HOME > 法政大学について > 法政大学の歴史 > HOSEI MUSEUM > 2011年度 > Vol.19 法政大学図書館 所蔵資料 和辻哲郎文庫


Vol.19 和辻哲郎文庫

2011年09月21日

法政大学図書館 所蔵資料

和辻哲郎(顔写真)

『古寺巡礼』『風土』『倫理学』などの著作で知られる和辻哲郎(わつじ・てつろう、1889〜1960)は、大正・昭和期の日本を代表する哲学者・倫理学者・思想家です。日本思想史研究に基づいて構築された「人間の学」としての倫理学の体系は和辻倫理学と呼ばれ、西田幾多郎の西田哲学と並んで日本人による独自の思想体系といわれています。

1922(大正11)年4月、本学文学部の前身となる法文学部文学科・哲学科が開設され、後に学長・総長となる野上豊一郎と当時の科長安倍能成は、和辻哲郎をはじめ、森田米松(草平)、内田栄造(百閒)、小宮豊隆ら夏目漱石門下の文学者・哲学者を迎え入れます。和辻は古典文学・日本思想史・文化史を担当しますが、3年間在職した後、京都大学に招かれて東京を去ります。その後、ドイツ留学を経て東京大学教授となった翌1935(昭和10)年から37年までの間、再び本学で倫理学概論を担当しました。

和辻文庫。洋書では著名哲学者の全集や主要諸著作、研究書が多い。和書では仏教や国史・国文学関係の大部の叢書が目立つ。貴重な文献が少なくないが、稀覯本や豪華本は少なく、普通の刊行本を研究本位に利用していたことがわかる。

和辻文庫。洋書では著名哲学者の全集や主要諸著作、研究書が多い。和書では仏教や国史・国文学関係の大部の叢書が目立つ。貴重な文献が少なくないが、稀覯本や豪華本は少なく、普通の刊行本を研究本位に利用していたことがわかる。

こうした本学とのかかわりもあって、和辻の死去(1960<昭和35>年)の翌年、蔵書を散逸させたくないという照夫人の願いと、友人の谷川徹三(後に本学総長)のあっせんにより本学に譲渡された和辻の蔵書が「和辻哲郎文庫」です。

文庫の内容は、和書3151冊、洋書1521冊、和雑誌20種103冊、洋雑誌15種53冊。和洋書のバランスが保たれ、和洋書ともに哲学を中心に、宗教・歴史・社会科学・芸術・文学などの各部門にわたっていて、和辻の研究範囲の広さと関心の多様性がうかがわれます。

Thomas Hobbes, Leviathan (Everyman's library) p.66-67。イングランドの哲学者トマス・ホッブスの国家論の主著『リヴァイアサン』の原書への、赤鉛筆を使った細かな書き込み。

Thomas Hobbes, Leviathan (Everyman's library) p.66-67。イングランドの哲学者トマス・ホッブスの国家論の主著『リヴァイアサン』の原書への、赤鉛筆を使った細かな書き込み。

木村泰賢『原始佛教思想論』(丙午出版社、大正11年)p.78-79。「コノ考ハ極メテ不徹底。」などの評語の書き込みが読み取れる。

木村泰賢『原始佛教思想論』(丙午出版社、大正11年)p.78-79。「コノ考ハ極メテ不徹底。」などの評語の書き込みが読み取れる。

特に稀覯本や豪華本が多いわけではありませんが、和辻文庫の最大の特徴と価値は、多くの書物に和辻による多数の「書き込み」がある点です。多くが鉛筆による書き込みは、傍線や符号、要約、疑問、評語、あるいは表紙裏に書かれた短い献詞や記念の辞などさまざまですが、全巻にわたって精読の跡を示す書き込みがある洋書もあって、和辻の読書と研究の仕方を直接示すものとして大変に貴重です。また、しおりの代わりに挿入された紙片や葉書、書簡、電報なども含まれています。

これらの書き込みはまだ十分に検証されておらず、多数の研究者による長期間の研究が必要といわれていますが、今後の和辻研究の貴重な資料となることは間違いありません。 

和辻文庫には、友人の谷川徹三が和辻に贈ったと思われる自著『調和の感覚』(中央公論社、昭和33年)があり、表紙裏に「婦人雑誌にのせたものが大部分でお目にかけるやうなものではないのですが」と書かれた紙片が添付されている。

和辻文庫には、友人の谷川徹三が和辻に贈ったと思われる自著『調和の感覚』(中央公論社、昭和33年)があり、表紙裏に「婦人雑誌にのせたものが大部分でお目にかけるやうなものではないのですが」と書かれた紙片が添付されている。

同じ漱石門下の鈴木三重吉が贈ったと思われる『赤い鳥』の合本(1918〜1936)32冊。和辻は東京帝国大学哲学科在学中に谷崎潤一郎らと第二次「新思潮」を創刊するなど文学活動をしている。和辻の文章が文学的味わいのある名文といわれるのはそのためだろう。

同じ漱石門下の鈴木三重吉が贈ったと思われる『赤い鳥』の合本(1918〜1936)32冊。和辻は東京帝国大学哲学科在学中に谷崎潤一郎らと第二次「新思潮」を創刊するなど文学活動をしている。和辻の文章が文学的味わいのある名文といわれるのはそのためだろう。

参考資料:桝田啓三郎「和辻哲郎文庫」(雑誌『法政』1976年12月号所収)、濱田義文「和辻哲郎文庫について」(同1989年6月号所収)、「法政大学百年史」

※辻は旧字の「