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卒業生インタビュー:フェンシング エペ 日本代表 見延 和靖さん

  • 2020年03月03日
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プロフィール

見延 和靖(Kazuyasu Minobe)さん

1987年福井県生まれ。福井県立武生商業高校でフェンシングを始める。2006年、スポーツ推薦入試で法学部政治学科に入学。2011年、卒業後にNEXUS株式会社に入社。2016年リオ五輪男子エペ個人戦で6位入賞、2019年男子エペ個人戦で年間世界ランキング1位となる。

日本発の新たなセオリーでフェンシングをさらに進化させたい

昨シーズン、「キング・オブ・フェンシング」と呼ばれる種目・エペの個人で、日本人初の年間世界ランキング1位に輝いた見延和靖さん。自分がより強くなり、フェンシングをさらに進化させるためには、既存の理論にとらわれない新たなアプローチが必要だと言います。

駆け引きが醍醐味のエペ 闘争心と冷静な目で相手に挑む

北京五輪以降、知名度が上がったフェンシングの中で、「エペ」という種目を専門にしています。

日本でメジャーな「フルーレ」は、得点になるのが胴体への攻撃だけで、攻撃には優先権があります。一方エペは、頭の先から足の裏まで文字どおりどこを突いてもよく、先に突いた方に点が入る、同時に突いたら両方の得点になるなど、ルールも単純明快です。

一瞬の間合いが勝負を分けるため、試合では構えるタイミングや目線によるフェイントなどの駆け引きが重要で、それがエペの醍醐味となっています。ゼロから一を生み出すときや、試合の流れを変えるときには、強い闘争心が求められますが、それだけでは攻撃やタイミングが単調になってしまうので、試合で勝つためには、一歩引いた冷静な目を持つ必要があります。

フェンシングは決闘をルーツとするスポーツで、その背景には騎士道精神があります。私は空手の経験もあり、常に深い懐をもって競技に臨むことも意識しています。

2019年5月の男子エペグランプリ大会の準決勝戦。左が見延さん。

2019年5月の男子エペグランプリ大会の準決勝戦。左が見延さん。

法政のオレンジの血でフェンシングの才能が開花

高校でフェンシングを始めたときから、名門校である法政を目指していました。実は、市ケ谷総合体育館にあるフェンシング道場は狭くて、本来より短いピスト(試合場)しかありません。それでも、全国大会でタイトルを勝ち取れるのは、長年受け継がれてきた「オレンジの血」、つまりOBやOGのサポート、法政フェンシング部メンバーとしての誇りがあるからです。

この環境のおかげで、私にも強くなりたいという意識が芽生え、練習への取り組み方が変わりました。在学中に国内の五大大会をすべて制覇しましたが、特に忘れられないのは、仲間と一緒に勝ち取った4年次の全日本選手権の団体戦優勝です。あこがれの存在だったOBの西田祥吾さんに逆転勝ちをして優勝を決めた瞬間は、うれしさのあまり、体が宙に浮いたようでした。あれほどの達成感を味わったのは、後にも先にも一度きりです。

仲間と勝ち取った全日本選手権の団体戦優勝は、今も「人生最高の瞬間」(左が見延さん)。

仲間と勝ち取った全日本選手権の団体戦優勝は、今も「人生最高の瞬間」(左が見延さん)。

自分の殻、日本の殻を破り、大きく成長した4年間

フェンシングは大学までで一区切りと考えていましたが、国内大会で優勝を重ねるうちに迷いが出てきました。これだけ多くのことを学んだフェンシングにピリオドを打ってもいいのか。世界で戦っていく覚悟が自分にあるのか……。そこで、2単位を残して卒業を1年延ばし、フェンシングを続けながら、将来について考えました。

そこで私が出した答えは、「フェンシングの魅力をもっと世の中に知ってもらいたい。そのためにもオリンピックに出場してメダルを取る」でした。

社会人チームに所属し、ナショナルチームの練習にも参加するようになりましたが、ロンドン五輪の日本代表には選ばれず、身体的能力と才能だけで乗り切ってきた自分の甘さを思い知らされました。このままでは、4年後も同じ結果になると思い、自分に不足している点を書き出し、人生で初めて長期計画を立てて、リオ五輪に向けて新たな一歩を踏み出したのです。

エペの技術に磨きをかけるために、よりレベルの高いイタリアへ武者修行にも出向きました。そこで驚いたのが、たとえば前進するのに、日本では先に前足を出すところを、イタリアは後ろ足を引き付けるなど、まったく逆の理論や指導方法があることでした。

長期計画の成果で総合的にレベルがアップし、リオ五輪で個人戦の出場・入賞を果たせたことで、個人戦はもちろん、団体戦でもメダルを取りたいという思いが一層強くなりました。今よりレベルを上げるには、世界の限界値を超える必要があると考え、どこにもない新しいアプローチを模索中です。幸いエペの日本代表メンバーは個性派ぞろいで、既存の枠にとらわれない視点や意見に事欠きません。既存の理論と日本発のセオリーを融合させて、フェンシングの新たなスタイルをつくり上げていけたら何よりです。

真剣に取り組んでいれば小さなチャンスも見逃さない

人生の幅は、好奇心の幅によって広がると思います。大学時代は、その幅を広げるのに適した時間といえるので、ぜひ有効に活用してください。

チャンスは、誰にでも平等に与えられていて、大切なのはチャンスに気付けるかどうかだと思います。何かに真剣に、全力で取り組んでいれば、その時点では成果に結び付かなくても、アンテナが敏感になって、小さなチャンスも見逃さなくなるはずです。

私も、少なくともあと10年は選手としてフェンシングにまい進し、自分の幅、そしてフェンシングの幅を広げていきます。

見延選手本人のコメント、最新情報を発信しています。

(初出:広報誌『法政』2020年1・2月号)