういう時だからこそ、規則正しい生活を心掛け、健康的な生活習慣を身につけましょう。喫煙や適量を超えるアルコールの摂取などにも注意してください。とくに喫煙は肺機能にダメージを与えるので、ウイルス感染時に重症化するリスクが高くなります。また2週間禁煙するだけでも、肺機能の改善傾向を認めると最新の報告もあります。機会を捉えることで、危機をチャンスに変える例としては、いまこそ禁煙、また喫煙量を減らすための努力をすべきであると思います。

二つ目は、科学的にバランスのよい食事をとることです。朝食をとらなかったり、飲み物だけで済ませたりしていると、体づくりに必要な栄養を摂取することができず、免疫力低下、体調不良を引き起こすこともあります。1日3食を心掛け、栄養バランスなどを意識した食生活を習慣づけましょう。

三つ目は、安全意識を持ち、危険を回避する行動を実践することです。今回の新型コロナウイルスは、無症状だからウイルスに感染していないとは言い切れません。自分の体調を過信してうかつな行動をとることで、無自覚にウイルスを媒介し、感染を拡大させてしまう可能性があります。感染状況が落ち着くまでは、「密閉、密集、密接」の三つの密を避け、こまめな手洗いを心掛けるなど、「感染しない、させない」ための安全対策を講じ、自分と周りの人の身を守ろうという危機管理意識がとても大切です。

これら三つの行動を習慣化させることができたら、今回の危機を乗り越えるだけでなく、社会人としての資質も鍛えられます。とはいえ、自己管理は難しいものです。家族や友人と相互に励まし合い、助け合いながら乗り越えてもらいたいと思います。

心と体に不安を感じたら、診療所に相談

法政大学では、市ケ谷、多摩、小金井の各キャンパスに診療所を設け、病気の診断や治療、健康相談など、学生および教職員が健やかに大学生活を送るためのサポートに取り組んでいます。

例年であれば、春は学生の健康診断でにぎわっている頃ですが、今年は感染症の影響で大事な行事や予定が変更せざるを得ない状況を残念に思い、不安感や疲労感の蓄積で心身不調を抱えている学生もいると思います。心と体に不調を感じるなど、心配なことがあれば、診療所に相談してください。精神的なカウンセリングなどが必要な場合は、学生相談室など、学内の施設と連携を取り合いながらサポートします。

その他、生活上の注意やお知らせなどは、大学ウェブサイトの「診療所からのお知らせ」をご確認ください。学生や保護者の皆さんに少しでも安心して日常生活を送っていただけるよう、「今、何ができるか」という視点で、情報発信をしていきます。

毎日、新型コロナウイルスに関する情報にさらされ、自制しすぎて辛い場合は、読書を楽しむことをお勧めします。集中して本を読むことで、更に楽しい世界と出会い、精神的にも安定します。筋肉トレーニング、ヨガや体操など、家の中で軽く体を動かしてみてもいいでしょう。

学生のみなさん、持てる力を今こそ出してお互いに支え合い、充実した学生生活を思いきり楽しんでください。
保護者の方は是非暖かく見守ってください。もしご心配の時は、躊躇せず、情報共有をさせて頂ければ幸いです。

関連ウェブサイト

大学ウェブサイト内「診療所からのお知らせ」
https://www.hosei.ac.jp/campuslife/support/kenko_sodan/

大学ウェブサイト内「診療所利用案内」
https://www.hosei.ac.jp/campuslife/support/kenko_sodan/sinryo/riyoannai/

プロフィール詳細

法政大学診療所主任医師/市ケ谷キャンパス 学校医・産業医
鈕 培(にゅう ぺい)医師

ハルビン医科大学医学部卒業。中国医師免許、臨床医学専攻修士学位(循環器内科)取得。
1998年に文部科学省の奨学生として来日し、東京大学大学院医学系研究科を修了、東京大学内科学医学博士を取得。
信州大学医学部助手、ハルビン医科大学助教授を歴任、論文多数発表。2008年日本医師免許取得。現在糖尿病専門医、内科認定医、総合内科専門医、産業医資格を所持。
2010年法政大学多摩診療所嘱託医師に着任し、2012年からは市ケ谷診療所に勤務。2016年より主任医師(学校医、産業医)。
豊富な医療知識に加え、中国語、英語、日本語での対応が可能なため、学生や教職員から厚い信頼が寄せられている。